24「キス十六回目、新たなキスの契約その一」
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七月三十一日
取り引き十六回目
猛暑が直撃中の学園生徒会室。元々は物置部屋だった為クーラーなんて気の利いたものなんてない。だから我が家より持参した自慢のコレクションたる、いなせな祭マークうちわと骨董品なレトロ扇風機が最後の希望。
されど、昭和レトロ電化製品より繰り出されるコントロール曖昧な熱風が会長のスカートへ当たりめくれそうでめくれないから、平然を装い隠密行動してる俺の眼球が忙しかった。
例によって生徒会長と臨時庶務の二人っきり。神聖な学び舎で若干不道徳な行いをしようとも、役職が幸いして不審がる生徒はいない。ただし、俺はこの通り悪い意味で有名なので、この先も状態を維持できるかは難しいところ。
「こほん、ではこれより取り引き最後の接吻を執り行う」
「ははっ、そんなに仰々しくする必要はないぞ。………神無月、色々あったがひとまずこれで一区切りだな。迷惑を掛けた」
頭を下げて微笑む会長。酷暑を耐えているのか汗ばんでいた。黒髪ロング&姫カットなので傍から観察するとしんどそうだな。
「もういい、終わったことだ。でも思い込みが激しいのは直したほうがいいぜ。あんたの彼氏や旦那さんになるやつが可哀想だ」
「然り。臨時庶務の忠告、ここは最大限善処しよう」
反省として今回は俺側にキスする権限を与えてくれる。会長に任せたら七月最後だと抜かして、何をしでかすか皆無だからありがたい。
昔から夏は女を大胆にするという迷信があるから油断するなかれ。ただの義務でも作業でも学園内はリスクある行為を避けるべきだ。
サウナ室となりつつある茹だる生徒会室で俺は会長へ跪き手の甲にキス。もう汗の味を覚えてしまった俺は変態なのだろうか?
当初の取り決めだと一度したところはNGだったが、もうここまであやふやになったら強制力もないだろう。
ここにした理由も一番最初にやったので印象深かったからだ。
「傅いてキス、最初はそれどころではなかったが、改めてトライしてみると羞恥プレイだな……。さしずめ中世ヨーロッパの騎士か」
「神無月、板に付いてきたな口付け。紳士的で堂々としたものだ」
「人前ではやりたくないし、こんなもん慣れたくない。大体途中から会長からしているから経験値はそちらのほうが上だろ?」
「それは仕方ない。暫く経っても神無月は慎重というかうぶ過ぎて一向に腹を括らないから悪いんだ。だから七月最後だし男らしく大胆に迫ってくると覚悟を決めていたが初志貫徹貫いて驚嘆したぞ」
今回会長と俺は大量にコピーした複数の紙を番号通り組み上げ小冊子制作中。文化祭用配布パンフレットだ。
残念ながらコタツと鍋焼きうどんはないが、我慢大会みたいな高い温度の個室で堪えながら忍耐強くせっせと製本する。
なのでわざわざ口づけするためにこんな蒸し暑い場所へ閉じ篭っているわけじゃないのだ。
「うるさいわ。男はみんな狼だと思うなや。俺は硬派だからそんなかっこ悪いことはしねぇ」
「おや、神無月は少し不機嫌かい?」
「そんなもん、会長の大きな胸に手を当てて考えてみろ」
「ああ、なるほどな。契約が合意なしで更新したから抗議したいわけか……。相変わらず風貌は欲望に忠実なウェーイ系のクセしてガチガチな日本男児だ」
本当に手を胸に置くあたり流石天然。
制服のシャツが汗で透けて大き目なブラを晒していた。それでも隠さずに威風堂々としているのは王者の風格。たまに羞恥心あるのか疑ってしまう。
「俺は約束した以上必ず長野と上手くいくようにバックアップを保証する。だから、これ以上馬鹿な自己犠牲はよせ。好きでもない相手に身を削ることはやめろ。会長のこと本気で心配しているんだ」
「神無月ありがとう。協力してくれることに僕はとても感謝しているんだ。その対価を支払うことになんの躊躇いもないし、これは君にした仕打ちへのけじめも入っている。どうか受け取ってほしい。大体嫌いな奴にこんな提案はしないよ」
「それって?」
「生徒会唯一の大事なパートナーだ。少しぐらいは信用するさ。それにどこかなつか——」
会長は何か言いかけるもそれを遮って、力を込め過ぎたホチキスの音がリズミカルに鳴り響く。
「やれやれ少しか……。まだ嫌われたままかね。ろくな風評しか流れてないから仕方ないけどな……」
『リュウセキドウガボヤクトオリ、キキシニマサルドンカンダナ』
「なんか言ったか?」
「いや、君がチャラ男のくせに頼りがいがある男と賞賛しただけさ」
嘆息をつく会長。
それはそうか。表面上は和解した体を取っているが、そんな簡単に割り切れるものでもない。
これだって便利な使い捨てとしては役に立つという意味だ。驕るなかれ。
なのでここは、よせよ照れるぜと社交辞令で返礼。
「それはそうと会長、昨日は悪ふざけも入ったので今後の確認だ」
「僕をサポートしてくれる見返りにキスをする。ただし無制限何回やってもオッケー。僕の感謝の気持ちが形になるんだ。どうだ、たぎるだろ?」
「へいへい。天下の女帝様へ再び接吻する権利を得て嬉しゅうございます」
「ふむ、気持ちがこもってないが良しとするか」
頷く会長。汗でプリント用紙が滲む。その瞬間、会長は俺が首に巻いている使用済みタオルを引っ張り躊躇いもなく汗を拭った。暑さで頭の回転が落ちているのか?
その証拠にいつも通りのいい匂いだとか抜かす。頭のネジが飛んだに違いない。
「全然嬉しくねぇんだ、仕方ないだろ?」
「でもな、これ以上過激なこと要求すると君はまた逃げる。なら無難なところで手を打つのが得策。期限は完了するまでと言いたいところだが、それだと神無月の身が持たないだろ? ということで妥協して八月一杯だ。それに無制限と明記しても君なら制御できるとふんでの采配さ」
「それでも十分拷問だ。なら速攻で会長と長野をカップリングして手早くこの地獄から開放させてもらうぞ」
「……本当に嫌なら無理しなくていいんだぞ。僕だけでなんとか頑張ってみるさ」
「うっせえな、もう何もいうな。これは新たな取り引きだ。あんたがそうしたいのなら俺は従うまでだ」
「うん、了解だ」
会長のあまりにも寂しそうな顔に思わず了承してしまった。
俺は相変わらず女に弱い。それに覚悟を決めて俺へサポートを求めてきた。これに応えなくて何が硬派だよ。
「悪いようにはしねえよ」
「それで具体的には何をするんだ?」
「まだそこまで深く考えがまとまってない。とにかく会長を異性として認識するように仕向けるのが目下のミッションだ」
「難しいと思うぞ。僕も何度かトライしてみたんだが反応なしだ」
「どんなことを?」
「いつも誕生日にこった料理作ったり、本命チョコあげたり、添い寝してあげたり、耳掻きしてあげたり、膝枕してあげたりだな」
おいおい、畏敬の象徴である女帝に日常的にそんな羨ましいことをしてもらっているだと? 狂信的信者が多い全校生徒へ暴露したら間違いなく長野なぶり殺しにされるな……。




