1「ロンリーウルフの不良チャラ男は友達が欲しい」
七月十五日
「外は岩盤浴のような暑さだな……」
と汗を拭いながら毒づくほど気温が中々高め。
まだ梅雨明け直後なので肌がじりつく。
ロウリュウの熱波師が俺専属で扇いでくれている気分だ。
今日は縁結び神社による祭りの日。
当たり前だがカップルが多い。
ラブラブなのはいい事だが、たかがそんなことでいちいちイベントに参加させられたら俺なら恥ずかしくて死ぬレベル。
神様も迷惑だろうよ。
何故絵馬の願い事を叶えなければならない?
そんなもんはてめえでなんとかしろ。
なので世間は年に一度のイベントで大いに湧いているが、リア充の催し物で基本孤独な俺こと神無月 雪之丞が抵抗可能なのは毎年七夕の短冊に、『天よ俺に七難八苦を与え給え』とひねくれることぐらいだ。
素直に友達くださいと願えないのはツンデレ世代のなせる御業。
そんな俺の執念を聞き届けたのか、それとも呆れたのかついに手に入れた入手困難、伝説の友達攻略兵法書『孫氏で学ぶ友達無双』。
なので間違っても売れないから廃版になっただけと指摘しては駄目だ。
孫氏曰く、敵を知り己を知れば百戦してあやうからず
このリア充フレンド青春戦線で生き残るには、まずは自分を再確認しろってことか。
なるほど……なので軽く自己紹介だ。
俺は埼玉県私立白川桜華学園の二年生。
硬派に全振りしている普通の男子高生だ。
ただ海外にいたせいで留年しているので同級生より年齢は上。
お陰で不良先輩などと後ろ指さされる。
悩みは何故か友達が出来ない事。
原因は理解している。
俺が学校側から不良のレッテルを貼られているからだ。
本当はただの不器用なロンリーウルフ何だけどな……。
あと狂犬のような見た目。
両親から受け継いだ金髪と褐色の肌がクオーターたる我が誇りなのだが、それを止めろとか校則に従えなど指導された。
でも不良、ヤリチン、何度風評被害受けようとこれだけは貫く。
一学期もクライマックス。
世間一般の学生達もカレンダーと本気でにらみっ子しだした頃。
めげるつもりは毛頭ない俺は、友達百人計画を胸に秘め高校の夏をお一人様で過ごさない為色々と計画立てていた。
それは――
「今年こそ俺は人気者の陽キャラリア充になりたい」
日が照りつく中、神社にある広いオープンテラスに点在するサンルーフ無しテーブルへ陣取る俺は何処ぞの総司令ポーズで時期外れだが抱負を告げる。
「いやー、基本学生ライフを生き抜くのが下手くそなゆきちゃんじゃどんなに頑張っても俺ら以外友達なんてできないんだから諦めな。外見が人相の悪いワルなんだからさ」
「そうそう。そんなひねくれた皮肉な願い事絵馬にまで書いてないで、わざわざ年一回の神社主催古本市へ付き合ってあげたんだから帰り道の駅の蕎麦ぐらいおごりなさいよね雪之丞⁉」
高名な神社で絵馬をそれぞれ括り付けているこいつらは唯一の友人達。
上杉 流星。
銀髪にピアス、俺に負けず劣らずの不良ルックだが、これでもお寺の一人息子で檀家さんに人気だとか。
こんなんでも学園優等生なんだから世界は間違っている。
見た目チャラ男で女子にモテるリア充。
一方、基本道の駅なら何処にでもある麺類を御所望な友人Bこと竜石堂 漆葉、通称お竜。
色々あってつい最近幼馴染みだと発覚して今に至る。
元バスケ部のエースだ。
今は退部して暇を持て余している。
背が高くボーイッシュだがこれでも女子。
ココらへん突っつくとキレるので禁句だ。
お竜は彼氏と別れたばかりで部活仲間と遊びほうけている。
要はこいつもリア充。
「部活辞めたんだから今の大食漢だとデブるぞお竜」
「竜石堂ちゃんにそれは駄目だゆきちゃん。念仏はただであげてやるから成仏してくれ」
「やるんかこら!」
いたた、殴ってから聞くなお竜。
「だからリア充たるお前達の力を借りたい。イケメンはぐれオークキングと揶揄されるのはもう沢山だ。一度でいいから大勢の仲間とパーティーをやってみたい、カラオケも行きたい、ボウリング もやってみたい」
「無謀な夢だな、ゆきちゃんらしいけど」
「うう、かわいそう」
「偉い言われようだな……。流星とお竜は幼馴染みとしてもっと気を使おう。わざわざこんなとこまで来たんだって友達作りのリサーチも兼ねているんだ」
「調べたところで何かがつかめるとは到底思えないんだが」
「雪之丞って上杉君と違ってカリスマ性がないからねー。超良いやつだけど」
そんなことはわかってる。
余計なお世話だ。
そんなもんがあったら学校中からこんなに敵対心を持たれてないわ。
「なのでセッティングをしてくれると嬉しい」
「無理。ゆきちゃんの話をすると逃げて行くんだよね。それと俺女の子としか仲良くないよ」
「雪之丞が狙ってるのは同性の友達でしょ? 女子にモテる私に話をしてくる時点で間違っているよ――ってか、ジェラートはいいけどコロッケはチョイス的にどうなのさ?」
ここまで付き合ってもらったお礼に二人には道の駅名物、ジェラートとコロッケとを奢る。
なのに文句言うとは……分かっていないな。
ここのコロッケはその場で揚げてくれるんだぞっと。
「陽キャラリア充のくせにお前ら役に立たねえな……」
「なあなあ、ならさあ生徒会長とか意外といけるんじゃね?」
「え? 雪之丞に攻略可能な女の子なんているの? 学校みんな狡猾な性犯罪者だとガチで信じているけど」
「生徒会長か。確かに知り合いだが俺が欲しいのは野郎のダチ公なんだ」
「贅沢述べている場合じゃなくない? 何事も可能性があるなら取りやすい駒から行くのがセオリーじゃないかな?」
「ほうほう、上杉君はショートケーキのイチゴだけ先に食べちゃう派なんだねぇ。ドラゴンよりスライム、ステーキよりポテチみたいな? 私は慎重に行動するべきに一票だけど」
怖がれいつもクラスで浮いている俺に、
『やあ神無月おはよう』
臆することなく笑顔で気さくに挨拶する女子。
鹿伏兎 乙環、真面目で、優しい学園の生徒会長。
もしかして友達になるチャンスがあると思った時期もあった。
「…………」
「可能性あるんじゃないの?」
「実践してみれば?」
「残念ながら手遅れだ……」
「なぜ?」
「?」
実は――と辿々しく白状。
『——よう会長』
『やあこんにちは神無月』
にこやかに笑顔を振りまく少女。
三年の先輩だ。
クール系の大人びた雰囲気がある。
長い黒髪が風で流れていた。
『神無月何か用なのか? 今日は生徒会からの依頼はないぞ』
『別件だ』
数日前、昼休みの屋上。
屋根がない屋上は炎天下の中、昼食とるのには不向きであったが、ある女子が日陰でランチをとっていた。
鹿伏兎生徒会長。
威風堂々、公明正大、質実剛健、絵に描いたような中高一貫校を支配する女帝。
真っ直ぐに目を見て話すタイプなので陰キャの俺は苦手意識があった。
『はて、何だろうか』
『へっへっへ、よう会長さんよ、俺と付き合ってくれないかw(友達として)』
たかが友達申請に夜寝付けなくて興奮していた。
ただ俺は何十回もイメトレしてセリフのカスタマイズし過ぎ、事の重要性に気づいてない。
『すまないな、申し出は有り難いが僕には想い人がいる。それに君のような社会不適合者と関係があると噂されると困るんだ。あと笑顔が不気味で怖い』
『え? え? いやいや、まてまて、そういういみじゃ……』
生徒会長の屈託のない営業スマイルで拒否られた俺はショックを受ける。
「――ってな風に特攻して断られた。流星にアドバイスもらった通り、いつも笑顔でフレンドリーを実践しただけだぜ」
「ははは……呆れた。なんで肝心な時だけ不審者&口下手になってしまうんだよゆきちゃんは? しかも札付きの不良というレッテルを貼られているのが手伝って難易度が高いのは分かっているのに。可哀想に会長さんが……恫喝されている気分になったんだろうな」
「会長なら良い人だから受け入れてくれると雪之丞は目算立てていたわけだねぇ。はぁ……狸の皮算用。しかも偶然でも僕でさえ言われたことないのに告白するなんてバカ……ゴモゴモ」
最後だけお竜が呟いているのを聞き逃した。
「というわけで、俺は更に研鑽を積むべくネットの情報を頼りに伝説の参考書をここまで探しに来たというわけだ」
「こんな役に立つかわからない本の為にわざわざこんな遠くまで来たのか……」
「ツーリング楽しかったから良かったけど、目的はしょうもなく不毛だね」
幾らでもなじってくれ。
友達百人計画完遂する為なら悪魔にでさえ魂を売ってやるさ。
「遠出というものは目的より過程が楽しもんだ」
「俺のバイクに竜石堂ちゃん乗せたかったんだけどなぁ。ああ背中にあの巨乳のにゅう圧感じたかった」
「うわ、キモ! 絶対ヤダ! 上杉君坊主のクセして煩悩隠さないから。雪之丞のサイドカーついていて良かったよ」
「妹用に買ったんだよ。まあ……無理矢理突き合わせて済まない。日帰り温泉に寄るからそれで手を打ってくれ。岩盤浴もつけてやる」
「おお、いいなそれ。スーパー銭湯」
「雪之丞、混んでるところは勘弁だよ。私まだそれなりに顔が売れてるから」
お竜は一流スポーツ雑誌にも掲載されたことがあるので知名度があった。
なら有名温泉地がいいな。
旅館が空き時間で開放しているから意外と客がまばらなんだ。
スーパー銭湯より安い料金で土日祝以外ならほぼ貸し切り状態を味わうことが可能。




