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プロローグ「体を許しても心だけは許すものか」(乙環サイド)

 七月十五日


「ふむ、取り敢えず君は僕のおっぱいを揉むがいい」

「……え?」

「………………」

「………………」


 僕こと鹿伏兎かぶと 乙環おとわは埼玉県にある白川桜華学園三年生。

 もちろんスカート履いているので女子のカテゴリーに入る。

 男の子でもいるかもしれないが、今はそんな討論している暇はない。

 もちろん痴女でもビッチでもない。


 本格的な夏に差し掛かり青春を謳歌するつもりだったが、何故か好きでもない男とカラオケボックスへ来ていた。


 室内は歌う事に特化しているので比較的暗所だ。

 基本プライベートでは近眼眼鏡キャラなのでテレビ画面の明かりだけでは心もとない。

 それでなくても男と女、二人きりだといつ間違いが起こるかわからないけど、緊急事態なので大事の前の小事。


「おいおい生徒会長、俺をこんなところへ連れ込んでナニする気だw」

「白々しいな神無月」


 神無月かんなづき 雪之丞ゆきのじょう

 知らない生徒は誰もいない学園で悪さを重ねる札付きの不良で、女を快楽を得る道具程度にしかみてない最低ヤリチン男。

 一度狙った女子は必ずどんな手を使っても手中に収める。

 噂ではバスケ部のエースも毒牙にかけたとか。


 弱みを握られたら破滅すると警戒されているのに、何故こんなデンジャラスな男と二人でいるのか?

 もちろん正統的理由がある。


「何のこと言っているのかさっぱりだw」

「僕の働いている姿を目撃しただろう?」

「ああ、その事かw」


 交渉術に長けているのか、肝がでかいのか、馬鹿にされているのか、神無月はポテトと飲み物を頼む。

 ほほう、こういうの場数的に慣れているんだね。

 勉強になる。


「ぬかった。まさかこんな遠くで知り合いに出くわすなんて……」

「俺はプライベートに口を挟む気はないけど、なんであんたが酒場で働いているんだよ? 深夜の飲食店は学園生がバイトできる場所じゃないんだぞw ましてや泣く子も黙る白川桜華学園、天下の生徒会長様が。歳を詐称してまで深夜手当が欲しいのかよ」

「そこは黙秘する。それなりに理由があるのでね。大体学園と世の中に迷惑ばかりかけている不良が僕に説教かな?」

「理由ねぇ、バレたら学園に多大な迷惑を被ってまでする理由かw」

「……………」


 正論過ぎて言い返せなかった。

 でも問題児の神無月に打ち明けるほど器はでかくない。


「このままじゃあんた破滅だぞ」

「ぬっ……」

「起死回生する方法がないわけでもないがなw」


 神無月はスマホを取り出す。僕は何が言いたいのか察する。

 写真に収めている画像と引き換えに僕を揺する気だ。

 でも、僕には取引に応じるほどお金がない。ならーー


「………………」

「俺をたよーーまて、生徒会長なぜ脱ごうとしているw」

「それも僕に言わせるのかい? ここまで用意周到にお膳立てしておいて。何処までが君の計画のうちなのかな。胸揉むで妥協しないとは理解に苦しむ」


 何処までも卑劣。

 役目柄交渉慣れしている僕がここまで一方的に追い込まれるとは……。

 もし警察沙汰になっても切り抜けられるように向こうからは一切アプローチはしてこない。

 

「生徒会長の頭は青カビが繁殖しているんじゃないか? 俺は同じ学生として注意しているだけだぜw」

「仕方ない。僕はどうなっても構わない。だからどうかこのことは内密にしてくれないかな?」


 僕は下着だけになり土下座した。

 これで誠意が伝わったとは思わない。

 でも何もやらないよりはマシ。

  

 よく聴こえないけど神無月は何か喚いているが、ろくな事じゃないんだろうなぁ。


「こんなので俺が納得できるとでもw」

「足らないかな? でもこれ以上は思いつかない。よしこうなったら僕の脱ぎたてパンツを贈呈しようではないか」

「いらねーわ! とりあえず服を着ろw 従業員が来たらことだ。笑い話じゃすまないぞ」


 表情はよく見えないけど酷いゲス顔で笑っているに違いない。

 絵に描いたような金髪、褐色、イヤリングのチャラ男。

 愛読の少女小説では定番の展開。

 ホテル直行は決定だろう。

 初めてを散らすのがこんなゲス野郎だと悔し涙が出てくる。

 けど家族とか友達に迷惑掛けられないからこれは最善の策。


 もし駄目ならあとは奴隷契約しか思いつかない。

 でも、僕にはお金が必要だ。

 これからも続けていくのならこの男に黙認してもらわないと。

 僕は涙をこらえ交渉。

 何とかここをやりきって身の保証を手に入れないと。


「それなら僕と一晩寝てくれ。それで黙っていてくれないかな? 生徒会長のヴァージンを貫けるチャンスだぞ」


 一回相手をしてそれを口実に対等になる。

 まあ既成事実なので睡眠薬飲ませるけど。

 これならワルの神無月にも対応できるはず。


「それなら友達になってくれw」

「セフレ? 君はケダモノだな。仕方がないか……」

「違う! 馬鹿野郎、普通のだ」

「何の冗談だい? もしかしてこの前交際の申し込み断ったのを根に持ってるのかい?」

「何でそうなるw」


 何を考えている? 

 僕と友になって神無月になんのメリットがあるのか?

 絶対裏があるに違いない。


 さては僕に悪事の片棒を担がせる気か? 

 そしてどんどん引き返せないところまで闇に落とされているんだ。

 昨日交際を断った腹いせでこんな狡猾な罠を張り巡らせたに違いない。


 もう僕はこの巧妙な蜘蛛の巣から逃げ出せないんだね。

 でも諦めない。

 体を許しても心だけは許すものか。

 快楽に身を任せても僕は耐えてみせる。

 愛読している想い人を忘れて身近な人間に乗り換える少女マンガの尻軽ヒロインみたいにはならないよ。







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