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2「カラオケボックスにて美少女生徒会長と不良チャラ男の密会その一」


★☆


 もう外は暗い。

 高速のサービスエリアに寄り道したせいで良い子ならもうスリープしている時間だ。

 あの後、約束通り十分に温泉で寛ぎ、日頃の心労を回復させ我がホームグランド埼玉へ戻る。

 暮れなずむ山頂から望む露天風呂は最高だった。

 山奥にある田舎の温泉地だったので混浴風呂が多かったから男女別温泉を探すの大変だったけどな。

 流星と別れお竜を家に送った帰り道。

 今日は何も作る気力がなかったので、繁華街に立ち寄り、持ち帰り可能な居酒屋で焼き鳥を買ってくることにした。

 スーパーの焼き鳥だともう終わっているが居酒屋は日付変更時まで営業しているから安心して買い物ができる。

 

 そこはこだわりの備長炭と鶏肉を使ってるから家庭ではなかなか難しい深い味わいになっている。

 しかもガスや電気コンロだと蒸したように水っぽくなるので、一般家庭では中々難しいカラリと焼き上がる炭火は魅惑的だ。

 埼玉の居酒屋は焼き鳥で安価な豚肉を使ってる処が多い中、ここは鶏肉と特製タレで勝負をしているから俺のお気に入り。

 ちなみに焼き鳥のタレはご飯にかける派だ。

 それに串から外したねぎまを散りばめ、ニンニクと七味と赤味噌を混ぜた辛味噌も合わせるとパーフェクト。


「いらっしゃいませ! 何人様でしょうか?」

「すみません、焼き鳥持ち帰りで――って生徒会長?」


 漂う香ばしい匂いと共に元気よく出迎えてくれた店員さん。

 でも見知った顔。

 普段と違い眼鏡、ポニーテールにはしているが見分け方つかないほどじゃない。

 それはうちの生徒会長でもある鹿伏兎乙環だった。


「こちらが持ち帰りのメニューとなります」

「すごい偶然だな生徒会長。ここで働いていたのか?」

「お決まりになったら声をかけてください」

「接客は大変だけど頑張れよ。同じ学園生として陰ながら応援しているぜ」

「今大変混み合っております。焼き上がりまで少し時間をください」


 仕事だから動揺もせず反応もせず、慣れた手付きで俺にメニューを渡してきてマニュアル通りに応対する。

 もちろん私語はない。

 彼女にはこの間プラスどころかマイナスイメージしか植え付けてないので会話は空回りだ。


 だからさり気なく、『神無月あと少し仕事が終わるまで待ってくれないか?』とメモ替わりに使っている腕にマジックで書いてあった時は驚愕した。 

  

 自分で白状するのも何だけど、俺と会長の接点は屋上の出来事以外だとそんなにない。

 生徒会として揉め事の仲裁を依頼される程度だ。

 このまま何事も無かったように帰路へついても正解だったのかもしれないが、もしかしたら数日前しでかした俺の蛮行を理解してくれたのかも……。

 友達増えるの期待していいかもしれないな。


 いや、それよりも……だ、学園は危険の観点から深夜酒場でのバイトは禁止されている筈だぞ。

 特に女子は。

 俺も早朝に新聞配達のバイトやっているけど担任が色々うるさい。

 年齢的にも働けないはずなんだがどういうことなんだ……?


 一時間後――


 店の横で待機していた俺は、「よう、おつかれさん。っで、こっぴどく拒絶した俺に今更何のようだっ――って、なんだなんだ?」格安チェーン店だと置いてある大量生産型無地のシャツ&デニムパンツルック、ラフな私服で出てきた会長に手を引っ張られる。 


 無言のまま拉致られて近隣にあるカラオケボックスへと連行された。

 

 予想外のカラオケ……。

 陽キャラ上位カースト御用達、友達グループで意思疎通と歌による自己主張開放の場、俺みたいな硬派には難易度高めの施設。

 この前お竜と来たばかりだが、滅多に入れない憧れの聖地なのでこちらが緊張する。

 

 俺の顔が怖いらしいから友好的な笑顔でフレンドリーは継続した方がいいだろう。


 指定された室内は比較的広く、二人で使用するのは勿体無い気がする。

 ミラーボールがキラキラと意味もなく回転。

 ただ会長は座る気配はない。


 俺の真正面に向き合い、「ふむ、取り敢えず君は僕のおっぱいを揉むがいい」表情を変えず取り敢えず生ビールの感覚で理解不可能な注文を俺に発注してきた。


「……ほえ?」

「……………」


 すっとんきょな声を上げる俺。

 意味がわからないまま、シャツの上からも分かる大きめの胸部を鷲掴みしろと? 手が疲れるだけだぜ。

 新手の嫌がらせだ。


「………………」

「………………」


 俺と歌いたいのではないのか?

 十八番、『背番号のないストライカー』のお披露目は見送りだな。

 『闘魂クライマー』と『ジムとダンベルと私を』も歌えるが五十章と長いのでお竜からクレーム来る。


 会長の意図が読めず、パニックになりつつある俺は巻き返しを図るため、初動へ戻る。

 とにかく笑顔だ。

 笑顔。

 感情的になっては駄目だ。 

 それでなくても男と女、二人きりだといつ間違いが起こるかわからない。ここは冷静に対応するべきだ。


「おいおい生徒会長、俺をこんなところへ連れ込んで何する気だ?」

「白々しいな神無月」

「何のこと言っているのかさっぱりだ」


 本当にさっぱりだ。


「僕の働いている姿を目撃したんだろ?」

「ああ、その事か……」


 動揺を隠すため俺は飲み物とつまめる物を注文する。

 対して生徒会長は表情も変えず。

 リア充側の人間はこういうの日常的に慣れているんだな。


「ぬかった。まさかこんな遠くで知り合いに出くわすなんて……」

「俺はプライベートに口を挟む気はないけど、なんであんたが酒場で働いているんだよ? 深夜の飲食店は学園生がバイトできる場所じゃないんだぞ。ましてや泣く子も黙る白川桜華学園、天下の生徒会長様が、歳を詐称してまで深夜手当が欲しいのかよ」

「そこは黙秘する。それなりに理由があるのでね。大体学園と世の中に迷惑ばかりかけている不良が僕に説教かな?」

「理由ねぇ、バレたら学園に多大な迷惑を被ってまでする理由か」

「……………」


 反論は返ってこない。

 俺のこと警戒しても学園の象徴、生徒会長にして女帝様。 

 何か深い理由があるのだろうけど、事件に巻き込まれてほしくはないから厳しめに戒める。

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