13「キス八回目、何処か生き方が不器用な会長に親近感を感じる」
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七月二十三日
取り引き八日目。
昼間の駅前。
無数の旗が熱風ではためく中、人通り多い街頭で炎天下に負けず俺達は声を大にして呼び掛ける。
「募金お願いします! ご支援お願いします!」
「ぼきんをお願いしまーす」
「募金お願いします! ご支援お願いします!」
「ぼきんおねげーしやーす」
「おい神無月庶務、君はふざけているのか? 全然気合入ってないぞ。もっと大きい声ひねり出せ」
「俺だってやりたいのは山々だが、さりとて人間向き不向きがある」
今日も生徒会はボランティアだ。
今回は奉仕活動部と駅前で募金活動をしていた。
残念ながらボランティアは好きな方だが募金活動は苦手だ。
金髪にピアス、こんな見た目だぞ、親に申し訳ないと思わないのかと爺さんに説教されたこともある。
キレることもムリなので終始平謝りだった。
あれはトラウマだ。
「確かにおっかながって側に寄り付かないもんな」
「うるせー」
「いやいや、僕は逆に感謝しているよ。お陰様でナンパ目的で近づいてくる下郎共が寄り付かないからね」
「嫌味にしか聞こえね……」
まさか俺がまたやる羽目になるとは予想してなかった。
案の定側には誰も近付いて来ない。
もう初めて二時間も経つが未だに一人も俺の前には来なかった。
分かっていてもこの事実はきつい。
対して生徒会長の前には少しづつ列が出来はじめている。
おいおいアイドルの握手会じゃないんだぞ。
「中々忙しいものだ」
「皮肉ウゼー。大体会長さ、学園側は生徒会を便利屋かなんかと勘違いしてないか?」
「そんなことはない。これも大事な仕事だ」
「生徒会がここまで出しゃばる必要性ってあるのか?」
「奉仕活動は学園のイメージアップ向上に役立つからフォローする優先順位が高いんだ。人足りないと要請来れば、生徒達の代表である僕達が率先して動かなければならない」
「生徒会って結構大変なものだったんだな。見返りなんていい風に評価してくれるだけだろ? そんなもんのために短い青春を棒に振るなんて、何というか馬鹿だよな。頑張っても誰にも感謝されないなんて究極のボランティアだ」
かもしれないと会長は苦笑い。
幸い募金の長い口上は募金団体に所属する専門家達がやってくれる。
なので俺達学生のやることは、ただロボットのように募金を呼びかけることのみ。
何故若い俺達高校生がやるのか?
そんなもんは決まっている。
ぶっちゃけると客寄せパンダだ。
純真無垢な少年少女達が募金を呼びかけたら、偉いねーとお爺ちゃんお婆ちゃんが集まってくる。
大人達がやったら欲望が丸みえだから逆効果なんだろうよ。
ちなみにこんなこと会長に聞かれたら殺されそうなんで口が裂けても打ち明けることはない。
「今日はさすがに生徒会メンバーは揃っている。彼らにも責任感あるからイザという時は足並みを合わせてくれるな」
「そうか? ただ単に自分達を売り込んでいるだけかもよ。簡単に生徒会長を見捨てた連中だから信用ならん」
「それに比べて君は偉いよ。無償なのに約束は守るし喫茶店のバイトもこなしている。札付きの不良なんて呼ばれてなかったら尊敬されていただろう」
「強制しているくせによく言う。第一そういうの興味ない。俺はボランティアが嫌いじゃないだけだ。バイトはそこの珈琲に惚れこんでいるから幾らでも働ける。会長も遊びに来るがいい。一杯ぐらい奢るぜ」
そのうちにと社交辞令を交わすと、再び呼び掛けに戻った。
即答で断られると思いきや女心は分からん。
今回、生徒会メンバーは揃っている。
教育委員会の偉い人達が一杯参加しているのだ。
自分達の名前を売るチャンス。
一生懸命媚を売って将来へ繋げたいのだろう。
それよりも、これだけ他校の学生達も参加しているから、一人ぐらいは友達ができるんじゃないかと淡い期待もしていた。
いかんせん声をかける勇気がない。
何度も恥を晒すが、見た目は陽キャラみたいに派手だが、中身は陰キャラのコミュ障。ロープレみたく仲間は増えない事を知る。
それでも取り敢えずは約束した以上庶務の仕事は全うしよう。
「募金お願いします」
バカの一つ覚えみたく同じ言葉を繰り返す。
あー 情けない。
こんな姿流星達に見付かったら絶対に爆笑するんだろうな。
なので神様にお願いします。
流星達がここを通りませんように。
だがしかし、世の中は諸行無常。
改札口から出てきた仕事中の流星と会う。
頭は銀髪なのに黒の法衣と袈裟を身につけていた。
これで近所の人達に喜ばれてるんだから不思議でしょうがない。
「こんにちは派手な格好のお坊さん」
「こんにちは人相が悪い学生さん。せいが出ますね」
「坊さんが募金する姿はレアだな。普通逆だろ?」
「なんかシュールだね」
「お互いにな」
全くだと二人してこくりと頷く。
「大変だな流星」
「お陰様でね。そっちもうまく順応しているみたいじゃないか?」
「ああ、募金活動は苦手なんだが何とかなっている」
「なんの兆しもなくいきなり生徒会入りしたって聞いたから言葉を失ったよ。何か理由があるんだろうけど、竜石堂ちゃん生徒会長の色仕掛けに負けたんだと騒いでいたなぁ——って雪ちゃん、あれって長野ちゃんじゃない?」
「む?」
指差した方角に長野が女と仲良く歩っていた。
「やるねー、陽キャラは手が早い」
「確かに女連れ。あいつはモテるからいつも色んな女と歩いてるな。しかも腕を組んでいる。彼女いるのにそんなことしていいのか?」
「わかんね」
彼方がデート?
いつの間にか戻っていていた会長は、楽しそうに歩く長野を発見して棒立ち。
なんか雲行きが怪しいと流星はこの場をそそくさと退散。
ちょっと、この雰囲気どうするのよ?
「かたや募金活動、かたやデートか」
「いや、長野人気者だし友達と遊びに行くなんて普通にあるんじゃないか?」
「そうだよな。彼方の為色々と頑張っているのに、その僕を放置して楽しそうに他の女と遊ぶなんてないか」
「そうそう」
「まあ、弟分だし別に誰と付き合ってもいいけどね」
「会長は長野のことが好きなんだな」
「そうだな。彼方が好きだ。優しいし命の恩人だ。恋愛の好きなのかどうかはわからないけど、あいつの為ならなんだってできる。僕を拾ってくれた長野家が僕の居場所なんだ」
会長は今回の分だと俺を引っ張り場所移動。
また俺にキスをした。
はだけている胸へそっと判子のように唇を写す。
汗かいているから会長は塩っぱいと舌を出した。
その動作がとても可愛らしい。
初めて女の子を感じる。
ま、それはいいけど場所がきわどいな。
無理やり連れてこられた裏路地。
死角に入っているけど遠くでは電車が通過する。
俺は改めてこの行為は使命の為にやっていると痛感した。
そこに感情は一切入ってない。
俺はまだ会長のことを何も知らない。
それはそうか、俺達の関係が始まってまだ十日にも満たないんだった。
でも濃い毎日を過ごしていると長い間共にいるような感覚になるな。
俺達は今月一杯までの関係だが、この生き方が下手くそな意地っ張りに妙な親近感を覚えた。




