彼方サイド2「幾通りもある正解がないプロゲーマーへの道」
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七月十五日
今日は日曜日。
仕事と趣味が全力である両親は不在、姉は家事全般と勉強、俺はゲーム。
我が長野家は相変わらずバラバラであります。
そんな中、俺は家でいつもの準備を始めていた。
ゲーム配信。
そう、俺は配信者だったりする。
かといってストリーマーを名乗るほど自惚れてはいない素人だ。
本日、ネットでゲーム実況プレイをすると告知を出してる。
主な目的は広告による収入とゲーマーの知名度を上げること。
切っ掛けは友達とやった対戦ゲームにどハマりしたこと。
だがしかし、腕っぷしが上達すると共にランキングが上がり、自慢したくなってSMSへ手を出し、それで満足できなくなり配信へと至った。
今ではそれなりの視聴者数を叩き出している。
「プロゲーマーになりたいというから応援しているが、僕からしたら遊んでいるようにしか見えん」
「失礼な。視聴してくれる人のためにやりたくもないゲームもやらなければならないからヘビーなんだよ。クソゲーは基本不親切だからストレスしかたまらないんだ」
「相変わらずへらず口がうまい。今まで舌戦で勝ったことがないぞ」
「これでも姉さんすぐ手が出るからセーブしている」
リビングを占領して機材設置している俺に呆れる乙環姉さん。
そんなもの自分の部屋でやればいいだろと否定的だ。
「家族兼用のプライベート空間まで占領するのはいただけないぞ」
「わかっていはいるんだけど、結構友達が来るから無理だよ。何処から身バレするかわからないからね」
「こんなもん秘密にすることか?」
「ネットの恐ろしさを分かってない。ゲーム動画は命懸けなんだ。ナメたマネしたら即炎上。最悪、姉さんまで情報晒されて迷惑を掛ける」
などと大袈裟に言っているが、本当は面倒なだけ。
一応、ゲーマーになる夢は学園では伏せている。
俺のコミュニティはアイドル並の勝ち組で構成させているから、こんな陰湿な趣味がバレたら間違いなくハブ確定だ。
俺はあの生徒会長の弟にしてクラスを纏め上げるカリスマで通っているんだぜ。
だから、俺の部屋は至ってまともで統一している。
オタクの痕跡は一切ない。
「そこまで追い求めるものなのか?」
「やりたいね」
「大会参加しても弱いのに?」
「身バレしないように遠征しているから。でもそれだけがプロゲーマーになる道じゃないよ」
俺はプロゲーマー志望だ。
無論、ゲーマーに対する世間の評価は冷ややかだ。
でも、おかしいだろ。
カードゲーム、ポーカー、アナログゲームは世界で認められているのにテレビゲームだけは幾ら大規模な大会とかあっても、現実からの逃げだとか、所詮は子供の遊びだとか冷笑させるだけだ。
「彼方、僕は外で勉強してくるぞ。その後バイトだから遅くなる」
「ああ、行ってらっしゃい」
呆れながら出掛ける姉を尻目に、いそいそと準備に進める。
今日はレトロゲーだ。
攻略情報なし初見のゲーム生配信でそれなりの腕前を披露。
お陰様でゲーム関係者とかプロゲーマーにも目が止まるようになる。
このジャンルはやればやるほど沢山金が消えていく世界だ。
ゲームソフトやゲーム機、配信機材はすぐに新しいものがでてくる。
プレミアムついているレトロゲームなんて数十万するから発見する度にため息しかでない。
しかし流行にのり遅れたり機材が古くなればそれだけライバル達と引き離される。
なので金に糸目をつけられないのが実情だ。
それなのに親に反対されて援助は絶望的。
姉さんをなんとか説得してスポンサーになって貰わなければここまでこれなかっただろう。
こんな道楽と馬鹿にせずに真っ向から向き合ってくれた乙環姉さん。
だからまじで感謝しているし頭が上がらない。
プロになったら恩返しをするのが密かな目標だ。
——その夜、姉さんが帰ってくるのがだいぶ遅かった気がしたけど、朝は普通だったから気にすることでもないだろう。
数日後。
俺は乙環姉さんが使われてない空き教室や、中等部の保健室、体育倉庫からフラフラで出てきたという目撃情報を得る。
フラレた腹いせに神無月が何か仕掛けてくるかもしれないから、友達包囲網をはり巡らし目を光らしていた。
姉さんのことが心配なので神無月のことをもっとよく知りたい。
情報収集すると共にコミュニティの力を使い接触する機会を得る。
駅前のアーケード街。
上杉、竜石堂さん、そして神無月。
人が多い通りの中、大柄で目立つからすぐに発見する。
仕組んでくれた竜石堂さんのリーク通りだ。
なので偶然を装い、「あー竜石堂さん達じゃないか! 偶然だね」と笑顔を振りまき手を振る。
「お、長野ちゃん。私服初めて見たよ」
「おーすー長野っち」
「長野、相変わらずテンション高いな。今からそれだと夏休み前に枯渇するぞ」
神無月雪之丞……タッパがあるから凄い威圧感だ。
こいつが俺の姉さんに目をつけている……。
「アミューズメントパークで音ゲー成分注入していたから大丈夫」
「好きだよな」
「気持ちはわかる。私も好きなヌイ出たら全力投球するもん」
「ごきげんだから自己記録を更新ってところか」
正解! 俺はゲーマーだからねと笑う。
基本、人懐っこい明るいキャラを演じているから俺に敵はいない。
なので言いたいこと口走っても大抵は許される。
特にこの神無月相手にへりくだったりはしない。
こういうワルは弱みを見せたら負けなんだ。
なのでいつも強気で対等に渡り合うことを心掛けている。
イザとなったらこいつと対峙しないとならないんだ。
凄く嫌だけど、姉さんを見捨てられないだろ?
あとは、そうならないことを祈るだけだ。
——現在。
次の日、乙環姉さんは図書館から帰ってから暫く上の空だったな。
顔を赤らめながら知らないパーカーを大事そうに抱きしめていたっけ。
雨降っていたし風邪でもひいたんだろうな。
しかし、その後、姉さんはとんでもないことを発案する。
あの神無月を生徒会役員にすると。
いくら手札が足りなくても、あの歩く災害を使うなんてありえないでしょ?




