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11 「キス五回目、目つきは凶悪なのに優しい瞳の神無月 そのニ(乙環サイド)」


「神無月よ、役員に任命してなんだがその凶悪な笑みなんとかならないか? 他のメンバーが怖がる」

「俺は仏頂面だと場が凍るから笑った方がいいと、友人からアドバイスを受けてだな」

「神無月は笑うのど下手なんだよ。怖いのが数倍上がる。だったら普段通りの方がこちらもやりやすい」

「その選択肢はなかったな。なるほど、道理で営業スマイルするとお客さんが珈琲ほぼ飲まないで帰るわけだ」 


 よくクビにならないな……。


 事故とはいえ厄介な相手に関わってしまったのは否めない。

 神無月は学園きっての大悪党。

 手段を選ばないのは掌握済み。

 あのドクズから皆を護るのは至難の業だな。

 彼方を揺すって長野家をやつの遊びのコマにする可能性だってある。

 骨までしゃぶり尽くすのは明白だ。

 そういう漫画や小説沢山読んで学習している僕が断言するのだから間違いない。

 細心の注意を払わないと自滅する。


「取り敢えず君は僕の指示に従って動いてくれればそれで構わないよ。難しい仕事はないから気を楽にしてくれていい」

「でも勝手に俺を庶務にしていいのか? 他の役員とか反対しそうだ」

「許可は降りているから問題はない」

「それならいいが、場違いだからストライキでも起きそうでこえーよ」


 確かに庶務の役職を用意してもらうのには苦労した。

 難色を示した生徒会メンバーの説得。

 教頭先生に人員が足りないから人手がほしいと懇願もする。

 面倒事が嫌いな先生なので役職の任命権限を何とか無理矢理取り付けた。


 とても面倒だがやるしか道はない。

 また不気味な笑みを浮かべる神無月に悪寒を感じながらも、僕の気が変わらないうちに、細心の注意を払い図書館内の死角へと引っ張りこむ。


 僕はそのまま適当に神無月へ口づけしようとするも、「待て待て会長、今日も俺にキスをするのか?」力づくで押し戻された。


「甘いな。神無月が僕にキスをするとは一言も確約してないぞ。逆もありだ」

「やられた」

 

 彼方の件で僕は吹っ切れる。

 前はまだ何処かでキャンセルできると淡い期待をしていた。

 そう僕はキスさせる覚悟はあってもキスする覚悟がない。でも今は違う。

 それに奴にうじうじ毎回焦らさられるより、この方が数段手っ取り早い。


「……………………」

「……………………」


 静かに腕へと口づけ。

 汗の味がした。

 なるほど、これが神無月の味か。

 腕は意外と細いが鍛えているので筋肉で覆われていた。

 どれだけ鍛錬すればここまで絞れるんだ?


 しかし結構恥ずかしいものだ。

 神無月は毎回これに耐えていたのか……。

 幾ら義務でもこれを公衆の面前でやる勇気はないな。

 ちなみに子供が絵本を片手にこちらの様子を観察していた。

 将来変な性癖に目覚めないか心配。


 ——和やかな雰囲気でもないので、僕達はそのまま本を読まず帰路へつくことにした。

 なんだけど、神無月はどうしてか隣を歩っている。


「神無月、何故ついてくるんだ?」

「暇だし近くまで送る」

「すまん結構だ」

「遠慮するな。あんたはすげーべっぴんさんなんだから自覚持てよ。人攫いに会ったらアウトだ。俺でもボディーガードぐらいにはなるだろ? こんなに濡れたら尚更変なの寄ってくる」

「余計なお世話。信用できないし君の方が数倍怖い」

「意地っ張りめ」 


 傘立てに入れていた傘が盗まれたせいで雨に濡れながら歩行。

 気が引けると神無月は傘のシェアを持ちかける。

 しかし僕は意固地になり傘に入るのを拒んだ。

 こんな現場を知り合いに目撃されたら色々と面倒なんだよ。


「なんとでも言うがいい。君と僕は敵同士。キスは許しても心まで渡してないぞ」

「あああああ! このバカタレ! シャツがスケスケで目のやり場に困るんだよ。この傘、生徒会長にやる。どうせもう捨てるやつだ、好きに使え。じゃあなヘソ曲がり」


 僕に無理矢理傘を渡すと、神無月は制止を振りきり小雨降る中、足早にこの場を走り去って行った。

 意外とお節介なやつだ。

 前から気になっていたけど、神無月はなんでこんなに紳士なんだ? 世間の噂と合致しなくて調子狂う。

 ご丁寧に貸してくれたトレーニング用パーカーを羽織って帰宅の途についた。

 汗の匂いがするけど別段嫌じゃない。

 余計な借りが出来てしまったな。


 僕はそのまま電車に乗って二駅で降り、徒歩十分の住宅街にある家へ帰宅する。

 比較的新しい表札には『長野』と表示されていた。


「ただいま彼方」

「おかえり乙環姉さん」

「またゲームか?」

「うん。新作出たから早速プレイ」

「昨日たまたま見かけたんだが、おまえ神無月と知り合いだったのか?」  

「そうだね。俺みたいなひ弱なタイプ、ああいう手合い手札にいるとトラブルあった時無言の圧力になるから。暴力装置?」


 呆れたと一言告げ牛乳を飲む。

 大きめのリビングには五十インチのテレビ。

 そこへ陣取り食い入るように彼方がエキサイトしていた。


 僕は訳あって長野家に居候している。

 母が再婚するも再婚相手に襲われ祖父の家へ一時的に避難。

 警察沙汰になったので母からは絶縁宣言される。

 そこでたまたま手を差し出してくれたのが死んだ父の親友、長野のおじさん夫婦。

 そのご好意に甘え、今はここへ住まわしてもらっている。

 私立の学校にも通わせてもらい頭が上がらない。

 いずれこの御恩を返す為、自分を厳しく律し勉学に勤しんできた。


 目の前で遊んでいる彼方は、そのおじさん達の一人息子で、僕にとっても大事な弟のような存在。

 自己中だし自分に甘すぎるのが弱点だがとてもいいやつだ。


 ただ男物のパーカー着て帰宅しても雨で濡れてきても、全然気が付かないのは鈍感通り越して馬鹿野郎としか言えない。

 ゲーマーというのはこんなのばかりなのか?


「濡れたから風呂入ってくるよ」

「あ、悪い姉さん、またお金貸してくれないかな?」

「またか?」

「ネット配信の機材が古くてそろそろ買い換えないと」

「自分で稼いでいるものじゃ足りないのか?」 

「そんなにフォロワーいないからね。広告代コントローラとかゲーム揃えるのに使っている」


 渡された貯金通帳には百円しか無かった。


「僕はそっち関係は知識無いので素人考えなんだが、そんなにいい機器が必要なのか?」

「うん。動画配信だから解像度高い画像の方が再生数上がるからね。プロゲーマー目指すならネット配信が一番手っ取り早い。ここで腕前を披露してチームや企業とかにスカウトされたい」

「大会は? それが主流だろ?」

「うーん。俺にはあってないかもね。いつもボロ負け。でも声を掛けてもらっているチームもあるよ」


 最近、彼方は金遣いが荒くなってきた。プロゲーマーを目指すには腕を磨き名を売る為、多額の資金が必要らしい。

 多くのゲーム攻略動画配信を上げなければならないとか。

 最近は動画再生数を上げるために人気課金ゲームにも結構手を出している始末。


「姉さんしか頼る人いないんだ。頼むよ」

「商品の値段と購入したらレシートよこして」

「はーい。だから姉さん大好き」


 頭が痛い。

 なんとか彼方の夢を叶えて上げたいけど、おじさんおばさんに相談しても子供の遊び程度にしか認識してないので相手にならない。

 それなら僕がバイトで支えるだけだ。

 しかしそのことを彼方や長野のおじさん達に知られるわけにはいかない。

 彼方は遠慮なくお金を無心するようになるし、おじさん達にはそこまでする必要はないと言い聞かせられている。


 だから神無月に深夜バイトを目撃されたときは焦ったんだ。

 もし学園側にバレたらおじさん達が呼び出されるし、彼方にも迷惑が掛かる。


 あのときは必死だったよ。

 全部神無月に差し出す覚悟だった。

 なのにあいつは誰にも言わないなんて、学内の評価最悪の不良から告げられても信用できるか?

 

 服を脱ぎ、湯船に浸かりながら今後について模索していると神無月からLINEが来る。


『帰ったらすぐに風呂は入れ。体調には気をつけろよ。慢心していると簡単に風邪ひくぞ』

『余計なお世話だ。君はお母さんか?』

『俺のせいで風邪引いたら目覚めが悪いんだよ。いいから玉子酒ぐらいは飲んどけ』

『はいはい、うるさいうるさい』


 しかも送ってきたスタンプが外見に似合わず可愛い。

 スマホに映っている僕は薄っすらと笑っていた。

 ん? 僕が笑ってる? まさかね……。

 神無月雪之丞、本当によくわからない奴。



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