10「キス五回目、目つきは凶悪なのに優しい瞳の神無月 その一(乙環サイド)」
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七月二十日
神無月と会うのは憂鬱だ。
本来なら趣味のケーキでも制作しているところ。
身から出た錆とはいえ淀んでいる気持ちは立て直せない。
はぁ〜と電車で揺られながら僕は深いため息をつく。
大きめな胸を悟らせない為にダブダブのシャツを着ていたが、仇となってブラ辺りが汗ばんでいた。
本日は日曜日。
今回で五回目の接吻だ。
駅の改札口から外へ出て、街のメイン通りを歩く。
外は生憎の雨降り。
ビニール傘から雨粒がぶつかり流れ落ちるのが視界に入る。
今日は私服だから何処か落ち着かないけど、別におめかししてデートする訳でもないから気合い入った格好はしてない。
普段通り帽子とシャツとデニムだ。
ラフな方がもし学園生にすれ違っても気付かれない利点がある。
これから神無月と待ち合わせ場所で落ち合い、今日のノルマを終わらせる。
まあ、不良の事だから遅刻してくるのは自明の理。
しかし生徒会長としては、約束の一時間前に着き威厳と余裕を示すべきだ。
それでなくても昨日は、取り乱してみっともない姿を晒したからな。
我に戻るとすぐに登録したLINEを行使して、あの不良へ詫びを入れる。
弱点を露呈させるべきじゃないのだが、あそこまで騒ぐとどんなに取り繕っても無駄。
仮にも学園生達を統べる身であの取り乱しはないなと反省した。
彼方が関わるとどうも我を忘れるようだ。
大事な家族だから普通の行動なのだが、やはり人の目は気にするべきか。
本当は学園でも話したいが、過保護すぎると彼方本人の希望で普段から極力学園内では接触しないようにしてる。
大切だからこそ側にいない。
そういう考え方があってもいいだろう?
折角の図書館だ。
待ち人が現れるまでゆっくり読書でもと予定を立てていたが、もう既に神無月は入り口で立っていた。
相変わらずバスケ選手並に背が高い。
金髪、日焼けした肌、耳に無数に刺さっているイヤリングとピアス。
白のタンクトップに短パン。
顔は良い方だが、好戦的な不良にしか認識できないこの凶悪な目つきは、僕の警戒心を掻き立てる。
嫌いだ。
こいつの噂は学校側から散々聞かされている。
大金持ちのボンボンで本当は退学させたいのに、学園へ多額の献金で注意もできない。
やりたい放題に暴れている学園一のトラブルメーカー。
問題ばかり起こしているから牛若先生にとって頭痛の種らしい。
確かに言葉は悪い、人相は悪い、暴力沙汰もよく起こす。
やることなすこと最悪だ。
全てマイナスなのに誰も逆らえられない。
困った存在だ。
「神無月おはよう」
「生徒会長、ういーす」
「おいおい、約束より前の時間に着いた自分が問うのも変だけど、君は何故こんなに早く来ているんだ?」
「別段意味はないが、女を待たせるのは趣味じゃないんだよ」
と面倒そうに頭を掻く。
渋々来ている筈だが紳士的な発言に普通の女子なら好感度上がりそうだ。
僕は無理だがな。
それにしても訝しむより先に正直驚嘆する。
うちの生徒会メンバーは自由奔放。
彼方に関しては平気で約束をすっぽかす程ルーズなのに、男も色々タイプはいるものだな。
それとも何か良くないことでも模索しているのだろうか?
またニタニタと汚い笑顔を浮かべている。
真顔ならそこそこイイ男なのに勿体無い。
「どうする? 折角図書館に来たんだ、読書して行くかい? それとも今日のノルマさっさと済ませて解散するかい?」
「学徒としては前者が正解なんだろうけど、俺は必死こいて勉強する程頭悪くないんでね。とっととひと目のつかない場所でキスを済ませよう」
呆れた。
成績順位表は常にダントツ最下位の癖して悪びれもなく嘯いた神無月。
羞恥心は持ち合わせてないのか?
「待て、その前に確認しておきたい事がある」
「確認?」
「明後日から夏休みだ」
「じゃあキスは今日で終わりで」
「そんなわけ無いだろう。何度も宣言するが七月一杯までは毎日神無月と会う」
「だよな。しかし俺もバイトで時間調整が難しい。生徒会長だって同じだろ?」
「そこで提案だ。君を生徒会の庶務に任命する。丁度空きがあるんだ。喜べ、これで毎日僕に会う建前ができるぞ」
「聞いていたのかよ? 俺はバイトだ」
神無月は横に首を振り嘆息。
入り口前で弁慶みたく立っているのが余程怖いのか、子供達が近寄れなくて難儀していた。
可哀想なのでこの唐変木を引き寄せて中へ誘導。
近くで見ると優しい青い瞳をしているのに気付く。
まあ気のせいだ。
「幸い文化祭の準備とボランティアと部活動の応援で駆り出されるので、夏休みもほぼ登校しないとならない。やったね、こんな綺麗なお姉さんと毎日会話できるぞ」
「相変わらず俺の話を無視するなぁ」
神無月のは聞く価値がないだけだ。
その間にもそんなに時間はとらせないと、絶対に逃げられないよう一個一個理論武装を破壊。
口止め料の接吻は必ずやっておきたい。
幾らワルでも対価を払っておけばおいそれと裏切ることはないからだ。
「神無月冗談抜きだ。君の力を評価している(物理的の)」
「かいかぶり過ぎだ」
「そんなことはないよ」
「じゃあ俺のメリットは?」
「色んな出会いがあるから友達できるかもしれない」
適当に否定的言葉を打ち返したが無論冗談だ。
同じアウトロー仲間達が一杯いるだろう?
「……いいだろう」
「え?」
「庶務やってやる。嫌々だがそこまで薦めるのなら仕方なしだ」
「神無月いいのかい?」
「ああ。今からか?」
「いや、明後日から頼む」
「了解だ」
こうして神無月は生徒会の庶務となった。
呆気なく受けてくれたので拍子抜け。
元々たまに学園や生徒会から依頼した表では裁きしれない厄介事の処理を完璧にこなしてくれるが、それは色々と見返りがあるからだ。
でも今回はそれがない。
説得してなんだが不気味だ。
第一僕は神無月の住所を知らない。
奴はしらばっくれてこのまま月末までの約束を反故する可能性があった。
そうなったら僕どころか、彼方に危険が及ぶ可能性もある。
そうなったら彼方と家を信頼して任してくれている長野のおじさんおばさんに申し訳が立たない。




