9「キス四回目、好きな人の為にNTRチャラ男へ本気でその身を捧げる決意する生徒会長そのニ」
「それは悪かったな。でも会長、何故俺のメール知っているんだよ?」
「ある人づてで入手した。僕の人望持ってしても探し当てるの大変だったよ。余計な情報提供する羽目になるし、どれだけ箝口令敷いて周囲を警戒しているんだ?」
まさか流星が俺にリークしてきた居候の情報じゃないよな?
これはあとでとっちめる必要がありそうだ。
「違う違う。札付きの不良と勘違いされているから友達ほぼいないんだよ。クラスメイトでさえ割れたガラスまたは空気扱いさ」
「それは日頃の行いが悪いからだ。大体あれだけ追い詰めたんだ。普通もう観念するだろ?」
「だからって会長のセミヌード送るなよ! 誰かに覗かれたら俺と会長が社会的に死ぬところだったんだぞ」
「どうだい、僕の身体は? 男を堕とせるほどには自信があるんだぞ」
ふふんとシナを作る会長。
自撮りで撮った写真はNTR系エロ本みたく顔を手で隠し、上半身の魅惑的エロボディーを披露している。
しかも裸になり学園のネクタイ巻いて上着を羽織っているだけの危険極まりない一枚だ。
制服に隠れて大事な所が見えそうで見えないスレンダー巨乳のけしからん胸。
たるまない程度に締めている腹筋。
トドメは行方不明だったイニシャル入りのネクタイ………。
保健室の時か?
「そんなことは聞いてねえ」
「君は多分、普通に送信しても無視するだろ? だから必ず来る強制召還用に準備しておいた。ネクタイは後で返す」
「ただの嫌がらせだ。それに今日は休日なんだからわざわざ会うこともねえだろ?」
「こういうのは毎日の積み重ねなんだ。約束したろ? 毎日やるといった以上毎日やる。手抜きは許されない。一回サボるとなし崩しになかったことになるもの。僕としたことが抜けていた」
流石勉強家。
俺には迷惑なほど自分に厳しすぎる。
もうすぐ夏休みだし休みも含めた計画だったがそうは問屋が卸さないか。
「了解了解。もう、無駄な抵抗しないから二度と無茶なことはしないでくれ。連絡先もLINEも教える」
「やけに協力的だな。裏がある?」
「ない。ただ普通に協力した方が早く済むと悟っただけだわ」
今度こそ降参だ。
相手の方が何枚も上手。
足掻けば足掻くほど泥沼に嵌っていく。
「殊勝な心掛けだ。今後は余計な企みはよすんだね。幾度となく女を罠に嵌めて快楽へ落とした鬼畜な神無月のことだ。まだ僕の全てを狙っているんだろうけど負けないよ」
「狙ってない。ただの被害妄想だ」
風評被害のせいで相変わらず俺の評価は最低ランク。
どんなに取り繕っても無駄だと悟りを開いた今では仏の心で接している。
「ふむ。よしその宣言を評価して今日は僕からキスをしてあげよう」
「しないという選択肢はないのか?」
「何故に?」
「あんたのことだ、何か裏があるだろ?」
「買い被りすぎだ。素直に従ったから褒賞をだすだけ」
「目的のためなら悪魔にも魂を売り渡すような女が?」
「なんとでもいうがいい」
怪しむ俺とは対象的に、会長はそうほくそ笑むと手の甲へ唇を押し当てた。
側にくると香ってくるレモンのような柑橘系の香水、その唇の感覚は柔らかく、肌に掛かった吐息は心地よい。
「明日また連絡する」
「神無月待て、本題はこれからだ」
ドキドキしているのを見破られたくないから、すぐさま踵を返すと呼び止められる。
「これ以上何がある?」
「長野彼方のことだ」
「長野? あいつがどうした?」
「これ以上、あいつにつきまとうのは止めてもらおう」
確か会長は長野の家に居候しているらしい。
そんなに俺といるのが気に食わないのか?
「全く意味がわからないな」
「たまたま先程のやり取りを目撃した。彼方は僕の弟みたいなもの。プロゲーマーを目指していてね、僕はその夢を全面的に協力している」
「いいことだ」
「しかし有名な札付きの不良である神無月と関わりがあると発覚したら、あいつの将来に悪い影響が及ぼすかもしれない」
「だから側に寄るなと?」
「それもあるが君は僕の秘密を彼方に暴露する可能性も否定できない。バイトのこととキスのこと。バレると僕は破滅だ」
「もしかして深夜バイトは長野の為に?」
「色々あるけど答えたくない……」
おいおい、それは肯定と同じだぞ。
もしかして会長の大切な人って長野のことなのか?
長野には彼女がいる。
誰かは判明してないけど、正体が会長なら全て辻褄が合う。
でも、会長は誰とも付き合ってない。
家族愛でここまでするもんかね?
俺にも海外留学している大事な妹いるから気持ちは理解できるけど……などと首にぶら下げているペンダントへ手を当てる。
「それは困ったな。あいつは社交的だから無視しても近づいてくる。どう対応すればいいかわからないぞ。なまじ人気者だから疑われると噂にもなりやすい。巻き込まれるのは勘弁だ」
「済まない、迷惑を掛ける。その代わり僕のすべてを君に捧げてもいい。生パンツあげようか? 学園ではプレミアムものだぞ」
「謹んで辞退します」
「頼む。都合のいい女、愛人またはレンタル彼女にしてくれて構わない。だから彼方には構わないでくれ」
会長は深々と頭を下げる。
本気なのが伝わってきた。
「いらないし大袈裟だ。だいたい俺とあいつはほぼ他人。そんなつるむ程の仲じゃない」
「信用できないな。きっと彼方は裏でパシリさせたりカツアゲされているに違いない」
「人の話聞け。誰が聞き耳を立てているか分からん公園内でデマ流すなや」
「こんな悪漢に純潔を捧げようとも彼方の将来の為なら惜しくはない」
「おーい、戻ってこい」
「僕は負けない。どんな羞恥プレイや苦痛にだって耐えてみせる。あ、街中の露出プレイはお腹が冷えるから嫌かな」
すっかり自分の世界に入っている会長。
俺の話を受け付けない。
会長って破滅願望ないかい?
思い詰めるとメルトダウンするのは相当やばい。
困ったな、事態は泥沼化する一方だ。
「俺は見た目こんなだが、中身はオタクよりの陰キャラだぞ。そんなことする訳がないぜ」
「説得力ゼロの下手くそな冗談は顔だけにしろ。油断させてどんどんハードな要求してくると相場は決まっている。ならせめてファーストキスだけは普通に済ませたい」
会長は前触れもなく俺を押し倒し、力づくで口角を尖らせ口づけしようとするも、させるかぁぁと手でおでこ押さえてなんとか阻止する。
首に掛けている大事なペンダントを引っ張るから苦しくてしょうがない。
今までとは本気度が違う会長。
そんなに長野が大事なんだな。
「頼むから落ち着けって! 今まで通りでいい。七月までの契約」
「本当に? 彼方を巻き込まないか?」
「ああ」
「毎日のキスで許してくれるんだな?」
「別にしなくてもいいんだぞ。でもそれだと会長が納得しないんだろ? だったらとことん付き合ってやるよ」
その言葉に安堵したのか、電池が切れた人形のように会長は力なく座り込んだ。
無論俺に脅す気は無し。
逆に応援してやりたい。
そうすればこんな馬鹿な茶番劇も演じなくてするからな。
でも会長は信じてはくれまい。
はてさてどうしてもんか。
それにしてもだ、姉弟愛でもこんなに慕ってくれている長野は幸せ者だな。
羨ましい限りだ。
俺は頭を掻きながら夕暮れに染まる空を仰いだ。




