第7話 『闇×闇? 漆黒の女幹部登場!』
――きっかけは、街で偶然見かけた黒い魔法少女と機械でできた騎兵との戦いでした。
私、鳥野 珠代は影が薄いとよく言われます。
昔から、自分の名前に強いコンプレックスがあり、とにかく目立たないように生きてきました。
そんな生活をしてきた所為なのか、普通に人に話しかけても相手に気づかれないようになっていました。
あの日――私は文房具を買うために街へ出かけてちょうどニャスコの店内に居ました。
私が、ノートや筆記具を選んでいると、外のほうが急に騒がしくなりました。
「また、オルト男爵が暴れているぞ!」
そんな声が聞こえてきました。
オルト男爵――最近、街を騒がせている悪い人です。
この街には、そんな悪い人に立ち向かう一人のヒロインが居ました。
彼女の名は、ブルームピンク。 この街を救ってくれる魔法少女です。
これはあくまで私から見た印象ですが、彼女の年齢は、今年高校生になったばかりの私より少し上くらいでしょうか。
とても頼りがいのある女性です。
でも、その日はいつもと違いました。
私がお店の外へ出て、野次馬に混ざりながら戦いの様子を見ると――
「誰だ! 貴様は?」
「私は、ブルームブラック。 闇より来たりし漆黒の戦士よ!」
そんな会話が聞こえてきたのです。
――え? ブルームブラック? また新しい魔法少女が現れたの?
それが初めて彼女を知った時でした。
彼女の戦いはとても鮮やかでした。
「我が剣よ、闇の力を解き放て――暗黒衝撃波」
そう言って死神の鎌のような禍々しい武器から衝撃波を放ち、2体の機械騎馬兵を一瞬で倒していました。
「おー。 すげーぞ! 黒いネーチャン!」
「見た目はすごいけど、かっこよかったぞ!」
「素敵ですわ~、お姉さまと呼ばせてください!」
街の人たちが拍手喝采をしていました。
それを受けて、さっと右手を上げてから会釈をし、その場から立ち去る姿はとても印象的でした。
たったそれだけの、ほんの数秒の出来事が、私の心に響きました。
引っ込み思案の私とは違って、自分に自信がありそうな堂々とした態度に惹かれました。
* * *
その日の夜、私は遊んでいたネットゲームに新しいアバターを作りました。
「あの人みたいになりたい」
そんな願いを込めて、ゲームのキャラをブルームブラックに似ている黒いキャラ――一人の騎士を選びました。
アバターの名前は――
「†漆黒ノ幻影†」
ブルームブラックのようになりたい。
強くカッコいい戦士。
そんな願いを込めて、キャラクターを作りました。
似せようとして作ったわけではなく、ブルームブラックをリスペクトして作ったキャラクター。
ブルームブラックや私のような黒髪ではなく、白髪の女騎士。
深紅のアーマーを着ているが、全体的に黒い。
真っ黒なロングケープを羽織った孤高の戦士。
そんなキャラクターになりました。
それから、私はゲームの中だけでもあの人のように気高くありたくて、†漆黒ノ幻影†でロールプレイをしています。
最初は少し……いえ、かなり恥ずかしかったけれど、なりきりプレイをしていくうちに、段々と慣れていきました。
何日か遊んでいるうちに、†漆黒ノ幻影†であることに自信が持てるほどになりました。
「フッ――、今日も夜の帳が降りたようだ」
私がそう挨拶をすると、ギルメンの子たちが「こんばんは」と返してくれる、それだけで人とつながったような気になれました。
楽しい。
†漆黒ノ幻影†でいることが楽しい。
そう思うようになりました。
* * *
そんなことを思い始めていたある日、街中でまたオルト男爵が勧誘をしている姿を見かけました。
「またかよ。 懲りないな、あいつ」
「ママー」「しっ! 見ちゃいけません」
街の人たちは、ことごとく無視を決め込んでいます。
オルト男爵――ブルームブラックと戦っていたあの人なら、ブルームブラックのことを良く知っているかも。
あの人に近づけば、ブルームブラックに会えるかもしれない。
その時の私は、なぜかそう思ってしまいました。
「あの――」
私は、オルト男爵に声をかけていました。
もういちど、ブルームブラックに会いたい――そんな思いで。
その時の私は、声をかける相手を間違えていることに気づいていませんでした。
「あの――」
「フハハハハ! 俺様の仲間になれば、今なら我が幹部にしてやろう!」
「あの――す、すみません」
「だれか、俺様の仲間になりたい奴は居ないのか?」
「あの――お話を――」
「おい、貴様ら! いまなら俺様の仲間にしてやろうと言っているのだぞ!」
「あの、すみませんっ! お話を聞きたいんですけど」
「む? 気のせいか?」
「あの、気のせいじゃありませんっ!」
「むむ? どこからか声がするぞ」
オルト男爵はそこまで言って、私の目の前でキョロキョロとしだした。
「……あの、ここです」
私は、おずおずと手を挙げた。
「ぬぉっ? 急に目の前が暗く……。 ああ、なんだ、人間の手か? ……いや待て! 人の手があるということは、誰か居るのか……?」
そう言ってオルト男爵は、目を凝らすように細めて、じっと私の顔を見つめました。
「むっ? 誰だ貴様は! いつからそこに居た!」
「さ、最初からです……」
オルト男爵は、少し仰け反りながら驚いた表情で私に尋ねてきました。
「最初からだと? まさか貴様は暗殺者……いや、ニンジャなのか?」
「……に、忍者じゃないです。 普通の学生ですっ!」
「そうなのか。 ……それで、俺様に近づいたということは、俺様の首でも狙いに来たか、ニンジャの娘よ!」
忍者じゃないって言ったのに……
「わ、私は……ただ、ブルームブラックに会いたいだけで」
「むむっ! そうか。 貴様はブルームブラックに因縁があるのだな!」
「ち、違いますぅ……」
「なるほど、ニンジャの女は敵を欺き、懐に潜り込むというあれか!」
「はい?」
「無理にはぐらかさなくても俺様には分かる! 貴様はブルームブラックと戦いたいのだろう?」
――そんなこと、微塵も思ってないです。
「なるほど。 やはり、貴様は俺様の仲間にふさわしい人材だと見た! ならば、このカプセルを飲むがよい!」
そう言ってオルト男爵は私に変なカプセルを渡してきました。
思わず受け取ってしまったけれど――
……どうしよう。 この人、思った以上に話が通じないかも。
変な薬を渡された私が、オルト男爵と薬を交互に見つめていると、オルト男爵がこう言いました。
「案ずることは無い。 このカプセルは異世界の技術の結晶だ!」
異世界技術の結晶。
つまりこれは異世界の薬なのでしょうか。
怪しいです。
何だか良くないもののような気がします。
「飲めばたちまち真の力が解放されるし、もちろん副作用もない。 いつでも貴様のなりたい姿に変身、解除が出来る優れものだぞ!」
なりたい私になれる――? そんな上手い話、信じられません。
きっと何か落とし穴があるに違いないです。
「さあ! これを飲んでブルームブラックを倒す力を得るのだ!」
「た、倒しません!」
「なるほど、彼我の戦力差に臆しているのだな。 でもこれを飲めば貴様は強くなれる!」
「強くなんてならなくて良いです!」
「ふむ。 貴様は今のままでも充分強いということか。 ……ならば、今なら俺様の幹部として優遇してやるぞ!」
――それだけは、お断りしたいです。
「では、貴様にはブルームブラックの相手を任せるとしよう」
そう言われた私は、渡された薬をじっと見つめながら思案しました。
ブルームブラックの相手――つまり、この薬を飲めば、ブルームブラックに会える?
――会いたい。
ブルームブラックに会ってお話がしてみたい。
今の私は、ブルームブラックに気づいてもらえないかもしれない。
でも、この薬を飲んだら――
ふと、私の脳裏にゲームで使っているアバターが思い浮かびました。
†漆黒ノ幻影†。
あの姿なら、私の声が届くかもしれない。
ブルームブラックとお話ができるかもしれない。
その思考は、私の判断を誤らせるのに充分でした。
そう、私は判断を誤ってしまいました。
私は貰った薬を口に放り込んでしまいました。
「うっ……!」
薬を飲んでしまった私は、今更ながら自分のしでかしたことに後悔しました。
薬が苦かったわけではありません。
一人で目立っていたオルト男爵に私から話しかけたという大胆な行動に対して、急に恥ずかしさが湧き上がってきたのです。
私は自分の顔を両手で覆います。
きっと、今までのやり取りを、みんなに見られていた。
このまま消えてしまいたい。
そう思った瞬間、私の体を無数の黒い霧が覆いつくしました。
闇――
これは闇です。
今の私は、†漆黒ノ幻影†の象徴である、闇に包まれていました。
今、その闇がとても心地よいと感じています。
心の奥にしまい込んでいた――ゲームの中でしか見せたことのない自分。
その感情が徐々に私の中で大きくなっていくのを感じました。
気持ちが高まっていくのを感じます。
なんだか気分が良いです。
今の私なら、何でもできそうな気がします。
完全に闇に包まれた私は内から溢れ出る抑えられない感情に身を任せながら、覆っていた片方の手を放し、右手のみで自分の顔を隠しました。
そのまま、カッコいいポーズを決めます。
「フッ――、今日の闇はいささか温く感じるではないか」
私を包み込んでいた闇が晴れ、自分の姿がゲーム内のアバター――†漆黒ノ幻影†に変わっているのを確認します。
「おおっ! どうやら成功したようだな?」
オルト男爵がそう言うのが聞こえました。
私が彼を一瞥すると、オルト男爵は私の名を問います。
「それで、我が下僕となった貴様の名は何と言うのだ?」
この男がそう尋ねてくるので、私はいつものように応えます。
「フッ、我が名は†漆黒ノ幻影†。 闇に生き、闇を食らいて生きる闇の戦士!」
「そうか! シッコクノゲンエイよ! 貴様には俺様の幹部としてこれからも働いてもらおう」
「フッ――、笑止! 貴様ごときに我が闇を制することなど出来ぬと知るが良い!」
「んなぁっ? シッコクノゲンエイ! 貴様もか――」
オルト男爵は、あたり一面に響くほどの大きさで叫びちらかすのでした。
【次回予告】
俺様はオルト男爵!
今度の味方も、ルクシア同様俺様に従わないのか。
くっ――。 この世界の人間は、なぜ俺様の言うことを聞こうとしないのだ?
次回、「咲き誇れYumeBloom」第8話
『闇の†邂逅†』
……闇の?
おい、闇の何なのだ?
よく分からない記号が書いてあるぞ!
あと、漢字にはフリガナを付けてくれと頼んでおいただろう!
おい、誰か居ないのか?
これは何と読むのだ?
スタッフとやらはどこへ行ったのだ??
長くなりそうなので分割にすることにしました。
珠代が自分から声をかけているのに勧誘に断れないという矛盾した設定を消化するのに時間がかかってしまい、かなりの難産となりました。




