第6話 『ルクシアの過去』
わたし――ルクシアは、ブルームピンクたちと戦った初めての戦闘を一方的に終えると、ブルームピンクに「また遊んであげる」と告げてその場を立ち去った。
ブルームブラックが戦況をひっくり返したから退いたわけではない。
わたしが興味があるのは、ブルームピンク、ただ一人。
――それだけのことだった。
最後に声をかけたとき、ブルームピンクはわたしに負けて落ち込んでいる様子だった。
わたしは、そんなブルームピンクがブルームブラックに慰められている姿をちらりと見ながら、裏路地のほうへと抜けていく。
人々の興味は、ブルームピンクたちのほうにあるようで、誰もわたしのことを気にした様子はなく、
「大丈夫だよ」
「がんばれ」
などと、観客たちは落ち込んでいるブルームピンクを応援していた。
周りに人が居ないことを確認したわたしは、変身を解く。
ルクシアのセクシーな衣装から普段着ている落ち着いた服に戻り、普段付けている眼鏡をかけると、完全に普段通りのわたし――花風静流の姿へと戻った。
元の姿に戻ったわたしは、先ほどのやり取りを思い出し、急に恥ずかしくなってしまう。
「はわわわ……。 わたしったら、なんて大胆な恰好であおいくんに迫っちゃったのかしら」
自分の容姿やあおいくんへの態度を思い出し、顔が熱くなるのを感じる。
「ふふふっ。 でも、あおいくん、可愛かった♡」
それと同時に、わたしに迫られて慌てていたあおいくんの姿を思い出し、頬が緩んでしまう。
あおいくんが恥ずかしそうにスカートを押さえる姿。
わたしの言葉で頬を赤らめるあおいくん。
怒っているはずなのに何故か涙目になっているあおいくん。
そんな姿を思い出すだけで、わたしは――
わたしは、心の動揺を抑えるために、胸に手を当て深呼吸をした。
* * *
小さかった頃のわたしは、日曜日になると放映していた魔法少女シリーズのアニメに夢中だった。
アニメが始まる時間になると、テレビに釘付けになり、親に買ってもらった変身ステッキを何度も振っている子だった。
当時のわたしは、魔法少女になれると、本気で信じていた。
信じていたから、変身ステッキを、何度も何度も壊れるほどに振った。
そして、変身できないと分かるたびに泣いていた。
大人になるにつれて、魔法少女なんて誰でもなれるものじゃない。 幻想だということが段々と分かってきて……
中学を卒業したころには、そういう熱も冷めていた。
……そう思っていた。
あおいくんがブルームピンクに変身するところを見てしまったあの日までは――
弟のように可愛がっていた近所の男の子。
それがあおいくんだった。
そんな大好きなあおいくんが、わたしのなりたかった魔法少女になった。
複雑だった。
衝撃的だった。
どうしてわたしじゃないの?
でも、可愛い。
わたしは、あおいくんが魔法少女になった姿を見て、心の中がぐちゃぐちゃにかき乱された気分だった。
あの子を守ってあげたい。
あの子の支えになってあげたい。
あの子のことをもっと近くで見ていたい。
そんな気持ちも芽生えていた。
わたしは、主人公が魔法少女を助けるために悪のヒロインになる漫画を思い出していた。
そうだ! いまのわたしは、まさにあの主人公と同じ立場なんだ。
あおいくんが初陣戦で勝利した日、わたしは負けて帰っていくオルト男爵を見ながらそう思った。
そう思ってしまったのだ。
そう思ってしまったわたしは、オルト男爵の後をつけたのだった。
* * *
トボトボと歩いているオルト男爵。
わたしは、そんな彼に後ろから声をかけた。
「ねえ。 あなた、オルト男爵……と言ったかしら?」
わたしの声で、オルト男爵が「誰だ!」と言って振り返った。
「あなた、駅前で確か仲間を募集していたわよね」
「そ、それがどうかしたのか?」
オルト男爵は、わたしのことをじろじろと訝しげに見ながら、そう尋ねてきた。
「詳しく聞かせてもらえないかしら? 仲間っていうのは、具体的にどういうことが出来るの?」
「む? ついに俺様の下僕になるものが現れたか」
「あ、そういうのはいいから、まずは内容を教えてほしいの」
「そ、そうか……。 それもそうだな。 では――」
オルト男爵はそう言うと、仲間になるとできることをわたしに伝えてくれた。
1つ、異世界の技術でつくられたカプセル薬があること
1つ、カプセル薬を飲むと、変身することが出来るようになること
1つ、変身すると同時に、本人が持っている潜在的な力が引き出され、魔法が使えるようになること
1つ、本人の意思で自由に変身でき、解除も簡単にできること
1つ、認識阻害効果で、変身するところを他人に見られても気づかれないこと
1つ、カプセル薬には副作用がないこと
あおいくんたちとは違って道具に頼らなければ変身できないわけではなさそうで、明らかにこちらのほうが上位互換という印象だった。
オルト男爵は、これらの説明を終えると、わたしにカプセル薬を差し出してこう言った。
「さあ、女よ。 このカプセルを飲んで、俺様の下僕となるのだ!」
「あ、そういうのは要らないんで!」
わたしがビシッと断ると、オルト男爵は「はぁ?」と言った顔をする。
「あなたの下僕にはならないけれど、クスリだけ頂いておくわ」
「ど、どういうことだ? あれほど話を聞いておいて俺様の下僕にならないだと? カプセルだけが欲しいとはいったい――」
わたしは人差し指を、そっとオルト男爵の口に当てると正しく告げる。
「あなたのクスリをもらって、ブルームピンクと戦ってあげる。 でも、あなたの下僕にはならないっていう意味よ」
「む? ブルームピンクと戦うということは、俺様の下僕になるということではないのか?」
オルト男爵は頭にハテナマークをつけたように首を傾げる。
「全然違うわ。 あなたに協力はしてあげるけど、あなたの部下にはならない……という意味よ」
わたしがそう告げると、オルト男爵はなおも首を傾げながらも、クスリを渡してこう言った。
「よくわからんが、ブルームピンクを倒してくれるというのならありがたい。 さあ、これを飲んで変身するのだ!」
「はいはい……。 ありがとうね」
わたしはクスリを受け取ると、何のためらいもなくそれを飲み込んだ。
ドクン――と、心臓が脈打つのを感じた。
わたしの中から、熱い感情があふれ出してくるのが分かった。
わたしは己の内なる感情を高めながら、眼鏡を外した。
眼鏡をしていたら、悪の幹部らしくないから。
そして、変身の合図があったほうが今後も変身しやすそうだったから。
これが、わたしの変身の合図となった――
眼鏡をはずしたとたんに、着ていた服が、セクシーな衣装へと変わっていた。
悪の女幹部の誕生の瞬間だった。
「それで? 今更ながら、貴様の名は何というのだ?」
オルト男爵にそう尋ねられる。
「ふふふっ。 そうね……。 ルクシアとでも呼んでもらおうかしら、オルトくん」
「なっ? 貴様……、この俺様にそのような呼び名が許されると思っておるのか?」
オルト男爵は、くん呼びされたことを抗議する。
「覚えておいて! わたしはあなたの部下じゃない! ただ、ブルームピンクと戦うことに協力してあげるだけ!」
「む、むぅ~ぅ……。 まあ良い! ブルームピンクを蹴散らしてくれるというのならそれでも構わん」
「はい、よく出来ました♪」
そんな感じで、わたしはあの日、ルクシアとなったのだった。
* * *
わたしは、初陣戦の帰り道、あおいくんの魔法少女姿を間近で見られた喜びを嚙みしめながら歩いていると、向こうからトボトボと歩いてくるあおいくんの姿を見つけた。
「あら? あおいくん。 いま、帰りかしら?」
「あ、うん……」
明らかに元気がない。
ちょっとやりすぎちゃったかしら?
「あおいくんは、今日もパトロールの帰り?」
「そ、そうだよ」
少し歯切れが悪い。
ブルームピンクの活動も、パトロールの一環と言えばそうなのだろう。
でもそれは、きっと隠しておきたいことだから、うまく言えないのだと思う。
「なんか元気なさそうだけれど? どうかしたの? 悩みがあるなら、お姉さんに相談してごらんなさい?」
わたしは、あおいくんの顔を覗き込みながら、極力優しく尋ねた。
「うん……。 ちょっとね」
まあ、言えないのも無理はない。
その元凶がわたしということに少し心が痛む。
わたしは少しでも罪滅ぼしになれたらと、あおいくんにアドバイスをする。
「何があったか知らないけれど、あおいくんならきっと乗り越えれると、お姉さんは信じているわよ」
「うん、ありがとう」
「だから、頑張ってね」
そう言うと、私はあおいくんの頭を優しくポンポンする。
「く……くすぐったいよ。 静流姉ちゃん」
そう言いつつ、満更でもなさそうな顔をするあおいくん。
「大丈夫よ、わたしが付いてる」
あおいくんの背中を軽くたたいて激励する。
「うん、少し元気出てきた! ありがとう静流姉ちゃん!」
あおいくんが元気を取り戻したのを見て、わたしも嬉しくなる。
それから、すこしだけあおいくんと話をして別れた。
別れ際のあおいくんは、すっかり元通りへと戻っていたので、わたしも安心した。
あおいくんを見送り、わたしも再び帰路へと戻る。
「ふふふっ……。 また、遊びましょうね」
わたしは、そう呟きながらその場を去ったのだった。
【次回予告】
静流です。
わたしが悪の女幹部ルクシアだってことは、此処だけの秘密よ♡
もし、秘密を破っちゃう悪い子が居たら、お仕置きしちゃうわよ。
次回、「咲き誇れYumeBloom」第7話
『闇×闇? 漆黒の女幹部登場!』
あら? わたしたちにも新しい仲間が増えるのね?
ますますピンクちゃんから目が離せないわ♡




