第5話 『ピンクがピンチ? 謎の女幹部登場!』
あいかわらず、オルト男爵は毎日のように街を襲ってきていた。
しかし、今はオレ一人じゃない。
ななみ――ブルームブラックが仲間になってくれたため、撃退も容易い。
オルト男爵の侵略に対応するのは、すっかりオレたちのルーチンワークと化していた。
オレは、ななみに自分の正体を知られたくないため、変身してから現地に行くようにしていた。
以前、ななみに変身してから現地へ向かうと伝えたら、
「そうね、モモイがそうしたいなら、それで良いわ。 わざわざ変身前に集まる必要性もないでしょう」
と、快諾してくれたのがありがたい。
そんなわけで、今日も公園でオルト男爵が機械騎馬兵を召喚して暴れていることをブルーから念話で伝えられたオレは、急いで現場に駆け付けたが、既にブルームブラックが敵を倒した後だった。
「遅かったわね。 ブルームピンク」
「ごめん、遅れた!」
結局、ブルームブラックが全て片付けたあとだったから、オレが変身したのが無駄に終わってしまったようだ。
ブルームブラックはとても強い。
彼女の攻撃は、謎の詠唱でいちいち時間がかかってしまうが、詠唱が長ければ長いほど攻撃も強くなるようだ。
そんな彼女は、敵の攻撃をかわしながら詠唱したりするのがとても上手く、いつも確実に敵を撃退してくれる。
とても頼もしい仲間だと思う。
「くっ! またしても俺様の計画を邪魔しおって! 貴様ら、覚えてろ――」
オルト男爵がそう言って立ち去ろうとしたとき、どこからか声がした。
「あら? オルトくんってば、もう逃げるのかしら?」
「だ、誰だ? 俺様をそんな小物のように呼ぶ奴は!」
声の主を探してキョロキョロと見回すオルト男爵。
オレたちも、同じように声の主を探す。
「こっちよ!」
声が聞こえたのは街灯の上からだった。
街灯の上には、胸元の開いた黒い長袖のドレスを身にまとい、膝上まである黒いロングブーツを履いた一人の女性が立っていた。
魔法の杖のようなものを手に持ち、紫色のロングへアーをなびかせながら、マゼンタピンクの瞳で妖艶に微笑む姿が、やけに印象的だった。
オルト男爵が、「誰だ? 貴様は!」と突然現れた女性に誰何する。
「あら? わたしをこんな姿にしたこと、もう忘れたのかしら?」
「貴様……もしかしてルクシアか?」
「ふふっ……正解よ♡」
オルト男爵は、ルクシアと呼ばれた女性に命令をする。
「ちょうど良い! ルクシアよ、この二人を蹴散らすのだ!」
「おことわりよ! わたしは、わたしの好きなようにやらせてもらうわ」
そう言うと、ルクシアは街灯の上から華麗に飛び降り、オレたちの前に立ちはだかった。
「はじめまして、お二人さん♡ わたしはルクシア! あなたたちから見たら悪の女幹部といったところかしら」
「あ、悪の女幹部だって? それって、要するにオレたちの敵ってことだよな?」
「……そうね。 そういう認識で良いわよ、ピンクちゃん♡ さぁ、遊んであげるから、かかってらっしゃい」
「ピ……ピンクちゃんなんて、呼ぶなぁ~っ!」
オレは、可愛らしい女の子のように呼ばれたことで、カチンときた。
「ば、バカッ! そんなしょうもない挑発に乗らないで――」
ブルームブラックが急いで制止しようとしたが、オレはルクシアの術中に見事にはまり、ルクシアを殴りかかろうと駆けだしていた。
「フハハハハハッ! 良いぞルクシアよ! 良く分断してくれた。 だったら俺様も――来たれ! 我が機械騎馬兵たちよ!」
オレがルクシアへと急接近している頃、オルト男爵は機械騎馬兵を2体召喚して、2体ともブルームブラックを襲わせていた。
――ガシィッ!
ルクシアに殴りかかっていたオレの拳は、あっさりと彼女に掴まれてしまう。
「うふふふ♡ 女の子に殴りかかっちゃうなんて、ピンクちゃんってば悪い子ね♡」
オレの右手を掴んだルクシアはそう言うと、オレの顔を覗き込んで反対の手でオレの顔をやさしく撫でる。
「くっ……。 このぉっ!」
オレは咄嗟に反対の手で殴りかかろうとしたが、その攻撃は、いともたやすく躱されてしまった。
勢いあまって倒れそうになったオレの腰を、ルクシアは空いているほうの手で支える。
まるで二人でダンスでも踊っているかのような体勢。
それも、なぜかオレのほうが女性側の役回りだった。
「ふふっ♡ ピンクちゃんってば、そんなにわたしと踊りたいのかしら? 可愛いわね♡」
ルクシアは、オレの顔を間近で覗き込んでそう言うと、わざとオレから距離を取った。
「いいわ。 あなたの踊るところ、たっぷりと見せて頂戴♡」
ルクシアが、持っていた杖を一振りすると、その杖は一瞬にして鞭へと変化した。
あんなもので攻撃されたら、さすがに痛そうだ。
オレは、とっさに身構える。
「ふふっ♡ そんなに身構えなくても……。 痛くしないから大丈夫よ♡」
「な、何を……」
ルクシアが鞭を軽く振る。
次の瞬間、オレのスカートがひらりと揺れた。
「きゃあっ!」
思わず、声に出してしまい、慌ててスカートを押さえる。
ブルーから絶対に見えないと言われている。
分かっている。
分かっているのに、つい反応してしまう。
「ああっ♡ 可愛いわ~♡ もっとその反応を見せてちょうだい♡」
ルクシアはそう言うとさらに鞭を振る。
痛くはない。
ただ、優しく撫でられるだけのような攻撃。
けれど、そのたびにフリルが揺れ、スカートがふわりと持ち上がりそうになり、オレは反射的に身を縮こまらせてしまう。
攻撃されているのに、痛くない。
でも、恥ずかしい。
もの凄く、恥ずかしい。
ルクシアという女幹部は、オレの苦手な――とても戦いづらい相手だった。
* * *
――ブルームブラック、ななみ視点。
新たに現れた敵幹部――ルクシアの謀略により、まんまとブルームピンクと分断させられた私は、一人でオルト男爵が新たに召喚した機械騎馬兵と対峙していた。
本日二回目の戦い。
先ほどの戦いで少しだけ消耗している私にとっては、また一人で2体を相手にしなければいけないのは厄介だった。
「フハハハハハ! さすがに連戦となると貴様でも易々と戦えまい!」
「そうね。 でも、それはお互い様じゃないかしら」
オルト男爵にとっても、これは連戦になる。
だったら、一度私に敗北している彼のほうが、私より不利に違いない。
「む……! 言われてみれば確かにそうか!」
気づいていなかったようだ。
「しかし、貴様は詠唱がないと攻撃できないのであろう! だったら、そこを突くまで――」
オルト男爵は、私がいつも詠唱をして攻撃しているのをよく見ていたようだ。
「そうでもないわ! 詠唱なんて、ただの飾りだもの」
詠唱なしでも技は出せる。
技は出せるけれど、詠唱が無いとデスサイズの重みが直接体に響く。
つまり、威力は落ちない。
けれど、そのぶん私自身への負担が大きい。
「フッ、強がりを……。 行け、機械騎馬兵よ! ブルームブラックを蹴散らせ!」
オルト男爵が合図すると、2体の機械騎馬兵が私の左右から一斉に襲い掛かってきた。
「暗黒旋風斬!」
私は、両手でデスサイズを構えて、その場で回転した。
回転の勢いで2体の機械騎馬兵は真っ二つに割れてその場で爆発した。
「!? 詠唱をせずに技を使った――だと?」
「言ったでしょう。 詠唱はただの飾り。 カッコいいから使ってるだけ」
「そ、そんな馬鹿な……」
そう言うと、オルト男爵はその場で両手をついてへたり込んだ。
どうやら、こっちは無事に片付いたようだ。
「カッコいいから使っているとか、貴様! 頭がおかしいのか?」
オルト男爵は、うなだれながら私にそう尋ねる。
「あら、良いじゃない。 カッコいいからってのは大事よ。 あの子だって――」
そう言ってブルームピンクのほうを見た私は、そのまま固まった。
そこには、ブルームピンクがルクシアに翻弄されている光景しかなかった。
文字通り、ルクシアに踊らされているブルームピンク。
ルクシアが鞭を振るたびにスカートを押さえるブルームピンク。
ルクシアに何かを言われて急に顔を赤らめるブルームピンク。
「あの子、完全に遊ばれてるわね」
ブルームピンクがこういうのに弱いというのは知っていたけれど、まさかここまで恥ずかしがり屋だったとは――
「どうやら私が助けに入らないとダメそうね」
私は、ブルームピンクが戦っているところへと駆け付けた。
* * *
――あおい、ブルームピンク視点。
「たあぁ~っ!」
オレは体をひねって、ハイキックを繰り出そうとするが、ルクシアは、それをいともたやすく避ける。
「ほらほら♡ どうしたの? ピンクちゃん♡ そんな恰好で足を大きく上げるなんて~♡ 恥ずかしくないのかしら?」
ルクシアはそう言うと、くすくすと笑いだす。
そう言われて、オレは慌ててスカートを押さえる。
もしかして、本当は見えている?
ブルーが絶対に見えないって言ってたけど、実は今までみんなに見られちゃってた?
オレはルクシアの放った一言で一気に不安になる。
「大丈夫だよ。 ブルームピンク!」
「がんばってー」
「安心して戦ってー!」
街の人たちの応援も、もしかして本当は――
オレの不安は、どんどんと重なっていくばかりだ。
どうしよう……。
みんなに見られてたなんて……。
もう、お嫁に行けなくなっちゃう……。
オレは、恥ずかしさでどんどんと弱気になっていく。
* * *
「まったく、情けないわね――」
そう言って颯爽と現れたのは、ななみ――ブルームブラックだった。
「あなたのスカートの中は、誰にも見えていないのだから、しっかりしなさい!」
ブルームブラックがそう言うと、観客たちも一斉に頷いた。
「あら、あっちはもう終わったのね」
ルクシアはそう言うと、ブルームブラックたちが戦っていた所をちらりと見る。
そこには、へたりこんだオルト男爵の姿があった。
「まあいいわ。 今日は顔見せ程度だし、これくらいで去るとしましょう」
ルクシアはそう言うと、オレのそばまで寄ってくる。
オレの耳元に顔を寄せたルクシアは、
「また、遊んであげるわ。 ピンクちゃん♡」
と、一言だけ甘い声でささやくと、優雅に去っていった。
ルクシアが去っていったのを見ていたオルト男爵は、オレたちの視線に気づくと
「お、覚えてろー」
とだけ残して慌てて去っていった。
今日のオレは、ただルクシアに翻弄されただけになってしまった。
「よしよし。 貴女は別に悪くないのよ。 ただ、ルクシアと相性が悪かっただけ」
ブルームブラックは、そんなみじめなオレをただ慰めてくれるのだった。
【次回予告】
あおいだよ!
新しく現れた女幹部――ルクシア。
とっても厄介な敵だった。
まさか、あんなに何もできなくなるとは思わなかったよ。
もっと修行をつけて、ルクシアに勝てるようにならないと!
さて、次回は
「咲き誇れYumeBloom」第6話
『ルクシアの過去』
え? これ、オレが予告して良かったの?
と、とりあえず次回も――
咲き誇れ、YumeBloom!




