第4話 『闇より来たりし漆黒の戦士』
その日、参考書を買うために書店へ立ち寄っていた私に、一人の女の子が声をかけてきた。
彼女の名前はモモイ。
もしかしたら苗字なのかもしれないけれど、私が名前しか教えなかったため、彼女もそうしたのだろう。
どうやら実は、彼女――モモイこそが夢桜里で最近何かと話題になっているブルームピンク本人のようだ。
恥ずかしがり屋なのか帽子を深く被っているため顔は良く見えないが、それでも彼女がとんでもなく美人だというのが分かった。
まだ少ししか言葉を交わしていないけれど、モモイの言動について――
・正義のヒロインとして話題の彼女が、意外にもちょっとしたことで泣きそうになる様子
・何故か自分のことを「オレ」と呼ぶミスマッチさ
・うかつに正体をばらしそうになる迂闊さ
それらを実際に目にした私は、モモイのことを、とても危なっかしい女の子だと感じた。
そんなモモイから、私も魔法少女になって一緒に戦ってほしいという提案をされる。
「え? 普通に嫌ですけど?」
と、即答してしまって――モモイが泣き虫なのを思い出す。
「ふえぇ~」
案の定、涙目になるモモイ。
「あ~。 もうっ! ほら、泣かないで」
私はカバンにしまってあるポーチからハンカチを取り出すと、それを彼女に渡し涙を拭くように促す。
「ごめんなさいね、モモイ。 私には貴女のようにフリフリの衣装を着て戦うことは出来ないわ。 恥ずかしいもの……」
「ふえぇ……。 やっぱりみんな恥ずかしい衣装だって思ってたんだ」
「ち、違うのよ! 貴女が戦ってる姿はとても絵になるけど、私が着ても似合わないっていう意味で――」
私は、慌てて訂正をする。
ああいう可愛い衣装は、モモイのような美人なら似合うけど、私のような何処にでもいる普通の女には似合わない。
「それは無いと思うよ、ななみ。 君だって充分美少女だよ!」
後ろから唐突に声をかけられて、驚いて振り返ると、青い猫のぬいぐるみが空中に浮いていた。
「えっ? 何?」
私がぬいぐるみを見た衝撃で固まっていると、モモイが急に元気を取り戻したように話を始めた。
「あっ、やっと来てくれた! ななみ、紹介するね。 彼はブルー。 オレたちの仲間――というか司令官みたいな存在だよ」
モモイは、私のことをすでに仲間としてカウントしているみたい。
「私、まだ仲間になるなんて言ってないわよ」
そう告げると、私はさっさとこの場から去ろうと踵を返そうと――
「いいのかい? 魔法少女になれば君の魂に刻まれし暗黒の封印が解放されるんだよ」
黒き――力の解放?
その言葉で、私の中で何かが弾ける音がした。
あれは、2年ほど前だっただろうか。 とあるライトノベルに嵌った私は、毎晩のように闇の力を解放するための特訓に明け暮れていた。
しかし、力が解放されることなく、次第にそのことを忘れていったのだが、ブルーから言われた言葉が私のそれを呼び覚ました。
ふふふ……。 やっぱり私にも力があったのね。
「ななみ……。 すごくニヤニヤしてる」
モモイにそう言われ、私は、自分の口角が上がっていることにも気づかないほどに喜びを押さえられずにいたことに気づく。
「し、仕方ないわね。 そこまで言うなら……魔法少女になってあげても良いわ」
「ホントぉ? やったー。 うれしいっ! これからよろしくね。 ななみ!」
モモイが飛び跳ねて喜ぶ。 その拍子に彼女が被っていた帽子が落ち、彼女の顔が完全に露わになる。
「やっぱり、すごい美人。 それにアイドルみたいで可愛い」
「あっ! み、見ないでっ!」
モモイは、落ちていた帽子を拾い、再び目深に被りなおした。
ここまで可愛いのなら、周りの目が気になるのも頷ける。
「じゃあ、早速変身してみようか?」
ブルーがそう提案してくる。
「ええ、そうね。 でも、変身しているところを見られる心配は?」
「そこは大丈夫。 今から時間を止めるし、認識阻害の魔法もあるから、変身前から見ている知り合いでもない限りは変身には気づかれないよ」
時間を止めるなんて、物理法則どうなってるのかしら?
魔法がある時点でそんなこと関係ないのかもしれないけれど――
パチン――と、音がしたと思ったら、周りの動きや音が完全に止まったのを肌で感じる。
いま動いているのは、ブルーとモモイと私だけ。
「本当に時間が止められるのね。 それで、どうやって変身すれば良いのかしら?」
私は、ブルーに変身の方法を尋ねる。
「君が思い描く最高の変身をすれば良いさ。 君なら変身アイテムなんて必要ないと思うけれど、どうかな?」
なるほど、それなら変身は簡単そうだ。
「そうね、私には変身アイテムは必要ないわ。 練習してきたとおりにすれば良いのだから――」
2年前に行っていた特訓の成果が、ようやく役に立つ時が来たのだ。
「漆黒の鎖に縛られし闇の封印よ、いまこそ力を解放せよ。 我が魂は其の封印を解きし鍵となりて――」
「あの……ななみさん? それは?」
「うるさいわね! 今、詠唱の最中よ。 邪魔しないで!」
モモイが詠唱の最中に声をかけてくるものだから、思わず反応してしまったけれど、この程度なら問題はない。
私は引き続き詠唱を続ける。
「――暗黒の威光をもって彼の者を撃ち滅ぼす力を与えよ! 我、暗黒のダークパワーをもって漆黒に潜む暗闇を深く切り裂かん」
「な、長い……。 詠唱が長すぎだよ、ななみ!」
長いのは百も承知だし、「黒い黒を黒く」みたいなことを言ってるのもちゃんと自覚してる。
「――出でよ、漆黒の大剣!」
あっ! 間違えた。 これは武器を出す呪文だった。
一瞬そう思ったが、次の瞬間、私は闇に包まれた。
私は闇の中で、自分の感覚が研ぎ澄まされていくのを感じる。
闇に包まれると安心するのは、人間が安心して寝られる生活に慣れた証拠なのかもしれない。
やがて、闇が晴れると、私は黒いゴシックドレスを身にまとう。
手には、死神の大鎌のような大きな鎌を持っていた。
ダークソード……ではなく、デスサイズが出てくるなんて予想外だったけれど、私としては上出来ね。
「ふふっ。 闇より来たりし漆黒の戦士、此処に見参! 我が死神の鎌の錆になりたいのは、どなたかしら?」
私がポーズを決めて二人のほうを振り返ると、二人とも呆然と私を見ていた。
「どうしたの、二人とも?」
「えっ? いやぁ~。 さっきまでのななみと全然違う雰囲気で驚いただけだよ」
モモイがそう言うと、ブルーが続けて言った。
「魔法少女のスーツは、本人の本質を大きくするんだ! ブルームブラックがこういう姿なのは予測してたよ」
すると、モモイがブルーに問い返す。
「え? だったらオレは?」
「君は、可愛いから……かな? でも、ちゃんと必殺技は君に合っているだろう?」
「そ、そうだけど。 オレが可愛い?」
……モモイは、もしかして自分が可愛いっていう自覚がないのかしら?
「そろそろ、時間を動かすね」
ブルーがそう言ってパチンと音が鳴ったかと思うと、周りの喧騒が再び聞こえるようになって時間が動きだしたのを実感する。
「まずいね。 どうやら夢猫町中央公園付近でオルト男爵が暴れてるようだよ」
「またかぁ~。 しつこいなぁ~。 でも、今日はブルームブラックが仲間になってくれたから大丈夫かな」
二人がそんな風に言う。
「私に任せてもらうわ。 このデスサイズの餌食にしてあげる」
「ダークソードじゃなかったの?」
「うるさいわね。 貴女もさっさと変身しなさい! 私は先に行って戦うわ」
そう言って、私は夢猫町中央公園へ向かって駆けて行く。
――体が軽い。 思った以上のスピードに驚きながらもあっという間に現場へとたどり着いた。
「居た! 貴方がオルト男爵ね」
「誰だ! 貴様は?」
「私は、ブルームブラック。 闇より来たりし漆黒の戦士よ!」
オルト男爵はすでに2体の機械騎馬兵を召喚して暴れているところだった。
「ブルームブラックだと? ブルームピンクの仲間か? 厄介な……」
そう言うとオルト男爵は、ターゲットを街の人々から私へと変える。
「行け、機械騎馬兵たちよ! あの女を叩き伏せろ!」
「そうはさせないわ。 我が剣よ、闇の力を解き放て――」
「剣? どう見ても鎌ではないか」
「うるさいっ! 暗黒衝撃波」
私がデスサイズを一振りすると、そこから衝撃波が飛び、その勢いで2体の機械騎馬兵が爆発霧散した。
「――そんなバカなっ! お、覚えてろよ! 今度こそ貴様らを倒してやる」
そう言うと、オルト男爵はすごすごと去っていった。
「おー。 すげーぞ! 黒いネーチャン!」
「見た目はすごいけど、かっこよかったぞ!」
「素敵ですわ~、お姉さまと呼ばせてください!」
街の人々から拍手喝采が上がる。
これが、ブルームピンクが見ていた光景なのかしら。
私は、さっと右手を上げてから会釈をすると、その場から立ち去る。
立ち去る先には、駆けつけてくる途中の二人が居た。
「凄いよ、ブルームブラック! オレたちがあれだけ苦戦してた敵を一瞬で倒しちゃうなんて」
変身したブルームピンクが私に追いつくとそう言った。
「ふふっ、あなたたちが遅かっただけよ」
そう、ただ私が早く現場に駆け付けただけのこと。
「でも、カッコよかったよ!」
ブルームピンクにそう言われると少し気恥ずかしい。
「ま、まあ。 私にかかればこんなところかしら。 あなた一人では大変そうだから、これから私も一緒に戦ってあげるわ」
「ホントぉ~? 嬉しい! 改めて、これからもよろしくね!」
ブルームピンクからの信頼はとても厚く感じた。
* * *
「ふふふ……。 勝利の余韻に浸っていられるのも、今のうちよ」
何処からか、そんな声が聞こえたような気がしたが、振り返っても声の主は見つからなかった。
【次回予告】
ななみです。
モモイの変なところは少し気になるけれど、あんなに美人で可愛いのに自覚が無いってのも問題がありそうよね。
せめて自分のことをオレと呼ぶのだけでも矯正すれば、誰もが放っておかない美少女として街中を歩けるだろうに。
でも、そんなところが彼女の魅力なのかしら。
さて、次回は
「咲き誇れYumeBloom」第5話
『ピンクがピンチ? 謎の女幹部登場!』
乞う、ご期待!
漆黒の闇に咲き誇れ、YumeBloom!




