第3話 『正体を隠せ! ブルームピンクの勧誘作戦』
オレ――桃山あおいが初めてブルームピンクに変身したあの日から、数日が経った。
あれからあの男――オルト男爵は、毎日のように街に現れては、機械騎馬兵を召喚し、そのたびに出動するという日々が続いていた。
幸いなことに、襲撃の時間が毎回放課後の時間帯になるため、オレの日常生活には影響がなかった。
あの日オレに声をかけてきたぬいぐるみ――名はブルーというらしい――が調べた情報によれば、オルト男爵は、日中は普通の人間のふりをしてコンビニでアルバイト店員をしているらしい。
そのまま真っ当に生活していてくれたら良いのに、何故か、毎回アルバイトが終わった後に駅前で侵略活動をしているようだ。
「来たれ! 天空に控えし我が機械騎馬兵たちよ! 今日こそブルームピンクを屠るのだ!」
今日もオルト男爵が、いつものように機械騎馬兵を召喚した。
「フハハハハ! どうやら今日は調子が良いようだ! いままで1体しか召喚出来なかったが、今日は2体召喚できたぞ!」
「に、2体……?」
確かに、今日は2体の機械騎馬兵が召喚されたようだ。 それも初めての戦いのときのように壊れているわけでもなさそうに見える。
「うわ、一度に2体も相手にしないといけないなんて、やばいかも」
オレは、思わず後ずさる。
「焦らないでブルームピンク! 1体ずつ確実に倒していこう!」
ブルーがアドバイスをしてくれる。
確かにブルーの言う通り、大して強い相手ではないので1体ずつ倒していければ良いのだけど――
「無理ぃ~! なんでこいつら、オレのスカートばかりしつこく狙ってくるのぉ~?」
機械騎馬兵が2体同時にオレのほうへ突進してきて、オレのスカートの裾やフリルに武器をひっかけるような攻撃をしてくるため、避けるのに気を取られて戦うことが出来ない。
「フハハハハ! 俺様とて、いつもいつも無様に負けているわけではないぞ! 既に、貴様の弱点は羞恥心だということを見切った! だから、こうやって貴様が攻撃できないようにすれば今度こそ俺様の勝利だ!」
オルト男爵がそうやって煽ってくる。
「ズルいぞ! オルト男爵!」
「騎士の風上にも置けん!」
「そうだそうだ!」
「ブルームピンク! がんばってー!」
観客たちもヤジを飛ばす。
「がんばれー! もうちょっとだぞー!」
「まけるな~! 頑張ればなんとかなるぞー!」
……君たちはどっちの味方なの?
「お? 今、俺様を応援してくれた者よ! 俺様の配下にならないか?」
オルト男爵が自分を応援したっぽい人物を勧誘すると、勧誘された人物が一言――
「いまだよ! ブルームピンク! オイラが隙を作ってあげたんだ! あとでデートして!」
……デートはともかく、隙を作ってくれたのはありがたい。
「必殺! フレイムアタック――」
オレは必殺技で、まずは1体を倒す。
「――からのぉ~、ダブルアタック!」
先ほど倒した機械騎馬兵が爆発する衝撃波が連鎖して、もう一体も巻き込まれるように爆発した。
「く、くそぉ~っ! 今日のところはこれくらいで勘弁しておいてやる! さらばだ!」
爆発の衝撃を目の当たりにしたオルト男爵は、逃げ口上を述べてそそくさと帰っていった。
「ありがとう~ブルームピンク!」
「僕らのヒロイン~」
「助かったよ!」
「約束通りデートして!」
街の人たちから感謝の声が――
「……っていうか、デートの約束なんてしてないよ! でも、助けてくれたのはありがとうね」
「うんうん、ブルームピンクに感謝されるだけでも幸せだから良いよ~」
そんな感じに、今日の戦いも何とか無事に勝てた!
* * *
戦いが終わって人もばらけてきたため、オレは変身を解くためにブルーと共に路地裏へと移動する。
「ねえ、ブルー。 とうとうオルト男爵が2体も敵を出すようになってきたけど、やばくない?」
「確かにやばい状況だね。 ……オレたちも仲間を増やそうか」
ブルーが仲間を増やすのを提案する。
「仲間かぁ~」
「……もしかして、気が乗らない?」
ブルーが首を傾げながらオレの顔を覗き込んで聞いてくる。
「いや、もしかして他の男子も女の子にするつもりなのかなと」
「それは無いから、安心して! 君は特別だっただけさ」
「ということは――」
「仲間になるのは、普通に魔法少女の適性がある女の子になるはずだよ」
なるほど、オレのような被害者が増えないのならそれは良いことだけど、一つ問題がある。
「でも、その女の子にはオレの正体がバレちゃうわけだろ? ブルームピンクに変身しているのが本当は男だって知られたら……もう、お嫁にいけないかも」
「君は将来、お嫁さんになりたいのかな?」
「いやいや、そんなことあるわけないでしょ」
どうも変身中は思考が女の子っぽくなってしまって困る。
「だったら、変身したままで勧誘すれば良いんじゃないかな」
ブルーはそう提案してくるが――
「それって、めちゃくちゃ目立っちゃうじゃない? 最近は学校でもブルームピンクの話題が出るくらい知られてきてるみたいだよ」
「だったら、変身したままで普通の服に着替えたら良い。 君、たしか人気アイドルのお姉さんが居たよね。 彼女の服を借りたら良いんじゃないかな」
「え? 姉ちゃんの服を着るの? それって完全に女装じゃん!」
たしか姉ちゃんはアイドルの衣装のほかにも結構おしゃれな普段着を持ってたはずだけど、どの普段着もすっごくヒラヒラしたスカートばかりだったような気がする。
姉ちゃんとオレは一卵性双生児で同じ顔をしているから、いつも姉ちゃんの恰好を見てるとき、まるでオレが女装してるみたいな気持ちになっていた。
それを本当に自分で着ちゃうなんて――
「……さすがにムリぃ~。 女の子の恰好するなんて、恥ずかしくて死ぬぅ~」
「君、今は女の子なの忘れてない?」
「そ、そうだけどぉ~。 これは、気分の問題なのっ!」
「だったら、勧誘の時だけ着替えることにしたら?」
「ううぅ~。 それしかないのかなぁ~」
オレは、半ばあきらめて、変身したまま女装して勧誘することに渋々了承した。
そんなわけでオレは変身を解いた。
ブルーの姿は、魔法の適性が無い者には見えないらしく、誰もオレの隣にブルーが並んで歩いていても気づかれることは無いようだが、
「逆に言えば、素質のある人間には君の正体がバレる可能性があるってことだけどね」
「そ、それは困るから、なるべく離れて歩いて!」
というやりとりがあったため、オレが変身していないときは、ブルーはオレから見えないところまで離れて、念話で意思疎通するようになっている。
(じゃあ、一旦家に着替えを取りに帰るね)
(うん、なるべく戻ってくるまでに見つけておくよ)
と、念話で話をしてから、着替えを取りに一旦家へ帰った。
* * *
「ただいま~。 ……よし、とりあえず姉ちゃんは居ないみたいだな」
玄関をくぐると、姉ちゃんの靴が無いことを確認する。
「あら~? あおい、おかえりなさい」
夕飯の支度をしていた母親がキッチンから声をかけてくる。
「ただいま。 ちょっとしたらまた出かけるつもり」
「あら、そうなの? 晩御飯までには帰ってきなさいね」
「うん、わかった!」
そう言うと階段を上り、自分の部屋の隣――姉ちゃんの部屋のドアノブを回す。
久しぶりに姉ちゃんの部屋に入ったけど……結構散らかっている。
オレは、クローゼットに並んでいる姉ちゃんの服の中から、まともそうなものというか、普通に街に溶け込めそうな服を探す。
――この辺は、派手なのばかりだけど、アイドルの衣装かな?
こっちは、どこかの制服みたいだけど見たことない服。 コスプレ衣装かな?
おっ! このあたりの服なら、まともそうかも……
オレは、姉ちゃんのクローゼットから、白いワンピースと、つばの広い白い帽子を拝借することにした。
姉ちゃんの服をリュックに詰めて、再び駅前へと繰り出す。
* * *
(ブルー、今どんな感じ?)
(今、ちょうど魔法の適性がありそうな子が見つかったところ)
(わかった。 じゃあ、すぐに変身して着替えて行くね)
適性のありそうな子が見つかったようなので、オレは路地裏に入り変身をすると、その上から姉ちゃんのワンピースを着る。
ワンピースを頭から被るように着ると、なんだか丈が思ったより短いような気がする。
この前、姉ちゃんが来てるのを見たけど、ここまで短くなかったような気がするけど――と首を傾げながら一つの結論に至った。
今のオレは変身して成長しているからだった。
普段のオレと姉ちゃんは、ほとんど同じ背丈だ。
だから、姉ちゃんが着ているとき膝がすこし隠れるくらいの丈だったはずなのに、今のオレが着ているのは膝上が見えるくらいの長さになっている。
「すこし、きついかも」
成長してサイズが合わない服を無理やり着ている感覚。
どうやら、変身して変わっているのは背丈だけじゃなかったらしい。
「うううぅ~。 こんな格好で人前に出ないといけないのぉ~?」
オレは、恥ずかしさを紛らわすように、一緒に持ってきた白い帽子を深く被って、ブルーが居る書店のほうへと向かった。
* * *
「ほら、あの子だよ!」
書店の前でブルーと落ち合うと、書棚の向こう側にある参考書のコーナーを見るように手で合図をされた。
そこには、いかにも清楚そうな黒くて長いストレートへアーをした夢猫高校の制服を着たお姉さんが参考書を物色している姿があった。
「うわぁー。 すごくきれいな人だ」
思わず見惚れてしまいそうになるが、今回の目的は、あのお姉さんに魔法少女の仲間になってもらうこと。
――オレは意を決してお姉さんへ近づき声をかけた。
「あの、すみません。 ちょっといいですか?」
「嫌です!」
速攻で断られてしまった!
オレが涙目でブルーに助けを求めようかとオロオロしていると、お姉さんが心配そうにオレの顔を覗き込んで優しく話しかけてくれた。
「ごめんなさい。 急に話しかけられたものだから――まずは、泣かないで!」
オレの様子を見て、お姉さんも狼狽えているようだ。
とにかく、勧誘しないと。
「ここだと話しづらいから、ちょっとあそこの路地裏あたりでお話ししたいです」
「え? それは嫌かも……」
オレは再び涙目になり、お姉さんが以下略――
そんなやり取りの後、オレたちは路地裏に出る。
「ううぅ……。 もう、意地悪しない?」
「しないわ。 約束してあげる。 それで、私にどんな御用かしら?」
「あのね、お姉さんに頼みたいことがあるんだけど――」
オレの言葉を遮るように、お姉さんが手のひらをオレの口元に持ってきて言う。
「あなたも高校生くらいでしょう? 高1の私がお姉さんなんて呼ばれるのは釈然としないわ。 私のことは、ななみと呼んで」
今のオレは少し成長しているから高校生に見えるらしい。 お姉さん――ななみから見たら同い年か年上に見えるようなので、そのように振舞わないといけないようだ。
「わかった、改めてななみに頼みたいことがある――」
「その前に、貴女の名前も教えて頂戴。 私だけ名乗るのは不公平だわ」
「そ、そうだね」
名前? ここで本名を言ってしまっては変装している意味がなくなる――
「……え~っと。 オレは、モモ……イ。 モモイです! オレの名前はモモイ! よろしく、ななみ!」
咄嗟に出た偽名がモモイだった。 桃山あおいだからモモイ。 我ながら安直すぎる。
「そう何度も連呼しなくても、覚えたわ。 よろしくね、モモイ」
「よろしく」
改めて自己紹介を済ませたオレたち――とはいえ、オレのほうは完全に偽名だけど。
「それで、私にどんな御用かしら?」
ななみはオレの正体に気づかないまま尋ねてくる。
「あのね、オレと一緒に魔法少女としてオルト男爵と戦ってほしいんだ」
オレがそう言うと、ななみはハッとした顔になった。
そして、周囲を見回してから、声を潜めて言った。
「あなた、もしかして話題の正義の味方なの?」
「え? そうだけど」
「バカッ! 正義の味方がそう簡単に正体をバラしちゃダメでしょう? 誰が聞いているのかわからないのよ」
普通に怒られた。
でも、すごく心配してくれてるのが分かって嬉しい。
「はあぁ~。 まあいいわ。 さっきのは聞かなかったことにしてあげる」
「あ、ありがとう……。 それであらためてなんだけど、魔法少女になってくれないかな」
オレは改めて、ななみに頼み込んだ。
「え? 普通に嫌ですけど?」
――即答だった。
【次回予告】
あおいだよ!
いつも着ている魔法少女の衣装だけでも恥ずかしいのに、勧誘のために姉ちゃんの服を着るなんて、恥ずかしすぎて死んじゃいそう。
でも、一緒に戦ってくれる仲間を集めるためには仕方がないんだよね。
っていうか、早速断られたんだけどどうすれば良いのぉ~?
さて次回は、
「咲き誇れYumeBloom」第4話
『闇より来たりし漆黒の戦士』
って、何? この不穏なサブタイトルは?
と、とりあえず次回も――
咲き誇れ、YumeBloom!




