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第2話 『ドキドキの初陣! 魔法少女ってどうやって戦えば良いの?』

 ――それを見てしまったのは本当に偶然だった。


 空から降ってきた黒いロボット騎兵。

 わたし――花風静流は、人々が逃げ惑う中、一人立ち尽くしているあおいくんの姿を目に捉えていた。


 あおいくんの背後に青い猫の姿をしたぬいぐるみが浮いていた。

 明らかに異質な存在。 もしかして、あのオルト男爵と名乗る男の仲間なの――? 


「あおいくん! 危ない!」

 わたしが彼にそう声をかけようとしたときだった――


 先ほどまであおいくんが居たはずのあたりが突然ピンク色に光った。

「な、何? 何が起こってるの?」

 わたしは突然の光に驚いた。


「あおいくんは無事なの?」

 彼のことが心配だ――。 何事もなければ良いのだけど……。


 やがて光が消えたかと思うと、彼が立っていたはずの場所にフリフリの衣装を着たあおいくんよりも少し背丈の大きな女の子が立っていた。


「なんで女の子になってるんだよ!」

 女の子はとても可愛らしい声でそう言うと、自分の手や足、着ている衣装をいちいち確かめるような動きをして頬を赤らめる。


「さあ、今こそ戦うんだ! ブルームピンク!」

 女の子のそばにいた猫のぬいぐるみが、そう言った。


「ブルームピンク……。 なんて可愛らしい響き……」

 何だろう……。 昔見ていた魔法少女のアニメを思い出させる姿。

 ――いや、きっと彼女は魔法少女なのだろう。

 どうやら今初めて変身したみたいに戸惑っている姿がとても愛おしい。


 ――そういえば、あおいくんは? 

 わたしはそう思いだして、あたりを見回してみたけど、あの子の姿だけがどうしても見つからない。

 大丈夫なのかしら? 

 そんな心配をしていたところ、女の子がぬいぐるみに話しかけた。


「ねえ、オレが変身したところ、結構たくさんの人に見られてたけど大丈夫なの?」

「そこは大丈夫だよ! 君の着ている魔法少女フォームには認識阻害魔法がかかっているから……」


「認識阻害?」

「そう、君のことをよく知っている人でもなければ、今オレたちが話している内容も分からない」


「でも、変身するところが見られたのは?」

「時間が止まってたわけだし、変身前から君のことを見ていた人じゃないと認識できないよ」


 女の子とぬいぐるみはそんな会話をしている。


 ――待って待って! わたし、今の話、めちゃくちゃ聞いちゃったんですけど? 

 え? つまりあの女の子ってもしかして、あおいくん? 

 わたしが一人困惑していると、女の子たちが決定的なことを言ってしまう。


「そう、だから君の正体が桃山あおいだってことは、だれも気付かない!」

「そっかー! なら、安心だねっ!」


 ――全然、安心できないんですけど? 

 近所の可愛い男の子が、可愛い魔法少女になってるんですけど? 


 わたしの心配をよそに、二人は黒い騎兵と戦い始める。


「えいっ!」

 女の子――ブルームピンクに変身したあおいくんが黒い騎兵に向かってキックを放つ。

 その瞬間、フリルのたくさんついたスカートがひらりと揺れた。


 ここはオタク街が近い駅前。

 そんな場所で魔法少女が華麗にキックなんてしたものだから、周囲から「おおっ!」という歓声が沸いてしまう。


「きゃっ!」


 ブルームピンクは慌ててスカートを押さえた。


「何してるのさ、ブルームピンク! 君の衣装は、絶対に下着とかが見えないように出来てるから安心して戦いなよ!」

「そ、それを先に言ってよ~」


 ブルームピンクは顔を真っ赤にしながらそう言うと、一度だけスカートの裾を気にした素振りを見せたあと、覚悟を決めたように顔を上げた。


 それにしても、男の子のはずのあおいくんが何故か女の子みたいな理由で恥じらいを見せている。

 これも認識阻害? 

 それとも、魔法少女になっているあおいくんは、意識が女の子になってるのかしら? 


 わたしは、あおいくんの戦う姿を見つめながら、今分かっていることを整理する。


 1つ、あおいくんは魔法少女ブルームピンクに変身した。

 1つ、魔法少女の変身は親しい人が最初から見ていない限り、ほかの人には認識できない……らしい。

 1つ、魔法少女の衣装は認識阻害がかかっているため、ぬいぐるみとのやり取りも親しくない人には聞こえない……らしい。

 1つ、あおいくんは魔法少女になると、意識が女の子のようになる……らしい。

 1つ、魔法少女になったあおいくんは可愛い。


 ――うん。

 これはもう推すしかないでしょう。


 この瞬間、魔法少女ブルームピンクはわたしの最推しとなりました。


 こうなったら、これからも陰で見守って、あの子を最後まで支えていくしかない。

 もちろん、こんな事あおいくん本人には言えないけれど。


 わたしが一大決意をしている間に、いつのまにか戦いはクライマックスへ突入していた。


「ブルームピンク! 今こそ、必殺技を使うんだ!」

「必殺技? かっこいい響きだね!」


 あ、食いついた。


「君の特性はカード! カードをベルトにセットすることで必殺技が出るはずだよ!」


 どうやら、ヒーローに憧れるあおいくんらしい必殺技のようだ。

 魔法少女らしいかと問われると疑問が残るけれど……


「分かった! じゃあ、いくよ――カードチェンジ<炎>っ!」

 そう言うとブルームピンクは、腰のベルトにつけられたガジェットのくぼみに赤いカードを装填する。


 ――Card exchange approved <Flame>


 腰のベルトから、英語のアナウンスが聞こえたかと思うと、ブルームピンクが真っ赤な炎に包まれる。


 大丈夫なの? 

 熱くないの? 


 そう心配になったけれど、ブルームピンクは今日一番の楽しそうな笑顔を見せた。


「へへっ! これだよ! オレがやりたかったのは……!」


 その笑顔は、魔法少女というより、完全にヒーローに憧れる男の子のものだった。


 ブルームピンクは炎をまとったまま、黒い騎兵に向かって突進していく。

 その軌跡には残像のようにまっすぐな炎の線が刻まれていった。


 やがて、その残像となった炎は、ブルームピンクの右手へと集まり、一本の大剣へと姿を変える。


「必殺! フレイムアタック!」


 ブルームピンクは、手にした炎の大剣で黒い騎兵を一閃した。


 次の瞬間、騎兵の体に赤い光の線が走る。


 ブルームピンクは、そのまま騎兵の背後へ着地し、勢いよく振り返ってポーズを決めた。


 少し遅れて黒い騎兵が大きな爆発音とともに吹き飛んだ。


 ――もうこれ、魔法少女じゃなくて特撮ヒーローの戦いそのものだよ。

 あおいくんらしいといえば、ものすごくあおいくんらしいのだけれど。


 * * *


「おのれおのれ……! 何なんだ? お前は一体何なのだ?」

 黒い騎兵を操っていた男――オルト男爵が、悔しそうに歯噛みをしながらそう叫ぶ。


「オレは、ブルームピンク! ……えっと、正義の味方だ!」

 ブルームピンクが名乗りを上げる。


「おのれ! ブルームピンク! 今日のところはこれくらいで勘弁してやる! 次こそは――」

 オルト男爵はそう言うと、「お、覚えてろよ~!」と捨て台詞を吐いて去っていった。


 悪者が去ったことで一気に街が沸く。


「うおぉぉーっ!」

「ありがとう! ブルームピンク!」

「素敵!」

「新しいヒーロー。 いえ、ヒロインの誕生ね」

「かわいいー」

「一目見て、ファンになりました!」


 街の人々から絶賛の声が届けられると、それを聞いていたブルームピンクはとても恥ずかしそうに、でも満更でもなさそうな表情をする。


 ふと、わたしもあの歓声の中に紛れて絶賛しようかと思ったけれど、やることが出来たので、そっと離れることにした。


 * * *


 さきほど情けない口上とともに逃げて行ったオルト男爵についてだけれど、普通に路地裏の方向へ歩いているだけだった。

 それでも街に被害を与えた人物には違いないので、周りの人々は彼が進む道をモーゼが海を割るかのように開けていく。


 わたしは、そんなモーゼの海を割るように進むオルト男爵の後を追いかける。


 あおいくんを助けたい。

 彼の支えになってあげたい。

 ただ一つの目的のために――


 【次回予告】


 静流です。

 可愛いあおいくんが魔法少女になって戦う姿、とても可愛かったわ。

 わたし、これからも彼の……いえ、彼女のことを断然応援しちゃう! 


 そうだ! 

 ファンになったという街の人も居たことだし、いっそのことブルームピンクのファンクラブを作ってしまおうかしら? 


 さて、次回は

「咲き誇れYumeBloom」第3話

『正体を隠せ! ブルームピンクの勧誘作戦』

 乞う、ご期待! 


 ……あの? スタッフさん、この台本合ってますか? 

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