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第8話 『闇の†邂逅†』

 さきほど、オルト男爵から渡された薬を飲んだ私は、今まで心の奥底にしまっていた何かがあふれ出しているのを感じていました。


 今の私は、自分のことのはずなのに普段の私がなぜあんなに目立たないように過ごしているのか、不思議でなりません。


 とにかく、今の私は普段とは全く違う感覚に陥っていました。

 これは、ネットゲームでの†漆黒ノ幻影†とは明らかに違う感覚です。


 ゲームの中では、ただ、†漆黒ノ幻影†というキャラクターを演じていただけでした。

 でも、今の私は†漆黒ノ幻影†という存在そのものが、私の中から前に出てきている感じがしています。


「んなぁっ? シッコクノゲンエイ! 貴様もか――」


 オルト男爵が大きな声でそう叫びました。


 そんな彼のことはどうでも良いとして、私は今、何をしようか。

 ブルームブラックに会えた時に備えて、どうすればかっこよく見えるのか、研究でもしようか。


 そんなことを考えていると、騒ぎ――というかオルト男爵の叫びに駆け付けた正義のヒロインたちが目の前に現れました。


「オルト男爵! また今日もなにか悪いことをしようとしているみたいだけど、悪だくみは許さないぞ!」

 そう勇ましく言い放つのはブルームピンク。 そして――


「また、私の暗黒衝撃波(ダークインパクト)で吹き飛ばされたいのかしら」

 ブルームピンクの横には、憧れのブルームブラックが凛として立っていました。


 ――ついに会えた。 会いたかった。


 私は、その感動に打ち震えながらブルームブラックの前へ歩み寄り、彼女の前に立ち、自己紹介をします。


「ククク……。 貴様がブルームブラックか。 我が名は†漆黒ノ幻影†(しっこくのげんえい)。 闇に生き、闇を食らいて生きる闇の戦士である」


 私がそう言うと、ピコンという音がして、自分の頭上に影が差しました。

 ブルームブラックは音のしたほうを凝視しピクリと眉を上げると、そのまま視線を私のほうへ戻すと、私の挨拶に返事をしてくれました。


「†漆黒ノ幻影†……ね。 あなたの頭上のそれは何かしら?」


「頭上……?」


 私は、視線を上げ、先ほど影が差したところ――自分の頭上を確認しました。


『†漆黒ノ幻影†』


 私の頭上には、そう書かれたゲームのキャラクター名のウィンドウがありました。


「フッ、これは我が闇を貴様にも分かるように示した、闇の黒き印だ」


 取りあえず、それらしい言葉でごまかします。


「もしかしてあなた、まだ闇の力に目覚めて間もないのかしら?」


「ムッ? なぜ、そう思う?」

「闇って言いすぎ! なんでもかんでも闇と言えば良いわけじゃないわ」


「!?」

「そういうのは、中学生くらいで卒業なさい」


 憧れのブルームブラックが、自分のことを棚に上げてそう言い放つのにショックを受けました。


「き、貴様こそ……、普段から闇のとかダークとか言っているではないか」

「私は、戦闘中にしか言ってないわ」


「戦闘中だけ?」

 ……私は、ブルームブラックの普段の言動をあまり知らない。 そう言われたらそうなのかもしれないと思えてきます。


「そうよ。 戦闘中に詠唱として使うことで、自分の力を高めることができるの。 それ以外で使うなんてただのイタイ子よ」


「イタイ子?」


「闇の力というものは、それほど奥が深いものなのよ」

「我が闇が薄っぺらいというのか?」


「黒いだけが闇ではないということよ。 もっと本質を磨きなさい」


「な、なるほど……」

 ブルームブラックが何を言ってるのかは、いまいちよく分からないけれど、何故か彼女の話に妙に納得してしまいました。


「ふむ……。 では、貴様の言う闇の本質というのをもっとよく見せてもらおうか」

 私は、目の前で彼女の姿を見たいという思いから、ブルームブラックにそう尋ねました。

 私が自分の手で額をおさえて、かっこよさそうなポーズをとっているのは、きっと†漆黒ノ幻影†の意識に引っ張られているからです。


「それこそ、軽々しく見せるものじゃないわ。 でも、どうしてもと言うのなら見せてあげる」


 ブルームブラックは、そう言うと、彼女の武器――死神の鎌のようなものを両手で構えました。


「闇とは、ただ暗いだけのものじゃないわ。 どんな光も通さないからこそ、すべてを包み込む。 人は孤独の中でこそ、その本質がよりはっきりと分かるの。 その孤独を自分のものにできたものだけが闇の本質を理解できるのよ」


「……闇の本質」


 彼女の言葉は難しすぎて完全には理解できません。

 ですが、その言葉は妙に私の胸に響きました。


「そして、その闇の本質――魂を刃に乗せる」


 ブルームブラックの鎌に、黒い力が集まっていきます。


「夜の帳に沈みし影よ。 静寂の底より咲き誇れ――暗黒衝撃波(ダークインパクト)」


 ブルームブラックが鎌を振ると、黒い稲妻のような衝撃波が地面を走りました。

 衝撃波は、私の目の前で左右に分かれ、両脇をかすめるように走り抜けていきます。

 二つの衝撃波は、そのまま弧を描くように進み、私の周りに小さな円陣を作ります。

 直後、円陣から黒い稲妻が空に向かって弾けるように走り、私の体をびくりと震わせました。


「どうかしら? これが、魂を刃に乗せる――ということよ」


 ……凄いです。

 さすがはブルームブラックです。

 私を攻撃しようというものではなく、明らかに『格の違いを見せるだけ』という意思が感じられる攻撃でした。

 とても美しく、気高さを感じさせられました。


「魂を刃に……。 クハハハッ! 確かに魂を感じさせる攻撃のようだ! では、次は私の攻撃の番だな!」

「ふふっ……。 見せてもらおうかしら、貴女の魂のこもった攻撃を……」


 私は攻撃の準備をします。

 ……って、ちょっと待ってください! 

 私に攻撃の手段なんて――。

 ………………

 …………


 ……あ、ありました! 

 今の私は、†漆黒ノ幻影†。 ゲームのキャラなのだからゲームの技が使えるはずです。


「フッ! では見るがよい! 我が魂の一撃を!」


 私は詠唱を開始します。

 ゲームのシステムには詠唱が存在しないのですが、私は詠唱をしてから魔法を使っているのでいつも通りに唱えます。


「黒く染まりし暗黒の闇より出でし、深き闇よ。 彼のものを永劫の闇へと誘(いざな)え! 暗黒の睡魔(ダーク・スリープ)」


 私は、ゲーム上では『スリープ』と呼ばれる魔法を唱えました。

 自分よりレベルの低い相手を眠らせる魔法です。


 詠唱が終わった瞬間、私の目の前にゲームで見慣れたシステムメッセージが表示されました。


 > 未登録のスキルが発動されました

 > 詠唱よりスキルを解析します

 > 解析完了:敵を眠らせるスキルと推測

 > 消費コストは10です

 > コストが足りません。 現在の残りコストは6です。


 ブルームブラックが不思議そうにこちらを見ています。

「どうかしたのかしら? 呪文を失敗したように見えたけれど」

 完全に見透かされています。


 > 現在使用できる呪文は『|†††漆黒ノ断罪†††《しっこくのだんざい》』のみです。

 > 消費コストは5です。

 > 呪文はインストール済みです。

 > 続けるには、呪文を唱えなおしてください。


 ……そんな魔法は知らないけど、カッコよさそう! 


「クッ! 仕方がない」


 私は、少し気恥ずかしさを感じたため、先ほどよりも大きな声で呪文を詠唱しました。

「我が深淵に眠る闇の調停者よ、今こそ目覚めて我が眼前の敵を暗黒へと誘(いざな)え! †††漆黒ノ断罪†††ッ!」


 > スキル『†††漆黒ノ断罪†††』を使用します


 詠唱が終わったと同時に、そういうシステムメッセージが表示されると、私の中から黒いオーラがあふれてくるのを感じます。

 それとは別に、私の右手が紫色に光りだしました。


「なんだ? 急に暗くなったぞ」

「もしかして、あの黒い女の子のしわざ?」

「あの子の手、光ってる!」

「やだー! バズリそう。 SNSに上げないと!」


 街の人たちが私のほうを見て騒いでいます。

 今の私、みんなに注目されています! 

 こんな事は初めてです。


 私の右手の光は、そのままブルームブラックのほうへ飛んでいくと、ブルームブラックの目の前で、たくさんの光の粒となって四方八方へ散らばりました。


「きれい……」

「花火みたい!」


 そう、これはどう見ても花火でした。

 花火の光とともに、辺りの闇もすっかり晴れてしまいました。


「ふふっ…… 大層な名前と演出の割には、陳腐な技ね」


 ブルームブラックは、とても目の前で花火の光を浴びたとは思えないほど堂々としていました。


「陳腐だと?」

「ええ。 ただ派手なだけで、何も伝わらない技だった」


「なにも伝わらなかった?」

「そうね、詠唱もまだまだ未熟。 詠唱というものは、ただ唱えれば良いというわけではないの」


「ただ唱えれば良いというわけではない?」

「詠唱には、魂が込もっていないといけないの。 それが出来ていない貴女は、まだ未熟」


 凄いです。

 魂の込めかたとか、彼女の言っていることはよく分からないです。

 よく分からないけれど、これが彼女――ブルームブラックの矜持なのだということだけは伝わってきました。


 私は、敵としてブルームブラックの前にいるのを忘れて感心してしまいました。


「……ねえ、オルト男爵」

「なんだ、ブルームピンクよ!」

「あれは、戦いなの?」

「分からん! 俺様にも分からん」

「敵同士……なんだよね」

「そのはずなんだが……。 自信が無くなってきた」


 少し離れていた所で戦っているブルームピンクとオルト男爵が、そんな会話をしていました。


 二人がそんな会話をしているなと意識していると、いつの間にか鎌を構えたブルームブラックが私の目の前に居ました。


「さて、今更だけど、貴女――†漆黒ノ幻影†は私の敵ってことで良いのかしら?」

「フッ、愚問。 私は、貴様の永遠のライバルとなる者だ!」

「そう……。 それなら、もっと闇を研ぎ澄ましなさい!」

「ククッ! ならば今宵はここまでにしておいてやろう。 貴様の闇、確かに見届けた」


 私は、そう言うとマントを翻しながらブルームブラックに背を向けました。


「では、また会おう。 さらばだ、ブルームブラック!」

「ふふっ、いつでも相手になってあげるわ」


 その言葉を聞いた瞬間、私は胸がいっぱいになりました。


 私は、ブルームブラックに挨拶をすると、そのまま人混みの中に紛れていきます。


 私を避けていく観客たち。

 今の私は完全に目立っています。

 でも、私は知っています。

 このまま変身を解くとどうなるか――


「き、消えた?」

「え? ウソ? さっきまでこっちに向かって歩いてたよね?」

「に、忍者?」


 街の人たちは、変身を解いた私に全く気付きませんでした。


 私はそのまま何事もなかったかのように自宅へと帰りました。


 自分の部屋までたどり着いた私は、制服のままベッドに突っ伏しました。


 変身が解けたことで、私は自分の意識を取り戻しています。

 そのため、とてつもない後悔とブルームブラックに会えた喜びが私を同時に襲ってきました。


 ――なんで私は、悪の組織に加担しちゃったの? 

 でも、憧れのブルームブラックに会えた。

 尊大な態度をとっちゃったけど、図々しいとかおもわれたかな。

 私の技が未熟だって、わかっているけど直接言われたのは、ちょっとショック。

 でもいろいろ教えてくれた。

 やっぱりブルームブラックはカッコよかった。

 素敵だった。

 また会ってくれるって言ってくれた。

 嬉しい。


 私は、これからも†漆黒ノ幻影†として、ブルームブラックに対峙することになるだろう。

 いつか、†漆黒ノ幻影†ではない、本当の私――鳥野 珠代として彼女に会えたら。


 そんな日を夢見ながら、私は今日の出来事を日記に綴るのでした。



 【次回予告】

 あおいだよ! 

 新しく出てきた難しい漢字のシッコクとかいう女の子、なんかブルームブラックと雰囲気が似てるね。

 でも、ななみにそうやって言ったら、全然違うんだって。

 ああいうのって、中二病って言うんでしょ? 

 オレのクラスにも少しいるよ。

 変な子だなって思ってたけど、最近はななみと話す機会が多いから少し慣れちゃった。


 さて次回は、

「咲き誇れYumeBloom」第9話

『夢猫町の聖女』


 次回も――

 咲き誇れ、YumeBloom! 


自分の中二病への解像度が低すぎて、前の話よりも執筆に時間がかかりました。


今回はブルームブラックと†漆黒ノ幻影†の邂逅回ということで、いつもより中二病成分多めのお話になっています。

ただ、この方向性がメインというわけではないので、今後は必要なところで少し出てくるくらいになる予定です。


次回は新しいキャラクターにスポットを当てたお話になる予定です。

現在、第9話は構想中ですが、ほかのコンテンツ制作も並行しているため、次回更新まで少し間が空く可能性があります。


引き続き、のんびりお付き合いいただけると嬉しいです。

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