第6話 Brown is justice ~茶色は正義~
翌日の王都新聞はジェーン達のことが一面に載っていた。
『悲恋の歌姫熱唱! 若きオーケストラの演奏が引き出す魂を震わす恋の歌』
朝食を食べながら、新聞を読んでいた。
(やだぁ、無料広告出てるじゃない! 今度はアマテラスの看板を立てて歌うわ)
「ジェーン、行儀が悪いですよ」
母アンリが注意をした。
「ごめんなさい、ママ。自分が出てる新聞なんて初めてだから嬉しくって!」
そう言うと、アンリは目を細めた。
「切り抜きが見たいならお父様に言いなさい。あの人、地方紙まであなたの切り抜き取っているから」
「あら、パパさんたら親バカね」
こういう関係って、前世を思い出しても久しぶりだからノスタルジーな気分になる。
「ねえ、リュークはどうだった?」
「俺か? 俺は……」
とっさに言われて、リュークは困っていた。
リュークは少し視線を逸らした。
「歌は、専門外だからよく分からない」
「あら」
「だが……目が離せなかった」
一瞬言葉を探してから続ける。
(やだぁああああ! かわいい! リューク推しで良かったわ)
「ちょっと、ママー。うちの旦那様可愛すぎるわ!」
ジェーンがそう言うと、リュークの顔は赤くなっていった。
「かわ……、男にかわいいはおかしいぞ!」
「んもう、古風なのね。『かわいい』は愛しい気持ちの表現よ」
「いってくる!」
リュークは、朝食を食べかけたまま、席を立った。
◇
在籍する王立騎士団に到着しても、リュークはジェーンの言葉が頭から離れなかった。
『かわいい』は愛しい気持ちの表現……。
その言葉を頭の中で繰り返していた。
「いや、違うだろう」
誰に聞かせるでもなく呟く。
だが、否定するたびにジェーンの笑顔が浮かんだ。
練習場に向かうと部下達が話していた。
「隊長の奥さん、すごかったなー」
「きれいっていうのもあるけど、歌も上手いし、何より聞き惚れてしまったよ」
自分の妻が褒められるのは悪い気がしない。
「あの歌、全部隊長の奥さんが作ったらしいぞ」
「戦争中は防衛軍として、地方地区の指揮も執ってたのが信じられないよ」
「でも、悲しい歌が多かったよな」
「貴族同士の結婚だから、報われない恋だって仕方ないさ」
その言葉に心臓が鳴った。
何故だろう。彼女に想う相手がいたとしても不思議ではない。
むしろ、自分も政略結婚の駒だと考えていた立場だった。
それなのに――、ジェーンの魂が変わったことを忘れて、普通の夫婦を夢見てしまった。
雑念を振り払うように、訓練に打ち込む。
正午になり休憩時間に入ると、部下達がざわめき始めた。
「あれ歌姫じゃないか!」
「本物か?」
視線の方を見るとジェーンがいた。
「リュークー! お弁当持ってきたわよー!」
ボストンバッグのような大きなバスケットを持って、手を振るジェーン。
「元騎士とはいえ、重いだろう!」
リュークは慌てて、荷物を持つ。
「リュークたら、朝ごはん、ちゃんと食べていかなかったでしょ? 差し入れよ、さ・し・い・れ!」
ジェーンはそう言うと、強引に寄宿舎兼用の食堂に連れて行った。
お弁当の中身を広げるジェーン。
「焼きうどんに、唐揚げ、チーズ入りちくわ、ポテトフライ、ガーリック枝豆、焼おにぎり」
遠征中の食事より、はるかに容量が多い。
ジェーンが皿に取り分ける。
「全体的に茶色いな……」
「美味しい物と高カロリーは茶色なのよ!」
「そ、そうなのか?」
「揚げ物は、人類を救って地上に負荷をかける食べ物よ!」
言われるがまま、唐揚げを食べてみる。
まだ、ほんのり温かかった。
「今、食べたのが塩ね、こっちが醤油……この世界だとショーユーだっけ? ジェーンちゃんオススメはガツンとガーリックよ!」
皿に次々と乗せられる。
「同じ唐揚げなのに、あっさりとこってりで味が違う!」
ジェーンが笑った。
「リュークも美味しい物には饒舌になるのね」
その一言に、急に気恥ずかしくなる。
「……俺は味にはうるさいんだ」
ジェーンは、お茶を差し出した。
紅茶よりも渋みがあるが、口の中をスッキリさせる冷えたお茶だった。
「驚いた? これは、ウーロン茶よ」
リュークは、ウーロン茶をもう一口飲んだ。
冷たかった。だが、それ以上に胸の奥が妙に落ち着かなかった。
「みなさーん、よかったらご一緒にいかがでしょうか?」
ジェーンが周囲の視線に気づき、声をかける。
部下達が、リュークの顔色を気にする。
「せっかくだ、食べてくれ」
その一言で、皆が一斉に食べ始めた。
「なんだ、このうどん! ツーユーもないのにするする入る!」
(醤油だけじゃなくて、つゆもツーユーなのね)
「唐揚げ、最高! どの味も旨い!」
「枝豆、初めて食べたけどクセになる!」
「「酒が飲みたい!」」
部下達がそう言うと、ジェーンはチラシを配り始めた。
『飲んで、歌って、楽しむ! アマテラス! 近日オープン』
「フッ」
リュークは、彼女のしたたかさに思わず吹き出した。
夫に差し入れするついでに宣伝するとは、ジェーンは本当に抜け目がない。
「隊長が笑うなんて珍しいですね」
部下の一人が驚いたように言う。
「そうか?」
『そんなことはない』と否定しかけて言葉が止まった。
視線の先では、ジェーンが部下達と楽しそうに話している。賑やかで、遠慮がなくて、何をするか分からない。
正直、振り回されてばかりだ。
だが――。
「……少し、興味はある」
「はい?」
「いや、何でもない」
彼女が次に何をするのか。
どんな顔で笑うのか。
どんな言葉で周囲を驚かせるのか。
気づけば楽しみにしている自分がいた。
(……興味深い人だな)
そう呟くと、胸の奥が少しだけ温かくなった。
あとがき
みんなで唐揚げを食べて、地上に負荷をかけようっていう話になりました。
Brown is justice.
異論は認めますが、茶色い食べ物は大体美味しいです。
読んで頂きありがとうございます!
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