第4話 歌姫《ディーバ》、天下を狙う
「ラウルモンドさんって長いわね。ラウルさんでいい?」
「ええ、構いませんよ。妻や義弟にも、そう呼ばれていますから。」
ラウルモンドは苦笑する。
「やだ、ラウルさん、既婚者だったの?」
(良い男には決まった誰かがいるのは、異世界でも変わらないのね……。)
ラウルモンドは少し驚く。
「トライヴァル夫人は……」
「ジェーンでいいわよ。」
「それでは、ジェーンさんは王立学園出身なのに、ここのルフェラン領に関して詳しくないのですね。」
(そもそも、アタシこの世界に詳しくないんだけど。)
「そうね。ラウルさんがエリカ王妃の弟ってことくらいしか知らないわ。」
ラウルモンドは神妙な表情をする。
「やはり、戦争で受けた傷の後遺症ですか……。」
魂の入れ替えは禁忌。だから今のアタシは、“戦争の後遺症で記憶が曖昧”という扱いになっていた。
まあ、略奪に負けた自棄酒でここにいるんだから、あながち間違いでもない。
「それより、カラオケよ!機械作れそう?」
「機械を作るのは可能ですが、問題はオーケストラです。」
伴奏なしで歌っていたら、アカペラだものね。……とはいえ、アタシが習っていたのは実家が道場だったから剣道だけなのよね。
「私の従姉の子供に音楽に才がある子がいるので紹介しましょうか?」
次から次へと新しい人を紹介されるわね。まあ、この業界、横のつながりは大事だから、これもお仕事だわ。
「久しぶりだな。トライヴァル。」
「あなた、レオたんじゃない?」
攻略対象レオナルド・シャーウッドは可愛い系担当ってイメージだったけど、大人になっちゃって……親戚の子供を見る気分だわ。
「レオたんって……トライヴァル雰囲気変わったな。」
そういえば、リュークの婚約者って同級生だったわね。ここは、女優モード発動だわ。
「昔のアタシって、どんな感じ?」
「え?まぁ、何考えている分からないっていうか……寡黙、そう寡黙な感じだった。」
リュークも寡黙なのにキャラ被ってるじゃない。アンリママも口数多い方じゃないし、騎士家系ってそうなのかしら?
「まあ、アタシも色々あったのよ。レオたんは今何してるの?」
可愛い系はタイプじゃなかったから、イベントとかスルーしてたのよね。レオたんっていうのはリスナーが呼んでた影響よ。
「僕は今、爵位を継ぐ勉強と管弦楽団の掛け持ちをしてるよ。」
(管弦楽団ってことはオーケストラね。)
「ねえ、レオたん。同級生のよしみで曲作ってくれない?」
アタシはざっくりアマテラスのこと、そして事細かくカラオケについて説明する。
「やりたいことは分かったよ。でも、曲なんてそんな簡単には作れないよ。歌詞なんて書いたこともないし。」
別にオリジナルが作りたいわけじゃないんだから、知ってる歌の演奏を作って……そこで、アタシは気づいてしまった。
今、この世界には著作権がない。――つまり、名曲は全部フリー。
名曲をここで売り出せばお金になる。アマテラスの財源確保よ。
「レオたん、アタシと一緒に天下取るわよ!」
その日からアタシとレオたんの楽曲制作が始まった。アタシがメロディを伝えて、レオたんが楽譜に起こす。レオたんが曲を管弦楽団と演奏練習する中、アタシは歌と振り付けの練習。
(だてに歌番組を観てきた世代じゃないわよ。)
◇
そして、楽曲披露の日。酒場で流しみたいな活動をやると思っていたら、ツーど関所――ルフェラン領最大の免税市場がある広場でのデビューコンサートになった。
レオたんが頷き、指揮棒を構えると管弦楽団のみんなも楽器を構えた。
イントロが流れる。
作詞作曲した先生達、パクってごめんなさい……ジェーン歌います!
操られたマリオネットのような振り付けで、孤独と喪失、そこに残されていく感情を歌い上げる。
(酒やけしてない声って通るわ~。)
誰も聞いたことのない歌なのに、人々は息を呑んで聴き入っていた。
演奏が終わった途端、拍手喝采だった。
気づけば、広場には人だかりが出来ていた。
泣きながら聴いている兵士までいた。
おひねりが次々飛んでくる。
「皆さん、ありがとう!」
気分は80年代アイドルだ。涙も出ていないのに、泣くふりをして手を振る。
こうして、アタシ達はエンタメ界に革命を起こした。そして、それは“異世界エンタメ革命”と呼ばれる騒動の始まりだった。
デビューイベントは大盛況。今回はお試し的な感じだから一曲だったけど、あと十曲は欲しいところね。
打ち上げに参加した管楽器団の人や協力してくれた方々に感謝を述べながら、アマテラス流のおもてなしを欠かさない。
お酒も入っていることで、無礼講な雰囲気になっていた。
「レオナルド様、ジェーンちゃんみたいな嫁さんもらえば、ピッタリなのに。」
「ダメよ、アタシ、人妻なんですぅ。」
みんなが笑い、お酒を飲んで、舞台の成功を祝った。
「……で、レオたん。本格的なコンサートをやるなら、五曲以上は欲しいわ。」
「演奏は練習すれば十曲くらい可能だが、ジェーンはそんなに歌作れるのか?」
レオたんは知らないと思うけど、前世にどれだけのヒット曲があったと思っているの?
(今のアタシには名曲の神様達がついてるもの。)
気づけばアタシ達は、次のステージを夢見るようになっていた。




