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人の恋は蜜の味 after~ゲイバーママは推し騎士に愛されたい~  作者: めそこここ


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3/5

第3話 アマテラスフォレスト店、開店準備中

 リュークは真面目な男だった。

 トライヴァル家へ入った今も、それは変わらない。

 ゲームをプレイしていた時から思っていたけれど、実際に話してみると想像以上だった。


「アサハルト家の次男として生まれた時から、俺はトライヴァル家へ婿入りする予定だった。」


 リュークは淡々と言う。

 名門二大騎士一族。本家同士の婚姻という政略のために、リュークは生きてきた。

 そんな話、【恋蜜こいみつ】プレイ途中だったアタシは知らなかった。


(生まれた時から人生決められてるとか、重たすぎない?)


 胸が少し痛くなる。

 親の顔色を見て、カミングアウトできなかった頃を思い出した。

 嫌われたくなくて、期待を裏切りたくなくて、“普通”のふりをしていた頃。

 だから、リュークの気持ちは少し分かる。


「ねぇ、リューク。」


「なんだ?」


「今からやりたいことってないの?」


 リュークが目を瞬かせた。


「やりたいこと?」


「アタシ達、一応夫婦みたいだから浮気は困るけど、役目はもう果たしたんでしょ?だったら、今まで出来なかったことくらいやってもよくない?」


 リュークは少し黙り込む。


「……今は難しい。」


「どうしてよ?」


「一年前の戦争で、国は勝った。だが、混乱が残っている地域はまだ多い。」


 低い声だった。


「後遺症が残った仲間もいる。中には家族を失った者も……。」


 その目を見て、アタシは理解した。

 この男、真面目すぎる。

 責任感で出来てる。


(あー……ダメね。こういう男にアタシ弱いのよ。)


 アサハルトの名を捨て、トライヴァル家へ入った今も、それは変わらない。

 前世でも、そういう人達が最後に来るのが、アタシの店だった。

 酒を飲んで。

 愚痴って。

 泣いて。

 カラオケを歌って。

 ちょっと元気になって帰る。


 だったら……。


(この世界にも、そういう場所が必要じゃない?)


 アタシの脳裏に、ネオン街の景色が浮かぶ。煌びやかな照明にヤニ汚れの壁紙、ボトルキープ棚に並ぶ名札の掛けられた酒瓶。騒ぐ客。

 そこは――『アマテラス』。


(……作っちゃう?)


 アタシは勢いよく立ち上がった。


「アマテラスフォレスト店、開店よ!!」


「……は?」


 リュークが完全に止まる。



「……という訳で、お店をやりたいの。」


 トライヴァル公爵夫妻は揃って固まった。


「店……?」


「ええ!」


 アタシは勢いよく頷く。


「疲れた人が笑って飲める場所!癒やし!娯楽!推し活!人生には必要なのよ!!」


 ジェーンの父は困惑し、母――アンリは目を丸くしていた。


「ですが、ジェーン。貴女はもう騎士ではないのですよ?何もしないで妻として……。」


「それよ。」


 アタシは机を叩く。


「今まで騎士として頑張ってきた娘に、婿が来たから後は妻でいろって、それはジェーンもグレるでしょ。」


 二人が黙る。


「子供って、親の駒じゃないのよ。」


 アンリが小さく息を呑んだ。

 ……図星だったらしい。


 二人には悪いけど、今はアタシがジェーンだ。あなた達の娘を演じる義理はない。

 だったら、やりたいことくらいやってやるわよ!


(よーし、異世界ゲイバー経営スタート――)


「……と思っていた時もありました。」


 現実は甘くなかった。

 ジェーンの個人資産。ほぼゼロ。

 綺麗に空。禁忌の恋へ全財産突っ込んだらしい。


(いや気持ちは分かるわよ!?命懸けの逃避行ってお金かかるもの!!)


 でも店はお金がないと始められない。

 必要なのは……資金。スポンサー。つまり、太客。

 アタシはゆっくり顔を上げた。

 目の前には、名門騎士一族の奥方。

 つまり、金持ち。


「ねぇ、ママ〜♡」


 アンリが固まった。


「……え?」


「ジェーンの母親なら、今のアタシのママってことでしょ?」


 アンリの目が揺れる。


「……そういうことになるわね。」


 声が少し震えていた。


「ごめんなさい。あの子から、そう呼ばれたことがなかったから……戸惑ってしまって。」


 アタシは少しだけ黙る。


「別の呼び方にする?」


 アンリは静かに首を振った。


「いいえ。今はあなたが、私達の娘だもの。」


 その言葉に、胸の奥が少しだけ温かくなった。


 太客の友達は、また太客。

 アンリママの紹介で、エリカ王妃との面会をお願いした。



「……で、アタシ思ったわけ。この国に必要なのは、このアタシだって。」


 エリカ王妃は愛想笑いを浮かべている。王妃付き宮廷作家スタール男爵夫人は隣で目が死んでいる。


「この世界に呼ばれた以上、アマテラスフォレスト店をやれっていう神様の啓示よ。」



 後日。アタシは、エリカ王妃の紹介で王妃の弟であるラウルモンド・ルフェランに会いに来ていた。


 ラウルモンド・ルフェランは、【恋蜜こいみつ】ではドレアス家へ養子入りし、ラウルモンド・ドレアスとして登場する攻略対象だ。

 ゲームでは養父に搾取され続ける不遇なキャラで、長い髪を束ね、眼鏡をかけた知的イケメンだった。


(実は、先生……二番目に好きだったのよね。)


 けれど、実際に現れた男を見てアタシは固まる。


「姉上から話は聞いております。」


 柔らかな声。

 ラウルモンドは、ゲームと違って眼鏡を掛けていなかった。エリカ王妃が「ラウルモンドは先生ではなく、領主よ」って言ってたわね。

 優しい口調はゲームの時と変わらないけど、自信に満ちた“大人の男”になっていた。

 整った顔立ち。余裕のある微笑み。仕立ての良い服を着こなす長身。


(アタシ、こういうタイプにも弱いのよね。)


 リュークが寡黙筋肉系なら、こっちは包容力系。

 危険。非常に危険だわ。


「ジェーン様?」


「……ハッ!」


 いけない。顔が良すぎて意識が飛んでいた。


(おおっと、今は人妻!仕事、仕事。)


 アタシは慌てて背筋を伸ばした。

 ラウルモンドは苦笑しながら資料を机へ広げる。


「こちらが候補物件です。」


 説明は分かりやすかった。

 立地。周辺治安。予算。

 さすが領主様、出来る男ね。


 箱の広さは問題ない。問題は……、


「木のテーブルに、木の椅子って……。」


 アタシは眉をひそめた。


「回転率重視の食堂じゃないのよ!」


「……と言いますと?」


 ラウルモンドが興味深そうに首を傾げる。


「長居したくなる空間じゃないとダメなの。」


 アタシの脳裏に浮かぶのは、前世の『アマテラス』。

 薄暗い照明に、ヤニ汚れの壁紙。ボトルキープ棚。酔っ払いの笑い声。

 

 傷を抱えた人達を、明日へ送り出せる場所。


「ソファーは、大人数でも座れる角椅子があるタイプがいいわ。」


 アタシは身振りを交えて説明する。


「カウンター席は絶対必要。あと、照明は少し暗め。」


「ほう……。」


「それから、バーカウンターの横にはステージが欲しいわね。」


「ステージ?」


「カラオケ用の。」


 ラウルモンドが瞬きをする。


「から……おけ……?」


 その反応で理解した。


(この世界、カラオケないの!?)


 そんなのアマテラスの歌姫ディーバと呼ばれたアタシの良さが半減しちゃうじゃない!!


「カラオケっていうのはね、伴奏だけ流して、それに合わせて歌うの。」


「伴奏だけ……?」


「そうよ!歌いたい人が好きに歌うの!」


 ラウルモンドは少し考え込み、やがて静かに笑った。


「……面白い。」


「でしょー!?」


「戦後の娯楽不足にはちょうどいいかもしれません。」

 

 その言葉でアタシは強く確信した。やっぱり、アタシは呼ばれたんだわ。

 傷付いた人達が、ほんのひとときでも心を癒せる場所。


 それが、――アマテラスフォレスト店よ!

 異世界一号店、開幕である。

 あとがき


 本日は新作お披露目として、三話同日公開させて頂きました。


 通常は毎週金曜日20時更新予定です。


 ここまで読んで頂きありがとうございます。

 もし「続きが気になる」と思って頂けましたら、ブックマークや評価で応援して頂けると励みになります。

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