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人の恋は蜜の味 after~ゲイバーママは推し騎士に愛されたい~  作者: めそこここ


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2/5

第2話 推しとの初夜が消えていた件

「土下座する相手、違わない?!」


 思わず叫ぶと、室内の空気が止まった。

 リュークは困惑した顔のまま固まっているし、ジェーンの両親は床に額を擦り付けたまま震えている。


「ジェーン、落ち着いて。」


 ジェーンの母親が涙声で言った。


「落ち着けるわけないでしょ!? アタシ今、美人になったと思ったら人妻で、しかも推しが旦那なのよ!?」


「推し……?」


 リュークが眉を寄せる。


(低音ボイス最高だわ。)


 ダメだ。顔が良すぎる。

 ゲーム画面越しでも破壊力があったのに、本物は比じゃない。


(近くで見るとマジで顔がいい……。)


 気づけば、また胸筋に手が吸い込まれていく。


「ジェーン?」


「危なかった。」


「何がだ?」


「理性よ。」


 リュークが完全に困った顔になる。


(その顔も可愛いのよねぇ……。)


 すると、頭の奥に鈍い痛みが走った。


「っ……!」


 視界が揺れ、知らない景色が浮かんだ。

 田舎町。木造の小さな食堂。常連客しか来ない店。そして、幼馴染みの妻。


「……誰の記憶?」


 自然と名前が浮かぶ。

 『ヴェルナー』

 記憶の中のヴェルナーはアタシだった。素朴で眉の太い二丁目ウケするガチムチ男。

 幼馴染みの妻と結婚していたが、そこに恋愛感情はなく、友情と生活のためと割り切った結婚生活だった。


 それでも穏やかな日々だった。

 しかし、妻は遠征で村を訪れた女性騎士ジェーンと出会い恋に落ちた。

 “女性同士の恋”。

 夫を持つ人との許されない関係。

 だから二人は、禁忌魔法に手を出した。

 魂を入れ替える魔法。


「待って待って待って。」


 思わず額を押さえる。


「ジェーン?」


 リュークが心配そうにこちらを見る。

 その顔を見た瞬間、さらに別の記憶が流れ込んだ。


 ――ジェーンとリュークの結婚式。

 ――初夜の部屋。

 ――そこで行われた禁忌魔法。


(……ってことは。)


 アタシは青ざめた。


(初夜前に中身入れ替わってるじゃない!!)


 思わず胸を押さえる。


「やだぁ、もったいない……!」


「何がだ?」


「こっちの話よ!」


 リュークがさらに困惑する。

 

 思い出した記憶を伝えようにも、ジェーンとヴェルナーの妻の性的指向を軽々しく口にする気にはなれなかった。

 他人の恋愛事情を勝手に暴くのは、どこの世界でも野暮だ。

 ましてや、命まで懸けた恋なら尚更。


「……記憶が混乱しているようだな。」


 低い声が降ってくる。

 顔を上げると、リュークがこちらを見ていた。


「禁忌魔法に関しては、義母上が王妃殿下に確認されるとのことだ。」


 優しい声だった。



 数日後。ジェーンは、母親と王宮の応接室にいた。

 重厚な扉が開き、室内へ入ってきた女性に思わず息を呑む。

 艶やかなラベンダー色の髪。深いネイビーブルーの瞳。年齢を感じさせない気品。

 フォレスト国王妃、エリカ・フォレスト。


(うわ、美人……。)


 ゲームでは名前しか出てこなかった王妃だが、実物は別格だった。


「久しぶりね、アンリ。」


 柔らかな声で、王妃はジェーンの母へ微笑む。


「王妃陛下、ご無沙汰しております。」


 ジェーンの母もどこか安心したように息を吐いた。どうやら二人は学生時代からの友人らしい。だが、ジェーンの視線は別の人物へ向いていた。

 王妃の隣にいた女性。赤毛を一つにまとめた知的そうな美女だった。


「はじめまして。」


 女性が優雅に一礼する。


「王妃付き宮廷作家、トモエ・スタールです。」


(ん?……誰?)


 そもそも『恋蜜こいみつ』攻略対象しか見ておらず、女性キャラに興味がなかった。

 そんなジェーンを見て、トモエ・スタールは一瞬だけ眉をひそめた。


「禁忌魔法について、少し確認したいことがあります。」


 席につきながら、王妃付き宮廷作家でもあるスタール男爵夫人が口を開いた。


「魂の入れ替え魔法は、完全な創造ではありません。」


「……と言うと?」


「既に存在している情報へ、別の情報を上書きする術式です。」


 その瞬間。ジェーンの脳裏に、クローゼット――ゲイであることを隠していたサラリーマン時代の知識が過った。


「……ゴーストコード?」


 思わず呟いた瞬間だった。

 トモエ・スタールの表情が変わる。


「――なぜ、その用語をあなたが知っているの?」


 空気が張り詰めた。

 先程まで穏やかだった瞳が、鋭く細められる。


「あなた……『恋蜜』の制作関係者?」


「は?」


 ジェーンは目を瞬かせた。


「いや、制作っていうか……実況はしてたけど。」


「実況?」


「えっと……。」


 説明が難しい。ステイホーム中に始めたゲーム実況者。自棄酒して転生。ゲイバーママの前世。プレイ途中の乙女ゲーム。


 言葉が渋滞してしまう。その時だった。


「アンリ。」


 静かな声で、エリカ王妃が口を開く。


「少し席を外して頂けるかしら?」


「……王妃陛下?」


「大丈夫。貴女の娘を責めるつもりはないわ。」


 ジェーンの母親は不安そうにこちらを見た後、静かに頭を下げて部屋を出て行った。

 扉が閉まると、室内の空気が変わった。

 エリカ王妃は、真っ直ぐジェーンを見つめる。


「さてっと。」


 ネイビーブルーの瞳が細められる。


「貴女、“どこまで”知っているの?」


 ジェーンは正直に話すしかなかった。


 あと、【恋蜜こいみつ】で知っている情報は、リスナーにネタバレをされたリュークエンドくらいだった。

 リュークが許嫁と婚約破棄をして、アサハルト家から絶縁されて、爵位も家名も失う。

 それでも婚約者側は許さず、アサハルト家を一族を潰そうとする。そして内戦が起こる。

 ――それが、ネタバレされたリュークルートだった。


「あなたはリュークの許嫁だったトライヴァル家のジェーンよ。」


 エリカ王妃が静かに告げる。


「……ということは、リュークとのラブラブ新婚生活は元からないの?」


「え?そこ大事?」


「だって、人妻に生まれ変わったなら、愛されたいじゃない!」


 せっかく、ジェーンとして生まれ変わったなら、女の幸せを掴み取りたい。


「貴女には申し訳ないけれど、このままジェーンとして生きてもらえないかしら。」


 エリカ王妃が真剣な目をして言う。

 トライヴァル家の失墜は、そのまま地方治安の崩壊に繋がるらしい。とりあえず、国家案件なのは理解した。


「でも、リュークはいいの?アタシと結婚して。」


 アタシ的には運良く良い男と出会えた感覚だけど、ずっと許嫁だった女の中身が違うなんて、リュークは嫌でしょ。


「それは、リューク本人と話し合って。ただ、リュークはもうアサハルトではなく、トライヴァル家の人間なのを忘れないで。」


(推し、思ったより重たい立場だったのね……。でも、そういう男にアタシは弱いの。)

 あとがき


 本日は新作お披露目として、以下のスケジュールで公開しております。


 第一話 17:00公開(公開済み)

 第二話 20:00公開(公開済み)


 『ママじゃない~攻略対象の母に転生したので、破滅エンドを潰します~』 22:00公開


 第三話 23:00公開


 よろしかったら、引き続きお楽しみください。


 ここまで読んで頂きありがとうございます。

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