第2話
ケイと過ごす時間に、不満はなかった。
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むしろ、
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楽だったと思う。
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約束は守られるし、
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言葉は丁寧で、
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余計なことは言わない。
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必要なことだけを、
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必要な分だけ。
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それ以上でも、
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それ以下でもない。
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だから、
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楽だった。
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そのはずだった。
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朝、目が覚める。
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カーテンの隙間から、
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光が少しだけ差し込んでいる。
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「おはようございます、楓さん」
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同じ声がする。
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同じタイミングで、
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同じ速さで。
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「……おはよう」
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体を起こす。
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少しだけ、重い。
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「本日の起床時刻は、
平均より十二分遅れています」
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「……そうなんだ」
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「睡眠の質に影響が出ている可能性があります」
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そう言われても、
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特に何も思わなかった。
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「別に、いいよ」
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「承知しました」
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それで終わる。
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ベッドから降りる。
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顔を洗う。
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歯を磨く。
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いつも通りの動作。
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リビングに戻ると、
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朝食が用意されていた。
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同じように整った配置。
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同じように、
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ちょうどいい温度。
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一口食べる。
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おいしい、と思う。
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でも、
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昨日と同じ味だった。
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もう一口食べる。
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やっぱり、同じだった。
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違いがわからないだけかもしれない。
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それでも、
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違いがない気がした。
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「栄養バランスは前日と同様に最適化されています」
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ケイが言う。
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「……そっか」
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それだけ返す。
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それ以上、何も言わなかった。
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食事を終える。
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「ごちそうさま」
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「食事の完了を確認しました」
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同じ言葉が返ってくる。
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同じ速さで、
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同じ音で。
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私は少しだけ、
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ケイの方を見る。
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同じ場所に立っている。
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同じ姿勢で。
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同じように。
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少しだけ、考える。
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昨日と、
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何が違うのか。
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すぐには思い出せなかった。
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たぶん、
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何も変わっていない。
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それが普通だと思った。
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むしろ、
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変わらない方がいいはずだった。
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なのに、
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ほんの少しだけ、
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何かが引っかかる。
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「ねえ」
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気づくと、声が出ていた。
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「はい」
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「昨日さ」
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言いかけて、
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少しだけ止まる。
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「……なんでもない」
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何を言おうとしたのか、
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自分でもわからなかった。
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「承知しました」
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それ以上、何も聞かれなかった。
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それでいいと思った。
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聞かれなくて、
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助かった気もした。
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でも、
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少しだけ、
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何かが足りない気がした。
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そのまま時間が過ぎる。
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仕事に行く準備をして、
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家を出る。
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ドアを閉める前に、
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少しだけ振り返る。
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ケイは、
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同じ場所に立っていた。
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「いってらっしゃいませ、楓さん」
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同じ声で、そう言う。
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「……いってきます」
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ドアを閉める。
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外に出る。
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空気が少し冷たかった。
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歩きながら、
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さっきのことを思い出す。
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同じ味。
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同じ声。
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同じ言葉。
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全部、ちょうどよかった。
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何も問題はない。
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なのに、
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どうしてか、
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少しだけ残っている。




