第25話 欠落した黒(ブラック)。――神チューブの知恵と、外部リソースの活用。
「……致命的な欠陥だ。……この積層には、決定的な『色』が足りない」
俺は拠点の調理場で、焼き上がったクレープ生地と、クラウド・ホイップ、そして太陽のバナナを並べて腕を組んでいた。
マシマシ系の後のリセットとして、これらだけでも十分に「甘味」として成立はする。だが、俺が求めているのは、あの「黄色」と「白」を、一気に一段上の次元へと引き上げる、漆黒のコントラスト……『チョコレート』だ。
しかし、この異世界にカカオは存在しない。目録(Wiki)をどれだけスクロールしても、その文字列は現れなかった。
「主……そんなに怖い顔をして。……『チョコ』? また、この世界にないものを探してるんですか?」
ガウルが、不穏な空気を感じ取って身構える。
「……ああ。だが、エンジニアは『無いなら作る』、あるいは『代用(代替案)』を探すのが仕事だ」
俺は懐から、トート神に無理やりテザリングさせている端末を取り出した。天界の動画サイト『神チューブ』――そこには、全宇宙の知恵が「動画」という形式でアーカイブされている。
「……あった。……『【検証】異世界でチョコがない時の代用レシピ!』か。……なるほど、キャロブ……いや、この世界で言うところの『魔導イナゴ豆』か」
【対象:魔導イナゴ豆】
• 特性: 鞘の中に含まれる成分が、乾燥・粉砕することでカカオに近い風味と苦味を放つ。
• 生息地: この山の麓、スカイエルフたちの「禁足地」とされる古戦場跡。
「……禁足地か。自分たちで行くのは手間だな。……ピヨ、火を絶やすなよ。……ガウル、ちょっと『外部の協力者』を呼んでこい」
俺は、先ほどの『まるごとバナナ』で完全に胃袋を掴まれ、調理場の隅で幸せそうに余韻に浸っていたスカイエルフの狩人たちを呼び止めた。
「……お前たち。……この山の麓にある『魔導イナゴ豆』、知っているな?」
「えっ、あ、はい。……ですが、あそこは古戦場の呪いが残る禁足地で、我々も滅多に近づきません……」
「……呪いか。……システムの不具合だな。……いいか、お前たちがその豆を確保してくるなら、次の『クレープ』、お前たちの分は『チョコ・マシマシ』で提供してやる」
その瞬間、スカイエルフたちの目が変わった。
彼らにとって、俺の作る飯はもはや「神の恩寵」に等しい。マシマシという言葉の響きに、彼らの恐怖心は一瞬で食欲に上書きされた。
「……や、やります! 呪いなど、この空腹に比べれば些末なことですッ! すぐに手配します、一族の最速の運び屋を出しましょう!」
これまでは俺が直接「間引き(調達)」に行っていたが、コミュニティ(エルフ)との信頼関係が構築された今、これこそが最も効率的な「物流」だ。
「……よし。ガウルはスカイエルフ達と一緒に魔導イナゴ豆を取ってこい。俺達は……豆が届くまでに、『テンパリング(温度調整)』の準備を整えるぞ。……コウジ、お前の石臼(魔法)の出番だ」
「ふん……。他人に働かせるとは、御子柴も悪知恵が働くようになったな。……だが、その『漆黒のソース』、醤油造りの職人として見過ごせん。……最高の粒子に仕上げてやろう!」
おじさんの調理場に、新たな期待が満ちていく。
自ら動かず、周囲の「リソース」を動かして素材を揃える。
これこそが、マネージャーとして培った、大人の有給休暇の過ごし方だ。
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