第24話 氷結の洞窟と、絶対零度のアイスクリーム
「……ふむ。やはり、『質量』の後は『温度』だな。口の中の熱を、一気に奪い去るものが必要だ」
拠点の調理場。神々が『まるごとバナナ・エクストリーム』の余韻に浸り、恍惚とした表情でくつろぐ中、俺は【神域の目録(Wiki)】の新たなページを開いていた。
マシマシ系の塩気、バナナの濃厚な甘み。これらを完璧に調和させ、次なる『甘味』という巨大なプロジェクトへ繋げるには、その間を埋める「冷徹な存在」――アイスクリームが不可欠だ。
【対象:万年氷の雫】
• 生息地: 北の山脈、裏手の『氷結の洞窟』。絶対零度の世界。
• 特性: 一舐めで魂を凍らせるほど冷たく、微かに甘い天然の水。攪拌しても決して分離せず、滑らかな氷の結晶となる。
• 収穫難易度: 洞窟の奥に、氷の魔像が群れで守っている。
「……よし。ピヨ、お前の『聖なる炎』で、俺たちの体温を維持しろ。ガウル、お前は氷のゴーレムの『核』を砕け。俺がその隙に、雫を回収する」
「ピヨッ!」
「主……また、そんな過酷な場所へ……。せっかく甘いもので癒やされたのに……」
ガウルが尻尾を垂らしながらも、俺の隣に並ぶ。
俺たちは、拠点の裏手に広がる、青白く輝く氷の洞窟へと足を踏み入れた。
一歩進むごとに、空気の温度が急速に下がっていく。ピヨが俺の肩で、微かな、だが確実な熱源として機能していなければ、一瞬で凍りついていただろう。
洞窟の奥。そこには、万年氷が溶け出し、一滴ずつ滴り落ちる、神秘的な地底湖があった。
その湖を守るように、巨大な氷のゴーレムたちが、音もなく立ち塞がる。
「……戦闘開始だ。ガウル、行け!」
ガウルが氷の床を蹴り、ゴーレムの懐へと飛び込む。彼の鋭い爪が、ゴーレムの胸部にある、青く輝く『核』を捉えた。
パリン、という硬質な音と共に、ゴーレムが崩れ落ちる。
「……よし。……回収成功だ」
俺は、地底湖の水を、魔法で冷やしたバケツへと汲み上げた。
それは水であって、水ではない。手に持った瞬間、バケツの外側が一瞬で凍りつくほどの、絶対零度の液体だ。
拠点へと引き返した俺は、休む間もなく、次のビルドへと移った。
ガウルが命懸けで搾り出した『クラウド・ホイップ』の残りと、グリフォンの黄金卵、そして【神域の目録(Wiki)】で見つけた最高級の甜菜糖。
これらを混ぜ合わせ、そこに『万年氷の雫』を一気に投入する。
「……コウジ、お前の出番だ。今度は、この液体を、空気を含ませながら『凍らせる』。……いいか、氷の結晶をミリ単位で制御しろ。口に入れた瞬間、一瞬で溶け去る、あの『口溶け』を再現するんだ」
「ふん……。発酵の次は、冷凍か。……面白い。このコウジ、菌の力の次は、熱の流れを操り、至高の『氷菓子』をビルドしてやる!」
コウジが大きな櫂を、今度は超高速で攪拌し始めた。
魔法で温度をマイナス二十度に固定し、空気を含ませながら、じっくりと、だが確実に凍らせていく。
数分後。バケツの中には、雪のように白く、シルクのように滑らかな、真っ白なクリームの山が出来上がっていた。
「……できた。……異世界版、『絶対零度の乳脂』だ」
俺は、完成したアイスクリームをスプーンですくい、一口、口に入れた。
――冷徹。そして、甘美。
舌に触れた瞬間、絶対零度の冷気が口腔内を蹂躙し、次の瞬間には、黄金卵とクラウド・ホイップの濃厚なコクが、一気に溢れ出す。
冷たいのに、温かい。甘いのに、キレがある。
これまでのマシマシ系、そしてまるごとバナナの記憶が、この一舐めで完全にリセットされた。
「……御子柴。……貴方、また何か、とんでもないものを作ったわね?」
アフロディテが、その冷気と甘い香りに釣られて、潤んだ瞳でふらふらと歩み寄ってきた。
トート、死神も、今度は獲物を見つける獣のような目で、俺の手元のバケツを凝視している。
「……待て。……これは、まだ『パーツ』だ。……次は、このアイスクリームを、さらに温かく、柔らかな生地で『包み込む』。……クレープという名の、終わりのないレイヤー(積層)のビルドを始めるぞ」
「ピヨッ!!」
おじさんの調理場に、新たな火が灯る。
絶対零度のアイスクリーム。そして、これから焼き上げる、熱々のクレープ生地。
その「温度差」という新たなパッチ(更新)が、異世界の神々を、さらなる「甘味の深淵」へと引き摺り込もうとしていた。
最近キッチンカーでクレープ屋さん見かけるんですよ。
一個で一食分のカロリーあるんだよなあ。
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