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第22話 雲のホイップと、職人のスポンジ生地

「……よし。パーツ(素材)は揃った。次は『基盤』の構築だ」


 砂漠の結界から持ち帰った、黄金の質量を誇る『太陽のバナナ』。そしてガウルが標高三千メートルの高嶺で、空飛ぶ極光牛と格闘して持ち帰った、奇跡の乳脂。


 拠点の調理場には、マシマシ系のニンニクの残り香を完全に打ち消すほどの、清涼で甘い香気が立ち込めていた。


「主……その『極光牛のミルク』、回収するのに死ぬかと思いましたよ。あいつら、雲の上を跳ね回るから、魔法で足場を作って追いかけ回さないと搾らせてくれないんですから」


 ガウルが泥だらけの毛並みを震わせながら、バケツ一杯の真っ白な液体を差し出す。その液体は、攪拌かくはんすらしていないのに、空気に触れた端からふわふわと泡立ち始めていた。


「苦労をかけたな、ガウル。おかげで、最高の『クラウド・ホイップ』が手に入った。……コウジ、お前の出番だ。醤油で培った『菌の制御』、今度は生地の『気泡』のコントロールに転用しろ」


 井戸の底から、白い作務衣を正した精霊コウジが飛び出してきた。彼の目には、職人特有の鋭い光が宿っている。


「ふん……。醤油のような重厚な発酵もいいが、この白い粉(薄力粉)に命を吹き込み、雲よりも軽く膨らませるというのも、また一興。……御子柴、貴様が用意したこのグリフォンの卵、黄身の粘りが尋常ではないな」


「……マシマシ系で使った『黄金卵』の余りだ。これに、目録(Wiki)で特定した最高級の甜菜糖てんさいとうを合わせる。……いいか、目指すのは『弾力があるのに、口の中で霧のように消える』スポンジだ」


 俺は魔法でボウル内の温度を最適化し、コウジに指示を出した。

 彼は大きな櫂を軽やかに操り、卵と砂糖を泡立てていく。普通なら熟練の職人が何十分もかける工程を、コウジは発酵の精霊としての直感で、気泡の一つ一つを均一な大きさに揃えていく。


「……これだ。気泡が壊れる寸前で、パッチを当てるぞ。ピヨ、出番だ」


「ピヨッ!」


 ピヨが翼を広げ、オーブンの代わりとなる石窯を温める。

 その熱は、単なる火力ではない。生地の中心部まで均一に浸透し、一気に水分を飛ばしつつも、しっとりとした質感を残す「聖なる恒温管理」だ。


 数分後、石窯から取り出されたのは、赤ちゃんの頬よりも柔らかく、黄金色に輝くスポンジ生地だった。

「……完璧な焼き上がりだ。……次は、ホイップのデプロイ(展開)に移る」


 俺は、ガウルが命懸けで持ち帰った極光牛のミルクを、一気に泡立てた。

 驚くべきことに、このミルクは魔法の振動を加えるだけで、まるで意思を持っているかのように真っ白な雪の山へと変わった。砂糖は一切加えていない。素材自体が持つ、草原の香りと、雲のような軽やかな甘み。


 そして、ついに主役の登場だ。

 砂漠の結界内で、過酷な日照に耐え抜いた『太陽のバナナ』。

 皮を剥くと、中からはカスタードクリームのように濃密な、半透明の果肉が現れた。


「……よし。……結合アセンブルを開始する」


 俺は、手のひらサイズに切り分けたスポンジの上に、クラウド・ホイップの海を広げた。その中心に、一本の太陽のバナナを贅沢に鎮座させる。

 さらに上から追いホイップを重ね、スポンジの両端を優しく、だが確実な力加減で包み込んだ。


 ずっしり。


 手に伝わる、あの懐かしい「まるごと」の重み。

 だが、その中身は異世界の最高級アセットで構成された、神域のワンハンド・スイーツだ。


「……できた。……異世界ビルド版、『まるごとバナナ・エクストリーム』だ」


 その瞬間、マシマシ系の洗礼を受けて気絶していた神々が、弾かれたように跳ね起きた。


 トート、アフロディテ、そして死神。

 彼らの鼻腔を、ニンニクの残響を薙ぎ払うような、圧倒的に清らかな「甘い暴力」が突き抜けたのだ。


「……なんだ、この香りは。……私の記録にはない。……清涼でありながら、狂おしいほどに濃厚な……『糖分』の予感……!」


 トート神が、涎を垂らしながら俺の手元を凝視する。

 アフロディテは、あまりの香しさに、潤んだ瞳でふらふらと歩み寄ってきた。


「……嘘でしょ。あの『脂の地獄ラーメン』の後に、こんな『純白の福音』を用意していたなんて……。御子柴、あなた、本当に人間なの……?」


「…………(無言で、ずっしりとした黄色い質量に手を伸ばそうとする死神)」


「……待て。……これは、手に持って、直接齧り付くのが正解だ。……さあ、有給休暇の『後半戦』を始めようか」


 俺は、三人の神々、そしてガウルとコウジ、エルフたちの前に、黄金に輝くその質量を差し出した。

 異世界の空の下、マシマシ系の後に訪れる、甘美な破壊。

 それは、神々の胃袋を今度は別の意味で「再起動リブート」させることになった。

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