第21話:禁断の果実と、雲上の乳脂
第2章始まります!
「……やはり、マシマシの後はこれだ。あの『黄色い質量』が足りない」
俺は拠点の調理場で、かつて現実世界で愛食していたコンビニスイーツの王者を思い浮かべていた。
手に馴染む曲線。どこまでも続く柔らかなスポンジ。そして、中心に鎮座する圧倒的なバナナの存在感。
マシマシ系のニンニクと醤油に支配された口内環境を、一気に「糖分」で上書きするには、あれ以上の適役はいない。
「主……また険しい顔をして。今度は何を企んでいるんですか? さっきまで『完飲』して幸せそうだった神様たちが、まだそこらで寝てますよ」
ガウルが、床で恍惚とした表情のまま動かないトート神を避けながら、俺に歩み寄る。
「ガウル、これは企みではない。……『口直し(リセット)』だ。……ピヨ、準備しろ。次は、熱帯と高山の両極端な素材が必要だ」
「ピヨッ!」
俺は【神域の目録(Wiki)】を展開し、理想の「まるごと」を構築するための素材を検索した。
【対象:太陽のバナナ(極上変種)】
• 生息地: 西の熱帯魔境。火竜の息吹が届く乾燥地帯。
• 特性: 通常のバナナの三倍の太さ。糖度が凝縮され、食感はもはやカスタードに近い。
• 収穫難易度: 周辺に生息する猿型魔獣が群れで守っている。
【対象:雲上の乳脂】
• 採取源: 標高三千メートル以上に住む『極光牛』のミルク。
• 特性: 攪拌せずとも、空気に触れるだけで泡立つほど軽く、濃厚。
「……よし。ピヨ、お前の機動力で熱帯まで飛ぶ。ガウル、お前は高山のミルクを回収だ」
「……おかしいな。目録(Wiki)の座標は、この乾燥地帯のど真ん中を指している」
俺は、見渡す限りの砂丘が続く熱帯の荒野に立っていた。
足元からは陽炎が立ち上り、肌を焼くような熱風が吹き抜ける。本来、バナナのような水分を好む植物が自生できる環境ではない。エンジニアとして言わせれば、これは「仕様」ではなく「エラー」の領域だ。
「主……本当に、こんなカラカラの場所に、そんな瑞々しい果物があるんですか? さっきから砂しか食べてませんよ……」
銀狼のガウルが、暑さに耐えかねて舌を出し、砂に足を取られながら不満を漏らす。肩のピヨだけは、故郷に近い熱気に「ピヨッ!」と元気に鳴いているが、俺たちの喉はすでに限界に近い。
「……待て。この空気の揺らぎ……単なる暑さじゃない。魔力の密度が、ここだけ異常に高い」
俺は【神域の目録(Wiki)】の表示を、視覚情報から『魔力分布図』に切り替えた。
すると、何もないはずの砂漠の真っ只中に、巨大なドーム状の「冷却結界」が張られているのが見えた。
【エリア:砂漠のオアシス・隠された温室】
• 構造: 古代の魔導回路が暴走し、周囲の水分を一点に凝縮。内部だけが「超高温多湿」の熱帯雨林と化している。
• 守護者: 猿型魔獣『ブラスト・エイプ』。熱を食らい、結界を守ることでバナナを独占している。
• 対象: 太陽のバナナ(極上変種)。強烈な日照と、結界内の湿度により、通常の三倍の太さに成長。
「……なるほど。外部の熱をエネルギーにして、内部を熱帯に変えているのか。……皮肉なシステムだな。周囲を枯らして、自分たちだけが肥え太る」
俺は結界の境界線へと手を伸ばした。
触れた瞬間、パチリと弾けるような衝撃。同時に、結界の奥から無数の赤い眼光がこちらを睨みつけた。
現れたのは、全身が燃えるような毛に覆われた猿の群れだ。彼らは手にした岩を投げつけ、侵入者を拒む。
「……ガウル、強行突破だ。ピヨ、お前の火で結界のバランスを一瞬だけ崩せ。その隙に、俺がバナナを『間引く』」
ピヨが太陽のような閃光を放ち、結界の熱量バランスを上書きした。一瞬、結界に生じた「穴」から、俺は内部へと踏み込む。
そこは、外部の砂漠とは別世界の、むせ返るような緑の魔境だった。
目の前には、見たこともない巨木……いや、巨大なバナナの樹がそびえ立っていた。
一本一本が太ももほどもある、黄金色のバナナ。その重みで、枝が地面に着きそうなほどしなっている。
「……見つけた。これが、あの『まるごと』を支える核になる」
猿たちの叫びを背に、俺はWikiの最適解に従い、最も糖度が凝縮された「房」を選び抜いた。
手に持った瞬間、ずっしりとした驚異的な重量感が腕に伝わる。これはただの果物ではない。凝縮されたエネルギーの塊だ。
「……よし、撤収だ。ガウル、次は『極光牛』のミルクの回収はどうなった?」
「……主! こっちはこっちで大変ですよ! 牛たちが空中に浮かぶ雲を食べてて、捕まえるのが一苦労だそうです!」
高山の「浮遊する乳脂」と、砂漠の「密閉された黄金バナナ」。
最高の素材が揃う時、異世界の神々は、マシマシ系の後の「糖分の恐怖」を思い知ることになる。
俺は汗を拭い、黄金の獲物を抱えて拠点へと引き返した。
背後では、バランスを失った結界が再び閉じ、砂漠の蜃気楼の中へと、バナナの森が消えていった。
「……待ってろよ。……今から、お前たちを『まるごと』食してやる」
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