第14話 北の山脈と、高機動型火種(ピヨ)。
風邪をひいてしまいました。
ロット乱し申し訳ありません。
「ピヨ、出力が高い。もう少し抑えろ。服が焦げる」
「ピヨッ!」
拠点の北にそびえる峻険な山脈。万年雪に覆われ、エルフたちですら立ち入りを拒む極寒の地を、俺は普段着に近い軽装で歩いていた。
理由は、肩に乗ったピヨだ。
孵化して数日。まだ手のひらサイズだが、こいつが放つ熱量は凄まじい。俺の魔力を動力源にしているせいか、周囲の冷気を完全に中和し、俺の周りだけが春先のような陽だまりになっている。
「主……その鳥、便利すぎませんか? 私の毛皮、もういらないんじゃないですかね……」
寒さに強いはずのガウルですら、少し羨ましそうに俺の足元に寄ってくる。
「気にするな。ピヨはあくまで『持ち運び可能な熱源』だ。お前には索敵と荷運びの役割がある」
今日の目的は、この標高にのみ生息する【スノー・グリフォン】の卵だ。
地底のトカゲの卵が「濃厚な黄身」なら、グリフォンの卵は「透き通るような白身の弾力」が特徴らしい。マシマシ系の重厚なスープを、ふわふわのメレンゲで包み込む――その「究極の味変」のイメージは、既に俺の頭の中で組み上がっていた。
「ピヨ、上空から索敵しろ。半径五百メートル以内、大型の鳥の巣を探せ」
「ピヨィッ!」
ピヨが勢いよく空へ舞い上がる。
羽ばたくたびに火の粉が舞い、雪山に不釣り合いな黄金の軌跡が描かれる。数分後、ピヨが鋭い声で鳴きながら、北西の絶壁を指し示した。
「……見つけたか。よし、間引きがてら収穫に行くぞ」
断崖の頂に築かれた巨大な巣には、純白の羽毛を持つスノー・グリフォンが、三つの卵を抱えていた。
俺の姿を見るなり、グリフォンが鋭い嘴をカチリと鳴らし、凍てつくような咆哮を上げる。
「悪いが、その卵を一つ譲ってもらう。代わりに、この山の増えすぎた魔物を少し減らして、お前の狩り場を整えてやる。……取引成立だ」
一方的な条件を告げ、俺は指先を動かした。
グリフォンが放った冷気のブレスを、ピヨが吐き出した小さな火球が完璧に相殺する。その隙に、俺は物理的な衝撃波でグリフォンを傷つけないように優しく弾き飛ばし、巣の卵を一つ、手際よく回収した。
「よし、確保。……と、ガウル。あっちを見ろ」
巣から少し離れた岩陰。そこには、俺たちと同じく卵を狙っていたらしい、数人の人影があった。
白い防寒具に身を包み、背中には弓を背負っている。
「……エルフ? いや、耳が少し違うな」
「主、あれは【スカイエルフ】です。空を飛ぶ魔物と共生して生きる、山の民ですよ。……どうやら、彼らもあの卵が目的だったようですが……完全に腰を抜かしてますね」
無理もない。
彼らにとっての宿敵であるグリフォンを赤子のようにあしらい、あまつさえ「火の鳥」を肩に乗せた男が、無造作に卵を抱えているのだ。
一人の若いスカイエルフの狩人が、震える声で俺に声をかけてきた。
「……貴様、何者だ? その鳥……まさか不死鳥か!? 伝説の神獣を従えて、グリフォンの卵を奪うなど……一体、何を企んでいる!」
「……企む? ただの有給休暇の、朝食の準備だ」
俺が淡々と答えると、スカイエルフたちは「朝食……?」と呆然と呟き、互いに顔を見合わせた。
「……待て! その卵、我らの里の守護神への供物にするはずだったものだ! 返してくれとは言わないが、せめて、その調理……朝食とやらを、我らにも見届けさせてくれないか!」
「……見届ける? 勝手にしろ。ただし、調理の邪魔をするな。ロット(手順)が狂うのは嫌いなんだ」
俺は、卵を抱えたまま拠点のキッチンへと歩き出した。
後ろには、ガウル、空を舞うピヨ、そして「伝説の神獣使い」を監視(あるいは崇拝)しようとするスカイエルフの一団。
マシマシ系を極めるための「卵」が揃った。
明日の朝、この拠点で、異世界の住人がかつて体験したことのない「味変の革命」が起きようとしていた。
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