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十三話 疫病 (2)

 しばらくすると、天翔車は着陸態勢に入った。

 それまで一定だった風の音が変わり、天翔車がゆっくりと高度を下げていく。


「小春! 見ろよ!」


 煤丸の弾んだ声に、小春は窓の外へ目を向けた。


「わぁ……」


 眼下には、瑞穂国とはまるで違う景色が広がっていた。

 陽の光を受けて煌めく、大小いくつもの湖。

 そこから伸びる水路が大地を縫うように巡り、その間に白い石造りの建物が立ち並んでいる。

 遠くにはひときわ大きな湖が広がり、水面は空の青を映して、まるで巨大な鏡のように輝いていた。


「綺麗……」


 思わず、そんな言葉が漏れる。

 ここが、水鏡国。

 蒼瀾が治める、水の国。

 天馬が大きく翼を広げた。

 ばさり、ばさり、と力強く羽ばたくたびに速度が落ちていく。

 やがて蹄が地面に触れた。

 続いて車輪が着地し、天翔車が僅かに揺れる。


「着いた!」


 煤丸が真っ先に声を上げた。

 小春たちは荷物を手に、天翔車を降りた。

 目の前には、どこまでも澄んだ水の都が広がっている。

 白い石造りの建物の間を縫うように、幾筋もの水路が巡っていた。陽の光を受けた水面はきらきらと輝き、緩やかな流れに合わせて光の粒が揺れている。

 水路には小さな舟が浮かび、その上には色鮮やかな布で作られた日除けが張られていた。

 風が吹くたびに水面がさざめき、青い空と白い雲を映しては、その姿をゆっくりと崩していく。


「すごい……」


 小春は思わず息を呑んだ。

 瑞穂国が桜と緑に包まれた国なら、水鏡国はまさしく水の国だった。

 どこにいても、水の流れる音が聞こえる。

 さらさらと水路を流れる音。

 遠くで水が落ちる音。

 そして、湿り気を帯びた涼やかな風。


「綺麗なところですね」

「ええ。水鏡国は、神域でも特に水の豊かな土地です」


 彪基が答える。


「おいら、魚いるか見てくる!」

「煤丸、勝手に行っちゃダメ!」

「見るだけだって!」


 水路へ駆け寄っていく煤丸を、小春は慌てて追いかけようとした。

 ──その時だった。


「ゴホッ……ゴホッ……!」


 激しく咳き込む声が聞こえた。

 小春の足が止まる。


「……あれ?」


 改めて周囲を見回して、ようやく気づいた。

 これほど大きく、美しい街なのに。

 人が、あまりにも少ない。

 閉ざされた店。

 人の気配のない舟。

 時折すれ違う者も、皆どこか疲れた顔をしている。

 美しい水の都には似つかわしくない静けさが、街全体を覆っていた。

 天翔車の中で耳にした旅人の言葉が、脳裏をよぎる。


 ──水鏡の都じゃ、日に日に病人が増えてるそうだ。


「……本当に、流行ってるんだ」


 さっきまで胸を満たしていた感動が、ゆっくりと不安へ変わっていった。

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