表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
27/40

十話 銭 (1)

 小春と煤丸は部屋で過ごしていた。


「ねぇ、煤丸」

「んー?」

「じゃあ、朝とか夜とかどうしてるの?」

「明るくなったら起きて、暗くなったら寝る」

「……時計とかないの?」

「とけい?」

「時間を見るもの」

「そんなもの見たことも聞いたこともないぞ」

「そっか……」

「そんなことより、小春。その左目なんか変だぞ」


 煤丸は小春の左目をじーっと見つめながら言った。


「あぁ、これはね──」


 そこへ彪基がやって来た。


「小春殿、旅支度に必要なものを買いに行きませんか?」

「旅支度?」

「はい。市場で必要なものを揃えに。水鏡国までは長い道のりになりますから、必要なものは今のうちに揃えておいた方がよいかと」

「行きます!」


 小春が立ち上がると、煤丸もぴょんと床へ飛び降りた。


「おいらも行く!」

「もちろんです」

 小春は部屋を出ようとして、ふと足を止めた。

「あ、そうだ。彪基さん」

「はい?」

「こっちって、時間はどうやって数えるんですか?」

 

 彪基は一瞬、不思議そうな顔をした。


(とき)のことでしょうか」

「刻?」

「ええ。日の高さや、街で鳴らされる鐘で知ることができます」

「鐘……」

「そろそろ鳴る頃ですよ」


 その言葉を待っていたかのように──


 ゴォン──。


 遠くから、低い鐘の音が響いた。


「あ、これ?」

「ええ」


 小春はどこか感心したように窓の外を見た。


「ほんとに時計ないんだ……」

「白嶺様でしたら、刻に関するものをお持ちかと……」

「そうなんですね! どんなものなんですか?」

「私も詳しくは存じません。ただ、日の動きに頼らず刻を知ることのできる神具だそうです」

「神具……時計みたいなものかな」

「とけい、というものが私には分かりませんで……」

「あ、そっか」


 小春は少し考え込んだ。


「白嶺様、見せてくださるでしょうか?」

「小春殿になら見せてくださるでしょう」

「じゃあ、帰ってきたら頼んでみます!」

「はい。──では、行きましょうか」

「おいらも行くぞ!」


 そう言って煤丸は小春の肩に飛び乗った。


 宮を出ると、小春は彪基の横顔を見た。


「ちなみに、何を買いに行くんですか?」

「まずは小春殿の旅装を。それから道中の食糧や薬、雨具などを揃える予定です」

「旅装……服も変えるんですか?」

「ええ。水鏡国までは長い道のりになります。今のお召し物では動きにくいでしょう」


 小春は自分の袖を摘まんだ。


「確かに、これで山道を歩くのは大変そう……」

「それから、履物も用意しましょう」

「結構買うものあるんですね」

「旅ですからね」

「食いもんは?」


 肩の上から煤丸が口を挟んだ。


「もちろん買いますよ」

「いっぱいか?」

「必要な分だけです」

「いっぱい必要だぞ!」


 小春は思わず笑った。


「煤丸、食べることばっかり」

「腹が減ったら旅なんてできねぇだろ!」

「それはそうだけど」


 三人が話しながら歩いていると、やがて賑やかな市場が見えてきた。

 通りの両脇には、木造の店が軒を連ねている。店先には瑞々しい野菜や色鮮やかな果実、干した魚や薬草が所狭しと並び、行き交う人々の声が絶え間なく響いていた。


「採れたてだよ! 見ていっておくれ!」

「そこの兄さん、今日はいい玉が入ってるよ!」


 威勢のいい声に混じって、どこからか香ばしい匂いが漂ってくる。


「いい匂い……」


 小春が思わずそちらへ顔を向けると、肩の上の煤丸も同時に鼻をひくつかせた。


「小春! あっちだ!」

「煤丸、私たちは旅支度に来たんだよ」

「腹ごしらえも旅支度だ!」

「まだ旅立ちは三日後ですよ」


 彪基の冷静な一言に、煤丸は不満そうに尻尾を揺らした。

 小春はそんな煤丸に笑いながら、改めて市場を見渡した。

 以前訪れた時には、何もかもが珍しくて目に入るものを追うだけで精一杯だった。

 しかし、今は少し違って見える。


 ──ここも、私が生まれた世界なんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ