九話 どちらも、お前だ (3)
「彪基さん!」
「なぜ小春殿がここに……」
彪基は小春と白嶺を交互に見た。
「知り合いか」
「はい。私が宮へ来た時に、案内してくれた方です」
「そうか。それなら話が早い」
白嶺は彪基へ向き直った。
「三日後、小春は水鏡国へ発つ。お前には、その護衛を任せる」
「水鏡国へ……?」
彪基の表情が僅かに変わった。
しかし、すぐに白嶺へ頭を下げる。
「承知いたしました。この命に代えましても、小春殿を──」
「命に代える必要はない」
白嶺が遮った。
「二人とも、無事に戻れ」
彪基は一瞬目を見開き、やがて深く頭を下げた。
「……御意」
話を終えると、小春は煤丸を肩に乗せたまま、彪基とともに書院を後にした。
「しかし、驚きました」
「何がですか?」
「まさか小春殿の護衛を命じられるとは」
「私も、まさか旅に出ることになるとは思ってませんでした」
「……水鏡国までは長い道のりになります」
「やっぱり遠いんですか?」
「ええ。それに、瑞穂国を出れば景色も暮らしも大きく変わります」
「そんなに違うんですか?」
「水鏡国は水の豊かな国です。瑞穂とは街並みも、そこに暮らす者たちも随分と違いますよ」
小春はまだ見ぬ国を思い浮かべた。
「水鏡国の国主って、どんな方なんですか?」
「蒼瀾様ですか?」
「はい」
彪基は少し考えるように顎へ手を添えた。
「そうですね……白嶺様とは、随分と違うお方です」
「随分と?」
「お会いになれば分かります」
「ええ……余計気になる……」
「おいら、水鏡国は初めてだ!」
「煤丸も?」
「瑞穂から出たことねぇもん!」
「……じゃあ、三人とも初めてみたいなものですね」
「私はあります」
「彪基さんだけずるい!」
小春は歩きながら、瑞穂国の街並みへ目を向けた。
風に揺れる木々も、遠くに見える山々も、昨日までと何も変わらない。
それなのに、不思議と少しだけ違って見えた。
──ここが、私の生まれた世界……。
「にゃお」
小春は猫の声が聞こえて辺りを見回した。しかし、それらしい姿はどこにもない。
「ねぇ、猫の声しなかった?」
すると彪基と煤丸は、不思議そうに首を傾げた。
「おいら、なんも聞こえなかったぞ」
「私も何も聞こえませんでした」
「……じゃあ、今の声は?」
小春は聳え立つ神胤嶺を見つめた。
──あの猫は一体……。




