↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/40

六話 神隠し (1)

 喫茶店で朝陽と侑士は待ちぼうけていた。


「もう、十二時過ぎてる。小春、どうしたんだろう」


 朝陽は何度目か分からないほど、スマートフォンの画面を確認した。


「連絡は?」

「ない。メッセージも既読つかないし……」

「心配だな。探しに行くか」

「もう少しだけ、もう少しだけ待ってみよ」


 侑士は黙って、テーブルの上の時計へ目を落とした。

 小春が朝陽たちと別れてから一時間以上経つ。


「電話してみる」


 朝陽は小春の名前をタップし、スマートフォンを耳に当てた。

 数度の呼び出し音。


『おかけになった電話番号は、電源が入っていないか、電波の届かない場所にいるため──』


 しかし、小春が出ることはなかった。


「……出ない」

「もう一回かけてみろよ」

「うん」


 もう一度。

 それでも、結果は同じだった。


「やっぱり探しに行こう。小春、さっきどっちに行った?」

「龍神神社の方。猫を追いかけて──」

「猫?」

「うん。三毛猫」


 二人は席を立ち、喫茶店をあとにした。

 来た道を引き返し、二人は小春と別れた場所まで戻ってきた。


「どっちだ?」

「確か、小春はこっちに……」


 朝陽は細い路地の先へ目を向けた。


「猫を追いかけてったんだよな?」

「うん。『すぐ戻る』って言って……」


 二人は小春が消えていった道を辿る。

 その先にあるのは、古びた石段だった。


「……龍神神社」


 朝陽が小さく呟いた。

 二人は石段を登った。その間も、小春の名前を何度も呼び続けた。


「小春ー!」

「小春! いるなら返事しろ!」


 しかし、返事はない。

 木々のざわめきに、二人の声だけが虚しく響く。

 やがて長い石段を登りきり、朱塗りの鳥居が見えてきた。


「……いないね」

「境内を探そう」


 二人が鳥居をくぐろうとした、その時だった。


「……朝陽、待って」

「どうしたの?」


 侑士が石畳の端に視線を落とした。

 そこに、小さな何かが落ちている。

 拾い上げると、それは見覚えのあるライオンのマスコットだった。


「……別の奴が落としたんじゃないか?」


 朝陽は首を横に振った。


「違う、私が小春に『お揃いで持っていようね』ってプレゼントしたやつ……小春──」


 朝陽はライオンのマスコットを強く握りしめた。


「小春、ここに来たんだ……」

「……ああ」


 侑士は辺りを見回した。境内に人影はない。


「手分けして探そう」

「うん」

「朝陽は境内を頼む。俺は裏の方を見てくる」

「分かった」


 二人は再び小春の名を呼びながら、境内を探し始めた。

 しかし──どれだけ探しても、小春の姿はどこにもなかった。


「どこに行ったんだ……!」


 侑士はスマートフォンを取り出した。

 画面に映っているのは、小春と二人で撮った写真だった。

 笑顔でこちらを見つめる小春に、胸騒ぎがさらに強くなる。

 侑士はもう一度、小春へ電話をかけた。


『おかけになった電話番号は、電源が入っていないか──』


「……くそっ!」


 侑士は乱暴に電話を切った。


「どこにいるんだよ、小春……!」

「侑士、小春の家に行ってみよう。もしかしたら、家に帰ってるのかも」

「……そうだな」


 侑士は小さく頷いた。


「きっと帰ってるよ。何か急な用事でもできて、連絡できなかっただけかもしれないし」

「ああ……」


 そう答えながらも、侑士の表情は晴れなかった。

 朝陽は手の中にあるライオンのマスコットへ目を落とした。


 ──だったら、どうしてこれがここに落ちているんだろう。


 小春の家に向かうまで、二人は一言も口を開かなかった。

 朝陽は手の中のライオンのマスコットを、何度も握りしめる。

 家に帰っているだけ。きっとそうだ。そう自分に言い聞かせながら歩いた。

 やがて、見慣れた小春の家が見えてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。