六話 神隠し (1)
喫茶店で朝陽と侑士は待ちぼうけていた。
「もう、十二時過ぎてる。小春、どうしたんだろう」
朝陽は何度目か分からないほど、スマートフォンの画面を確認した。
「連絡は?」
「ない。メッセージも既読つかないし……」
「心配だな。探しに行くか」
「もう少しだけ、もう少しだけ待ってみよ」
侑士は黙って、テーブルの上の時計へ目を落とした。
小春が朝陽たちと別れてから一時間以上経つ。
「電話してみる」
朝陽は小春の名前をタップし、スマートフォンを耳に当てた。
数度の呼び出し音。
『おかけになった電話番号は、電源が入っていないか、電波の届かない場所にいるため──』
しかし、小春が出ることはなかった。
「……出ない」
「もう一回かけてみろよ」
「うん」
もう一度。
それでも、結果は同じだった。
「やっぱり探しに行こう。小春、さっきどっちに行った?」
「龍神神社の方。猫を追いかけて──」
「猫?」
「うん。三毛猫」
二人は席を立ち、喫茶店をあとにした。
来た道を引き返し、二人は小春と別れた場所まで戻ってきた。
「どっちだ?」
「確か、小春はこっちに……」
朝陽は細い路地の先へ目を向けた。
「猫を追いかけてったんだよな?」
「うん。『すぐ戻る』って言って……」
二人は小春が消えていった道を辿る。
その先にあるのは、古びた石段だった。
「……龍神神社」
朝陽が小さく呟いた。
二人は石段を登った。その間も、小春の名前を何度も呼び続けた。
「小春ー!」
「小春! いるなら返事しろ!」
しかし、返事はない。
木々のざわめきに、二人の声だけが虚しく響く。
やがて長い石段を登りきり、朱塗りの鳥居が見えてきた。
「……いないね」
「境内を探そう」
二人が鳥居をくぐろうとした、その時だった。
「……朝陽、待って」
「どうしたの?」
侑士が石畳の端に視線を落とした。
そこに、小さな何かが落ちている。
拾い上げると、それは見覚えのあるライオンのマスコットだった。
「……別の奴が落としたんじゃないか?」
朝陽は首を横に振った。
「違う、私が小春に『お揃いで持っていようね』ってプレゼントしたやつ……小春──」
朝陽はライオンのマスコットを強く握りしめた。
「小春、ここに来たんだ……」
「……ああ」
侑士は辺りを見回した。境内に人影はない。
「手分けして探そう」
「うん」
「朝陽は境内を頼む。俺は裏の方を見てくる」
「分かった」
二人は再び小春の名を呼びながら、境内を探し始めた。
しかし──どれだけ探しても、小春の姿はどこにもなかった。
「どこに行ったんだ……!」
侑士はスマートフォンを取り出した。
画面に映っているのは、小春と二人で撮った写真だった。
笑顔でこちらを見つめる小春に、胸騒ぎがさらに強くなる。
侑士はもう一度、小春へ電話をかけた。
『おかけになった電話番号は、電源が入っていないか──』
「……くそっ!」
侑士は乱暴に電話を切った。
「どこにいるんだよ、小春……!」
「侑士、小春の家に行ってみよう。もしかしたら、家に帰ってるのかも」
「……そうだな」
侑士は小さく頷いた。
「きっと帰ってるよ。何か急な用事でもできて、連絡できなかっただけかもしれないし」
「ああ……」
そう答えながらも、侑士の表情は晴れなかった。
朝陽は手の中にあるライオンのマスコットへ目を落とした。
──だったら、どうしてこれがここに落ちているんだろう。
小春の家に向かうまで、二人は一言も口を開かなかった。
朝陽は手の中のライオンのマスコットを、何度も握りしめる。
家に帰っているだけ。きっとそうだ。そう自分に言い聞かせながら歩いた。
やがて、見慣れた小春の家が見えてきた。




