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第2話 「夏の薫り」


あの教科書と出会ってから、1週間が経った。

相変わらず菜乃葉は、図書室で自習している。

ただ、この前と一つ、変わったことがある。


─────テストの点数が、急激に伸びたのだ。


先生からは、「やればできるじゃないか」と言葉を貰った。

菜乃葉は純粋に嬉しかった。

初めて、自分の努力が報われていることが顕著に現れる場面に遭遇したからだ。


やはり、この教科書のおかげなのだろうか。


─────────────────────


翌日。今朝も菜乃葉は、教室で勉強していた。

朝から友達とわいわいはしゃげるようなご身分ではないことを、菜乃葉は重々承知していた。


しばらくすると朝のHRが始まった。

菜乃葉は慌てて勉強道具を片付ける。


「はい、今日は、教育実習生を紹介するぞ。

竹中ハルト先生だ」


『ハルト』という響きに、一瞬動きが止まる。


───どこかで見た名前だ。

確か……。


そうだ。教科書の表紙。前の持ち主の名前。


ってことは、この人が……。


「僕の名前は、竹中ハルトといいます。

これから3週間、よろしくお願いします!」


その眩しい笑顔は、菜乃葉の心に微かな風を吹かせた。


─────────────────────


放課後。

「ねえねえ、あの先生イケメンじゃない!?」

「ね!話しかけに行ってみよ!」


いつもと教室の雰囲気が違う。やはり、あの教育実習生の影響なのだろうか。


菜乃葉は席を立つと、一人で図書室へと向かった。

こんなに五月蝿くては、勉強に集中できない。


いつもの席。いつもの景色。いつもの、──教科書。

『ハルト』がくれた、最高の教科書。


菜乃葉は11ページを開いた。

勉強を始めて少し経った時。


教科書の端の落書きに目がいった。

どうやら、ペンで書かれているようだった。


『昼休みは中央校舎の裏口に、購買で売れ残ったパンが山ほどあるぞ。おばちゃんに「いつもありがとうございます」とか言うと、1個わけてくれるぞ。ちなみに俺は、5回中4回成功した。』


くすっ。


この教科書、たまにこういういらない豆知識挟んでくるんだよね。本当に、笑わせに来てるとしか思えないよ……ふふっ。


菜乃葉はまた、勉強を始めた。

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