第1話 「図書室」
「小笠原」
テストの返却中、小笠原菜乃葉は教師に呼び出された。
「はい……」
菜乃葉は躊躇いながらも、席を立った。
───呼び出されるのは、いつものことだ。
テストの点が悪い。せっかく素行はいいのに。
今も、数学のテストの点数のことで呼び出されているのだろう。
「小笠原、お前本当にちゃんと勉強しているのか」
「──はい」
「はあ……。今日は図書室に居残りなさい」
「わかりました…」
教師は菜乃葉にそう言ったあと、また小さくため息を吐いた。
「あの子、ちょっともったいないですよね」
横から、隣のクラスの担任が話しかけた。
「本当にそうなんだよなあ…。アイツ、かなりの努力家なんだよ。少なくとも、うちのクラスでは1番だ」
「自分の道を、上手く見つけてくれるといいですね……」
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「はあ……」
今日も自習。
菜乃葉はいつも通り、西日が差す1番端の席に座る。
西日に照らされ、埃のダンスが宙を舞う。
それと同時に、本のインクの匂いが鼻をかすめた。
さて、やるか。
勉強道具を机に広げ、シャーペンを持つ。
この時間は誰もいないので、机を占領できるのだ。
……なんか、この教科書わかりにくいんだよな…。
よし、なんかいいの探しに行こう。
菜乃葉は席を立つと、『教科書』のコーナーへ向かった。
この学校の図書室には、かつてこの学校の生徒だった人達が、要らなくなった教科書を寄付できるという仕組みがある。
数学、現代文、化学など、さまざまな教科の教科書が揃っている。
数学の教科書、どれもパッとしないんだよね。
菜乃葉は片っ端から教科書を取り、パラパラとめくる。一通りみたら、どれにするか考える。
だが、直感で来るものが一つもなかった。
「うーん……」
ふと横に目をやると、随分と使い古された1冊の教科書があった。
菜乃葉はなぜか、その教科書に引き込まれた。
表紙には大きなバツ印。
端っこに小さく「ハルト」と書かれている。
恐らく、前の持ち主の名前だ。
表紙をめくると、なにか文字が書いてあった。
『この教科書を使う後輩へ
お前は数学が嫌いか?
安心しろ、俺もだ』
なんだろう、これ。
もともと寄付するつもりだったのかな。
もう1ページ、めくる。
すると、方程式の解説のページが出てきた。
『方程式って覚えにくいよな。
そういう時は、寝る前とかに音読するといいぜ』
ところどころに、小さい文字でアドバイスが。
覚えなければいけないところに赤線が引いてある。
そして、特に大切なところには青線。
とっても、わかりやすい。
これ、私に合うかも。
菜乃葉はその教科書を持ち、席に戻った。
またノートを開き、勉強を始める。
この教科書で、数学を頑張ろう!
そう思えた瞬間だった。




