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ヒロエ・エモト

 俺とアルは取りあえず、チャーマースクールに戻ってきた。

「マジックブレーカー、完成しました。ゴーストジェネレーターが止まるのを確認しました。」

 アルは校長に言った。

「どうもありがとう。」

 校長は感謝の意を口にした。

「いえ。親父の事の恩もありますし…。」

 俺は言った。

「これからどうするの?」

「親父のパーティーのメンバーを探す旅に出ようと思ってます。」

「母を探したいので…。」

 アルは呟いた。

「お母さん?」

 校長はアルに尋ねた。

「はい。母はジェイムス・ルファルドのパーティーのプリーストだったので。」

「そう…、魔王と…向き合う羽目になるわね…。」

「何か、問題でも?」

 アルは尋ねた。

「いえ、魔王を元に戻す方法を探ってた人がいたのよ。」

「はあ。」

「アル、魔王は以前、普通のプリーストだったんだ。」

 俺は補足した。

「方法を探っていた人、ミキジロウ・エモトって言うんだけど。彼が、最後にダンジョンの最深部に行ったまま、帰ってこなくなって一か月が経つの。」

 校長は話を続けた。

「一か月も…。」

「彼は、”ファズファルド遺跡の秘宝が魔王を元に戻す手掛かりになる”と言っていたわ。」

「その秘宝って、リングオブテラですか?」

 俺は聞いた。

「おそらくね。多分、彼がダンジョン最深部に行った目的は、リングオブテラが発見された場所だと思う。」

「場所?」

「そう。もしかしたら、リングオブテラにまつわる何かがその場所に隠されているのかもしれない。それが元に戻す手掛かりなのかも。」

「元に戻した方が良いですか?」

「私は、一緒に研究していた人間ですし、出来れば…って思っちゃうわね。」

「そうですか…。」

「倒しちゃってもいいわよ。彼はそれだけの罪を犯しているし…。でも、彼を倒すのは難しいわね…。チャーマー達、総がかりでかかって、上手くいくかどうか…。」

「そんなに強いですか?今まで、一度も戦ったこと、無いのでわかりませんが…。」

「強いわよ。何しろチャーマーだから、あの目に捕らえられたら、うちのチャーマー達といえども逃げ出せなくなるわね。それに彼の魔法障壁はもの凄くて、物理攻撃はほどんど受け付けないわ。魔法攻撃は効くけど先に彼の沈黙の呪文がくることが多いわね。」

「なるほど…。」

「しかも、魔王はラミアと一緒にいることが多いから、彼女も何とかしなきゃいけないし…。」

 暫しの沈黙。

「とにかく、ミキジロウ・エモトを探そうと思うわ。彼の娘が私たちの仲間にいるから。」

 校長は言った。

「一人でですか?」

「ええ。」

「ちょっと危険じゃないですか?小型のゴーストジェネレーターがありますし…。」

「でも、それ以上、人員は出せないわ。あの組織があるから。」

「俺が付き添いますか?」

「そうしてもらえるとありがたいけど…。あなたのお父さんの仲間を探す旅はどうするの?」

「親父に手伝ってもらいます。ダンジョンの七階ぐらいまで一緒に行って、俺とその娘さんがミキジロウさん?を探して、親父とアル、ファーが親父の仲間を探します。良いだろ、それで、アル?」

「ああ、大丈夫だ。」


 俺たちは再び旅立つ準備をした。

「マジックブレーカー、予備を作っておいた。」

 アルは言った。

「ありがとう。それは、ここに置いておこう。一つ目は持っていこう。」

「私、ヒロエ・エモトと申します。よろしくお願いします。」

 来たのは、十歳ぐらいのショートカットの少女だった。以前、一回、見かけたような気がする。冒険者がチャーマースクールに押し寄せた時に。聡明そうな子だ。

「よろしくお願いします。」

 俺たちは少女に挨拶した。


 俺たち五人はダンジョンの七階を目指した。ダンジョン八階への階段の前で俺たちは分かれることにした。

「じゃあ、ここで分かれよう。それぞれ探索が終わったら、チャーマースクールにもどろう。」

 俺は言った。

「大丈夫か?二人で。」

 親父が心配した。

「大丈夫。彼女、こう見えて、結構強いから。」

 俺が答えた。

「そうか。それならいいが…。」

「アル、魔王には気を付けろよ。何を考えてるかわからないから。」

 俺は忠告した。

「ああ、了解。」

「それから、もしもの時のため、渡しとく。」

 俺はマジックブレーカーをアルに渡した。

「ありがとう。じゃあ。」

 俺は三人と別れた。

「まずは、君のお父さんの手掛かりを探らないと…。」

「どうします?」

「七階には四人の女神がいるらしい。彼女たちに聞いてみようと思う。お父さんの写真、持ってる?」

「はい。持ってます。」

 俺たちは以前、ラミアの結界を一時的に解いてもらったアウローラの所に向かった。途中、円錐台の身体にトカゲの様な頭がついており、頭の周りから蛇の様な触手が無数に生えている体長六メータぐらいの不気味なモンスターに出会った。

 少女は虹色に光るベールに包まれ、虹色に輝く美女になった。モンスターは触手で襲い掛かってきた。

「チェンジ・ビーナス」

 美女のドレスが金色に変化した。その姿はとても魅力的で、俺は目が離せなくなった。モンスターの触手は美女と俺の所にぎりぎりまで迫ってきた。その時、美女はモンスターにウィンクした。するとモンスターの動きが止まった。

「チェンジ・ジュピター」

 美女のドレスが緑色で胸の周りに花をあしらったドレスに変わった。良い香りが周囲に漂い、俺は夢見心地になった。美女はモンスターにキッスをした。するとモンスターは十秒ほど虹色に輝いたかと思うと、無害な大量の花や草木に変わってしまった。そして、美女は少女に戻った。

「ありがとう。」

 俺はお礼を言った。

「ふー。いえいえ、どういたしまして。お父さんを探しに来てるんだから、このぐらいの事はしないと。」

「やっぱり強いね…。でも、どのぐらい美女でいられるの?」

「それはこの宝石の状態に寄るんだけど。」

 彼女は宝石を見せた。それは七つの宝石が集まったモノだった。ひとつが赤色で残りが紫色だった。

「今、赤色が一つで紫色が六個だから、六かける六で三十六分。」

「へー。」

「この宝石は生命エネルギーを魔力に変えていて、魔力を使って私を美女に変えているの。」

「なるほど。」

「正確には、美女の身体はいつもは違う世界にいて、私が望むと、こちらの世界に現れて、私は違う世界に行きながらこっちの世界の美女の身体を操るんだけどね。」

「難しいことをやってるんだね。」

 俺たちは北東隅の部屋に着いた。

「アウローラさん。」

「はい。」

「この人、知ってますか?」

 俺は尋ねた。そして、少女は写真を見せた。

「あ…。確か…一度、ここに来ました。リングオブテラが発掘された場所を探していたと思います。」

「その後、どうしたかご存じないですか?」

「うーん、済みませんが、知りません。」

「そうですか…。」

 俺たちはそこを後にした。次は北西隅のフローラの所だ。俺たちは歩き続けた。

 北西隅、やはりそこは一区画の小部屋で、ピンク色がかった白のノースリーブドレスに、腰に銀色のベルトを着けた、黒い瞳、黒髪のロングヘアの女性がいた。

「フローラさん。」

「はい。」

「この人、ご存じですか?」

 少女は写真を見せた。

「ここに…一度…一度来ました。確か、リングオブテラが発掘された場所を探していたと思います。」

「その後、どうしたかご存じないですか?」

「知りませんね…。済みません。」

 次は南西隅のファルトゥーナの所だ。二人で歩いているとモンスターに出会った。巨大な蜘蛛の様なモンスターだったが、少女が美女になり、あっという間に無害な花に変えてしまった。美女は少女に戻り、俺たちは歩き続けた。

 南西隅の部屋はやはり小部屋であり、そこには黄色がかった白の左手ノースリーブ右手長袖ドレスに、腰に銀色のベルトを着けた、黒い大きな瞳、茶髪のロングヘアの女性がいた。少女は彼女に写真を見せた。

「確かに、ここに、来ました。リングオブテラの発掘された場所が見つかったという話で、たまたま助手の人が商人と一緒に八階に向かった時に、この場所に古文書を持って一時、避難しに来てました。」

「え!?商人って誰です??」

「あ…。多分、マッド商人って言う、ダンジョン内で商売している人だと思います。」

「わかりました。ありがとうございます。」

「その商人、今も商売しているみたいなので、運が良ければ、階段付近で待っていれば会えますよ。」

 俺たちは新しい手掛かりを得た。もしかしたら、その商人か、助手が何か知っているかもしれない。二人は階段近くに急いだ。途中でモンスターの群れに出会った。一匹は身長六メートルある巨体で、頭は垂直方向に裂けた口が天辺から短い首まで有り、その両側にピンク色の目がある。黒い剛毛で覆われた腕は肘から二本に分かれ、それぞれの手の指にはかぎ爪がついている。二本の足先にも三本のかぎ爪がついている。ほかの五匹はのっぺら坊の顔と二本の角、コウモリの様な翼、二本の手、二本の足、棘の付いた尾を持つ黒い怪物だった。俺たちは取り囲まれてしまった。少女は美女に変わり、囁いた。

「チェンジ・ムーン。」

 美女のドレスが銀色に輝く胸元の大きく開いたドレスに変わった。そしてさらに美女は囁いた。

「ムーンライトイリュージョン。」

 美女は六人に分身し、それぞれモンスターにウィンクしたりキッスしたりした。途端にモンスターは狂いだし、仲間割れをしたり、誰もいないところを攻撃したり、逃げ出したりしだした。五分も経たない間に戦闘は終わった。美女は少女に戻った。

 俺たちは六階に上がる階段の前に着いた。一時間ほど待つと、一人のラフな格好をした太った男が階段から降りてきた。男はぎょろ目で口髭を生やし、胡散臭そうな表情をしている。ダンジョンを一人で、武装もしないで歩いているのは、極めて不気味だ。

「マッドさんですか?」

 俺は問いかけた。

「ああ、そうだが…冒険者かい?どうだい。根暗なミカンはいらんかい?」

「根暗なミカン?」

「美味しいよ!一個どうだい?五ドルにまけとくよ。」

「五ドル??たっかー…。」

「要らないのかい、じゃあな…。」

「あ、ちょっと待ってください。」

「何?買わねえんなら、行くぞ。」

「済みません、この人を知りませんか?」

 少女は写真を見せた。男は嫌ぁぁぁな顔をした。

「知らんな。じゃあな。」

 男は行こうとした。少女は何かに気付いたらしく美女に変身し、男の前に立った。

「あ!」

 男は美女に見とれている。やがて、表情が恍惚としてきた。俺も気持ち良くなってきた。美女は写真を再び男に見せた。

「この人を知ってますか?」

 美女は男に聞いた。

「知ってる。」

「この人に何をしました?」

「ラミア様に頼まれて、この階の隠し部屋に押し込んだ。」

「では、その隠し部屋に案内しなさい。」

 そう言って、美女は男にウィンクした。そして、美女は少女に戻った。男は恍惚とした表情のまま、俺たちを隠し部屋に案内した。

「ここだ。」

 隠し部屋の中には一人の男が倒れていた。男は堀の深い顔で眉毛も濃く少し大きめの黒い瞳で。革のジャケット、縦縞のワイシャツ、革のスラックスを着用していた。長くここにいたらしく、長い口髭、顎髭があった。

「お父さん!」

 少女は叫んだ。少女の小さな手が倒れている男を抱きかかえた。

「お父さん、お父さん…。」

 少女の目から涙が零れ落ちた。男はまだ、息はあるようだ。ただ、意識は無かった。少女は美女に変わり、囁いた。

「チェンジ・サターン」

 美女のドレスが黒く光沢のあるものに変わった。暫くすると倒れていた男の意識が戻った。美女がまた囁いた。

「チェンジ・サン」

 美女のドレスが虹色に輝くものに変わった。そして、美女は外にいた太った商人を睨めつけ、こう言った。

「階段の前まで戻りなさい。そして、私たちのことは忘れるのです。」

「はい。」

 商人は去った。美女は少女に戻った。

「ひ、ヒロエ…。」

 気が付いた男は弱い声で話しかけた。

「お父さん!」

 少女は泣きながら男の手を握った。

「お父さん、大丈夫?」

「…大丈夫だ…。」

 男はゆっくり立ち上がった。

「歩けそうですか?」

 俺は聞いた。

「君は?」

「俺はキムと申します。チャーマースクールの校長に言われて助けに来ました。」

「そうか…。ありがとう。娘を連れてきてくれて…。」

「いえいえ。こちらこそ、娘さんに助けられてばかりで…。俺は、もしも四天王が小型のゴーストジェネレーターを持って現れた時の補助要員です。」

「小型のゴーストジェネレーター?そんなもの作ってきたのか、連中は。」

「はい。とにかく、一旦、チャーマースクールに戻りましょう。歩けますか?」

「ああ。ヒロエ、行こう。」

「はい。」

 少女は泣き止んだ。

 俺たちはチャーマースクールへの帰路に着いた。帰りも三回程モンスターに襲われたが、少女の力で切り抜けた。そして、俺たちはチャーマースクールに着いた。


 チャーマースクールに着いた俺たちは、休息をとった。二時間程休んだ後、校長がベッドで横になっているミキジロウさんに話しかけた。少女は父親であるミキジロウさんに付き添っている。

「エモトさん、あなたが探していたカオスを元の人間に戻す方法のことですけど…。」

「ああ。見つかった。見つかったんだが…、どうも記憶がはっきりしないんだ。リングオブテラを使うのは確かなのだが、それ以外に何かあったはずなのだが、それが…思い出せないんだ。」

「まさか…エモトさん、ラミアに会ったんじゃあ…。」

 校長は訝った。

「わからない。リングオブテラが発見された場所の近くから古文書を発見したところまでは、はっきり覚えているのだが、その先が…よく覚えていないのだ。調査ノートを見れば、少しは思い出すかもしれないのだが…。」

「校長、これはファルトゥーナさんから聞いた話なんですが、ミキジロウさんの助手は商人と一緒に八階に下りたそうなんです。もしかしたら、助手はラミアに会ってるかもしれません。また、その商人から聞いた話ですが、商人はミキジロウさんをラミアに頼まれて七階隠し部屋に押し込んだと言っています。間違いなくラミアが絡んでいると思います。」

 俺は言った。

「うーん、困ったわね…。多分、手としては、その助手に調査ノートの行方を聞いてみるしかないんだけど…。可能性が一番高いのは、助手は八階にいるということになるわ…。」

 校長は考え込んだ。

「なるほど…。行くしかないですね…。」

「かなり、危険よ…。うちからはチャーマー一人を出すのが限界だし。」

「ラミアは戦わずに逃げればいいけど…。あの変幻自在の化け物だけ、足止めする方法があれば良いんですが…。」

「ああ、ファルファウデンね…。」

「最上級の凍結魔法が使える魔法使いがいればいいんです。」

「うーん、いるにはいるけど…。おじいちゃんで、ちょっと冒険の旅に行くのは無理ね…。」

 三人は暫く考え込んだ。俺と校長はミキジロウさんの部屋から出た。

「凍結魔法さえ、あればいいのね。」

「ええ。」

「なら、一つだけ手があるわ。マジックライフルと言う、武器があって、特殊な弾丸に魔法の効果を付加できるようになっているの。それなら、魔法使いでなくても扱えるし、連射も可能よ。」

「へえ。そんなものがあるんですか。」

「町の武器屋にあると思うわ。お金は今渡すわ。後、魔法はこの方にかけてもらって。」

 校長はお金と紙を渡した。それは、町の住所と”レンフォール・カテクサイト”と書いてあった。

「四天王ガミランの四天王になる前の師匠よ。魔王やラミアの結界を作った人でもあるけど…。」

「はあ。」

「後、この冒険にはアンナちゃんに一緒に行ってもらうわ。多分、力になってくれるでしょう。」

「わかりました。あ!じゃあ、ヒロエちゃんにお父さんの写真を貸してもらえるよう、頼んでもらえますか?もし、商人に助手の行方を聞くときに必要ですから。」

「わかった。」

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