マジックブレーカー
部屋には、校長と俺の二人だけになった。校長はいつものスーツ姿に戻った。
「小型のゴーストジェネレーターの話、聞いたわ。」
校長は言った。
「はい。四天王らしき男が持ってました。その時は、壊しましたが。」
「危険ね…。そんなものがあると、四天王の二人がここまで攻めてきかねないし、もし、それがあの組織の手に渡ったとしたら、ここも安全ではなくなる…。」
校長は腕を組んで考え込んだ。
「何か手はあるんですか?」
「無いことはないんだけど…。」
「けど?」
「ええ。…レイハさんって、知ってるかしら?」
「はい。ダンジョン最深部で会いました。」
「彼女がゴーストジェネレーターの機能を停止する機械、”マジックブレーカー”の設計図を盗んできてくれたんだけど…。」
「けど?」
「作れる人がいないのよ…。」
「それは困りましたね…。」
「誰か、作れる人いないかしら?」
「作れる人か…。」
「ここには薬製作のスペシャリストはいるけど、魔法機械製作のスペシャリストはいないのよ…。」
俺はファーやアルに聞いてみた。すると、アルが興味を示した。そこでまずは、魔法機械の一例として、ゴーストジェネレーターを調べることにした。
ファーが気絶してしまうので、俺とアルだけでゴーストジェネレーターを見に行った。延々とゴーストが出続けるのでうっとうしいが、我慢してゴーストジェネレーター本体を見てみた。ゴーストジェネレーターは、六十センチぐらいの大きさの直方体で、カバーがかぶしてあった。カバーを外すと部品が見えた。この部品を外してしまえば、この魔法機械は動かなくなるんじゃないか?そう思った俺は、手で掴み、外そうとした。しかし、どんなに力を入れても、部品は外れなかった。そこで、今度は短剣で部品を破壊しようとした。しかし、短剣で部品を叩くと弾き返された。何か魔法で守られているらしい。
「アル、どう思う?」
「魔法で接着してあるみたいだけど、その呪文さえわかれば、作れるかもしれない。」
「呪文か…。」
俺たちはチャーマースクールに戻って校長に相談してみた。
「一応、うちにも呪文書、あるわよ。」
校長は、チャーマースクールにある呪文書を見せてくれた。結構厚いもので、様々な呪文が書いてあった。最後の方で魔法機械に関する記述もあり、接着呪文なども載っていた。
「これなら作れるかも…。」
アルは言った。
「良かった!」
「校長。その盗んできた設計図を見せてもらえますか?」
アルは聞いた。校長は二つの大きな写真を持ってきた。
「これが設計図を写真で撮ってきたもの。もう一つが材料のリスト。」
俺たちは設計図と材料のリストを見た。材料のリストの方は理解できた。しかし、設計図はちょっと難解だった。
「アル。どう?」
「設計図、難しいけど、作ってみる価値はあると思う。」
「よし!作ってみよう!」
「まずは、材料探しか…。」
「校長!材料、何処にあるか、手掛かりありませんか?」
「レイハが、全部ダンジョン五階にあるって言ってたけど…。それ以上、聞いてないわ。」
校長は腕を組んだ。
「わかりました。一回、ダンジョン五階を巡ってみます。それで見つからなかったら考えます。」
「あ、一つだけ注意しておくわ。たまに善良な冒険者を装った”組織の”人間がいるから気を付けて。」
「組織って…昨日みたいに集団で押し寄せた連中の様な?」
「あれを手引きした組織があるのよ。私達を快く思わない連中が…。」
「うーん、その組織が邪魔するって言う事ですか?」
「可能性はあるわね。嘘の情報を混ぜてくるかも…。」
「わかりました。気を付けます。」
俺とファー、アルはチャーマースクールを出て、ダンジョン五階に下りた。まずは以前、見かけた泉に行ってみることにした。五階は来るたびに壁の位置が変わってしまうので少し探したが、それは十分程歩いたところで見つかった。
泉は五つに分かれていた。どれが材料のリストに書かれた”高純度の聖水”なのかわからない。全部試してみるしかないのだろうか。取りあえず、全部採取していくことにした。泉の水を全種類取り終えたころに、俺たちは一組のパーティーと出会った。剣士と魔法使い、プリーストの三人組だ。プリーストは長身のマッシュルームカットをした男で、黒の法服を着ていた。魔法使いは小柄の真ん中分けの髪をした男で、黒のローブを着ていた。剣士は七三分けの髪で若干頬がこけ気味のやや堀が深い顔をした男で、黒いプレートメールを着ていた。俺は剣士に話しかけた。
「こんにちは。以前、お会いしましたよね。」
「あ、そうでしたっけ?」
「あの時は、俺たち、先を急いでいたもので…。」
「そうですか…。」
「キムと申します。」
「マスルトと申します。」
「あの、一つ、お聞きしたいことがあるんですが…。」
「はい。」
「このアイテムのある場所ってご存じですか?」
俺は材料リストを見せた。
「うーん、知りませんね…。」
「そうですか…。」
俺たちはそのパーティーと別れた。その後、少し歩いていると、三人組のネクタイ、スーツ姿に左腕にシールドを着けた男たちに出会った。その中で、一番歳をとっていると思われる男性が、警察手帳らしきものを見せて、聞いてきた。
「この人、ご存じですか?」
その大柄で四角い顔をした男性は、手配書らしきものを見せた。そこにはマナミさんらしき女性の似顔絵が載っていた。この似顔絵、どうやって作ったんだろう?まさか、ワルマの記憶から…。そんな馬鹿な。
「我々は、この女性を追っています。行方をご存じならば、教えていただけると有難いのですが。」
二番目に若そうな長身で男にしては髪の長い男性が言った。
「済みません。こんな人、知りません。」
俺は答えた。嘘は言いたくないが、仕方がない。今は材料を集める方が先だ。マナミさんの行方なんて、本当に知らないし。
「そうですか。わかりました。ご協力ありがとうございました。」
男たちは別の方向に去っていった。そして、またしばらく歩いていると、別のパーティーと出会った。四人連れのパーティーで、剣士、シーフ、魔法使い、プリーストと言う構成。剣士はおでこが広く、電球を逆さにしたような頭で、細い目をしており、白いプレートメールを着ている。シーフは広いおでこ、やや太い眉毛、温和な顔つきで、白い皮の鎧を着ている。魔法使いはやや面長な顔、黒縁の眼鏡を掛け、真ん中分けの黒髪で、白いローブを着ている。プリーストは太い眉毛、眼光鋭く、少しだけ頬が出ている顔をしており、白い法服を着ている。魔法使いとプリーストは三十歳ぐらい、剣士とシーフは二十五歳ぐらいだろう。
「こんにちは。また、お会いしましたね。」
俺は挨拶をした。
「はい。どうしました?」
プリーストらしき人は、聞いてきた。
「実は、アイテムを探しておりまして…。」
俺は材料リストを見せた。
「はあ。ちょっと待ってください…。」
パーティーは何か相談をしだした。
「済みません。魔亜鉛板は、原材料の魔亜鉛鉱がダンジョンこの階の南側側面にあります。」
プリーストらしき人は言った。言葉は謝っているが、目は謝っていなかった。
「南側側面?」
「はい。側面の壁を外してもらって、その奥にあります。」
「側面の壁って、外れるんですか?」
「少なくともこの階の壁って、外れます。特殊な呪文で”レイアウト呪文”と呼ばれるものがありまして、それを使います。」
「レイアウト呪文?」
「呪文書で見てみることをお勧めします。」
「わかりました。ありがとうございます。他には?」
「抗魔の杖が、この階の北東隅にあります。これは多分、宝箱に入っています。」
「ありがとうございます。」
「わかるのは、この二つです。では。」
俺たちはパーティーと別れ、一旦、四階に戻って呪文書を見てみることにした。
「校長。もう一度、呪文書、見せてくれますか?」
「良いけど…どうしたの?」
「いえ。下の階で冒険者に魔亜鉛板の場所を教えてもらいまして、その場所がダンジョン側面の壁の向こうらしいのです。そして、その側面の壁を外すのに呪文を使うらしいのです。そこでそれが呪文書に載っているかどうか、調べようと思いまして。」
「わかったわ。」
校長は呪文書を貸してくれた。”レイアウト呪文”は、呪文書の最後の方に載っていた。壁を移動させる呪文がある。もしかして、五階の壁が移動しているのも、この呪文を使っているのだろうか?側面の壁を外す呪文は…有った。元に戻す呪文も含めて、アルに覚えてもらう。
そして俺たちは、ダンジョン五階に戻った。五階南側壁面に着いた俺たちは、壁面を調べた。はたして、この壁が外れるのだろうか?アルに呪文を詠唱してもらった。
”この地を創りし創造主よ。我が意思により作り変えることを許し給え。”「レイリ!」
ゴゴゴゴゴ。壁が一枚、側面から外れた。壁の後ろ側には直径五センチぐらいの石があった。これが魔亜鉛鉱だろうか。採取して調べることにした。
”この地を創りし創造主よ。その力を使い動いたモノ達を元に戻し給え。”「レイアン!」
ゴゴゴゴゴ、壁が元に戻った。そして、俺たちは抗魔の杖があると言っていた北東隅に向かった。
俺たちは北東隅に着いた。しかし、そこには宝箱は無かった。これは魔亜鉛鉱も怪しいものだ。俺たちはそこでこれからどうするか、話し合った。
「どうしようか?これから…。」
「取りあえず、高純度の聖水と、魔亜鉛鉱らしきものは手に入ったんだよね。」
「うん。魔亜鉛鉱の方はおそらくだけど。」
「後は、抗魔の杖と魔銅板、魔銅線、後、マジッククリスタルか…。」
アルは、材料のリストを見た。
「魔銅線と魔銅板は、同じ材料から作るかもしれないから…後、三つか…。」
「私、以前、図書館でアイテム図鑑を見たけど…もしかしたら、あれにある場所まで書いてあるかも…。」
ファーが言った。
「うん、わかった。それを見てみよう。」
俺たちはダンジョン入り口に向かった。途中、四階から三階へ上がる階段の前で、四人組のパーティーに出会った。どこかで見たような人が一人混じっていた。その人は、黒いローブを着た魔法使いらしい人だった。
「カール!」
「ファー!」
二人は抱き合った。
「カール…生きてたんだね…探したのよ…。」
「ごめん。あの時、二人を逃がした後、私、一か八か、火炎呪文のファギを唱えたわ。彼らは死にはしなかったけど、骨が脆くなって、簡単に砕けるようになった。でも、背後から一体、あまり呪文が効かなかったモンスターに刺されちゃって、動けなくなっちゃったの。その時、彼が来てくれて助けられて…。」
カールが彼と言って紹介した男は、長身で黒い髪の毛で右目が隠れ、灰色の特殊な皮の鎧と肩パッドを付け、黒いアンダーウェアを着て鞭を持っていた。
「彼、サウラーって言うの。」
カールは男を紹介した。
「済まないが、銀の鍵、知らないか?」
サウラーと呼ばれた男が聞いてきた。
「銀の鍵ですか?知りませんが…。」
俺は正直に答えた。
「そうか…。」
「カール。一緒にまた、冒険しよ。」
ファーは言った。
「ファー…。ごめん。それが…できないんだ。」
カールは少し悲しそうな声を出した。
「何故…。」
「父さんが…、父さんが…。」
カールは泣き崩れた。どうも深い訳があるらしい。彼女は助けられた後の話を涙ながらに話し始めた。
「彼のパーティーに助けられた直後、私、気絶しちゃって、彼が言うには一時間ぐらい目が覚めなかったらしいの。その後、私は目が覚めて、急いでダンジョン入り口に向かったわ。でも、私が行った時には、もう二人はいなかった。」
「ごめん、本当は私一人でもカールを待ちたかったんだけど、キムが私の身を案じて…。」
「いいえ。いいの。結局、その後、あなたたち二人の冒険に付き合えないことが分かったから…。」
「え?」
ファーは驚いた。そして、カールは話を続けた。
「で、私、自分の下宿に戻ったの。そしたら、手紙が来てた。母さんからだった。父さんが病気だって…。私、慌ててフラヌスに帰ったわ。病院に行って話を聞いたの。長くもって一年、早ければ二カ月だって…。」
その場に沈黙が流れた。
「でも、たった一つの希望があって、それは、”銀の鍵”と呼ばれるアイテムがあって、それを使うと別の世界に行けるらしいの。その別の世界の中には、病気を克服する方法が見つかっている世界もあるらしいの。そこへ行けば、私の父さんも助かるかもしれない…。」
「それで銀の鍵を探す旅をしているのか…。」
俺は呟いた。
「わかった。その旅、手伝う。でも、ちょっと待ってて。今探してるものが見つかれば…。うーん、一週間後正午に町の公園で会う!それでどう?」
ファーが提案した。
「了解。一週間後。でも、その前に”銀の鍵”が見つかっちゃったら、行かれないけど。」
カールは元気を取り戻した。
「いいわ。そしたら、そん時はカールの旅の無事を祈るだけ。」
ファーは言った。俺たちはカール達と別れた。そして、ダンジョンを出て町の図書館に向かった。アイテム図鑑はすぐに見つかった。
「まずは魔銅板、魔銅板…。あった。”水溶液に魔力を注入するのによく使われる。原材料は魔銅鉱。”」
俺はアイテム図鑑を読み上げた。
「魔銅鉱って載ってる?」
アルが聞いた。
「いや…。」
「魔鉱物図鑑かな…。」
アルが呟いた。
「じゃあ俺、魔鉱物図鑑を探すから、二人は抗魔の杖と魔銅線の記述を探しといて。」
俺は魔鉱物図鑑を探した。魔鉱物図鑑は、地質学の棚の一番奥の所にあった。
「魔銅鉱は…。あった。”高い魔力誘導性質を持つ鉱物…。”問題は採掘場所だ。採掘場所は…”付録の地図を参照。”」
付録の地図にはこの国全体が載っていた。ダンジョン(ファズファルド遺跡)付近の拡大図は無かった。これではダンジョンから採取できるかどうかわからない。ザカリオン市報に手掛かりがないか、探してみることにした。
探すこと三十分。ザカリオン周辺の鉱物資源地図があった!それを見ると、魔銅鉱はファズファルド遺跡の北側にあることがわかった。また、マジッククリスタルも載っていて、ファズファルド遺跡の西側にあることがわかった。
「魔銅鉱の事、わかった?」
アルが聞いた。
「うん。魔銅鉱とマジッククリスタルのある場所はわかった。」
「こっちは、抗魔の杖の場所と魔銅線について分かった。」
「魔銅鉱はダンジョンの北側にある。マジッククリスタルはダンジョンの東側にある。」
「抗魔の杖はダンジョン五階の中心付近に宝箱に入っているらしい。魔銅線は原材料が魔銅鉱で、魔銅板と一緒。」
「そうか…。どうする?五階、行ってみる?」
「その前に、製鉄所に寄って、魔亜鉛鉱、魔亜鉛板に製鉄してもらわない?」
「それもいいな…。ザカリオンの地図、見てくか…。」
俺たちは製鉄所に向かった。小さな製鉄所だが、何種類かの炉があった。
「済みません。キムと申しますが。」
「はい。」
「製鉄を頼めますか?」
「はい。」
「魔亜鉛板が二枚、欲しいのです。魔亜鉛鉱はここにあります。」
「魔亜鉛板、どれぐらいの大きさでしょう。」
「幅一センチ、長さ四センチ、厚さ2ミリぐらいです。」
「わかりました。代金五十ドルです。」
「明日取りに来ます。よろしくお願いします。」
俺たちは製鉄所を出て、ダンジョン五階に向かった。
まずは北側に行って、魔銅鉱を採取することにした。アルに壁を外す呪文を唱えてもらい、壁が外れ、魔銅鉱らしき鉱石を短剣で削り出して拾った。アルに壁を元に戻してもらうと、次は西側に向かった。
西側に着き、壁を外すと、そこにはすでに採掘された跡があり、マジッククリスタルらしきものは見つからなかった。仕方なく、壁を戻し、中央付近に向かった。
中央付近には宝箱があり、中には抗魔の杖らしきものが二本あった。一応、予備も含めて二本持っていくことにした。これで、マジッククリスタル以外のアイテムは揃った。そこで一旦、俺たちは四階チャーマースクールに戻ることにした。
問題は誰がマジッククリスタルを採掘したかである。まさか…。そう思った俺は、また、ゴーストジェネレーターのカバーを開けてみた。ぐちゃぐちゃした配線をかき分けると、何やらクリスタルらしいものが見つかった。これはマジッククリスタルではなかろうか。だとすると採掘したのは…。
「校長。ゴーストジェネレーターを作ったのって、四天王の…。」
俺は校長に尋ねた。
「ヘッケラーよ。」
校長は答えた。
「間違いないですか?」
「ええ。レイハが言ってたから、間違いないわ。」
「わかりました。これはおそらくですが、マジッククリスタルはヘッケラーが全部、採掘して持っているものと思われます。」
「じゃあ…。」
「今から、それを盗みに行ってきます。」
「え!?」
校長は驚いた。
「俺はシーフですから。校長、ヘッケラーの部屋ってわかりますか?」
「ええ。レイハが教えてくれたものがあるけど…。」
俺は、校長が持ってきた資料に目を通した。
俺たちはチャーマースクールを出て、ダンジョン最深部に向かった。ファーのおかげで、問題なく進めた。そして、八階、大広間二つを何とかクリアして、次の広間に入る手前で嫌な予感がした。以前だと次の広間には四天王がいた。あの時は個別撃破できたが、今度はそういうわけにはいかないような気がする。あの時もそうだが、何故か、俺たちの情報が向こうに筒抜けな気がする。もしそうだとすると、今度は総力戦をしてくるかもしれない。そうしたら、多分、勝ち目はない。
俺は作戦を考えた。まず、ファーの呪文で室内の灯りを消す。闇に紛れて俺たちは奴らの横を駆け抜けて、次の広間に行く。ただ、一番危険なのは、あの変幻自在の化け物だ。だから、ファーにはあの化け物を凍結呪文で足止めしてもらう。
俺は次の部屋をそっと覗き込んだ。やはり、四天王とラミアがいる。俺は作戦をファーとアルに説明した。
「ファー、もしかしたら、走りながら凍結呪文を唱えてもらう羽目になるかもしれないけど、大丈夫?」
「うん。多分、大丈夫。」
「じゃあ、ランプを消して。お願いします。」
”すべての水に住まう精よ。その流れを今解き放ってすべてを洗い流し給え”「ウォモ!」
ランプの灯は消えた。俺たちは部屋に入り走り出した。黒竜はブレスを吐いた。炎は辛うじて避けられた。しかし、炎の明かりで、俺たちの姿が映し出された。不味い、あの化け物が来る。奴は身体から三本の触手を伸ばし、俺たち三人を同時に攻撃してきた。
”すべての氷に住まう精よ。”
ファーの詠唱が始まった。そこに化け物の触手が襲い掛かる。間一髪、俺がそれを短剣ではじいた。しかし、もう一本の触手が俺の腹をついた。
「う!」
俺は片膝をついた。アルは何とか触手をかわしたらしい。
”すべての炎に住まう精よ。”
不味い、火炎攻撃が来る。あ!黒竜のブレスが止まった!周囲が暗闇になる。
”その冷気を今解き放ってすべてを凍らし給え”「アイギ!」
ファーの詠唱が終わった。俺は痛みをこらえて、走り出した。
”大気に住まう光の精よ。その姿を現し我々を明るく照らし給え。”「イルミ!」
明かりが点いた。俺たちは部屋を出た。”大地に住まう聖なる神よ。その優しさをもって傷を癒し給え”「ディボ!」
アルの回復呪文で俺は回復した。黒竜のブレスの音がする。まずい。奴を溶かす気だ。俺たちは先を急いだ。次の部屋には誰もいなかった。後ろから四天王が三人とラミアが追ってくる。何とか足止めできないか?そうだ!レイアウト呪文で壁を動かせば…。
「アル、レイアウト呪文、壁を動かすやつ、覚えてる?」
俺はアルに聞いた。
「え?ああ、なんとか。」
「あれで、連中の足止めできないか?」
「やってみる。」
”この地を創りし創造主よ、その力を使い創りしモノ達を動かし給え。”「レイム!」
ゴゴゴゴゴ。壁が動いた。奴らの行く手をふさいだ。その間に俺たちは走り続ける。
「下がってろ。俺がやる。」
あの化け物の声。もう溶けたのか?
ピシ!ピシ!ゴゴゴゴゴゴゴバダァーン!
壁を…壁を切った!何という奴…。俺たちは逃げた。
そして、俺たちはヘッケラーの部屋の前まで来た。急いでピッキングで鍵を開け、三人共中に入った。そして内側から鍵をかけた。俺とアルはマジッククリスタルを探し、ファーにはヘッケラーを虜にして、足止めをしてもらうことにした。マジッククリスタルは金庫か鍵のかかる机の引き出しに隠されていると見た。まず、金庫の鍵を開けてみた。しかし、マジッククリスタルは無かった。次に机の引き出しを開けようとした時に、鍵が開き、ヘッケラーが入ってきた。ファーはヘッケラーの背後から見えないようにうまく体を隠しながら、ヘッケラーにウィンクした。不意を突かれたヘッケラーは、彼女の虜になった。
「誰もいないって言って。」
ファーは隠れながらヘッケラーに囁いた。
「中には誰もいない。」
ヘッケラーはドアの外に向けて言った。
「部屋に入って、鍵をかけなさい。」
ファーは囁いた。ヘッケラーは部屋の中に入り、ドアを閉め、鍵をかけた。
「マジッククリスタルは何処にあるの?」
ファーは囁いた。
「マジッククリスタルは、ベッドの下の保管ケースの中にある。」
俺とアルはベッドの下を見た。保管ケースはスーツケースほどの大きさで、俺はそれをひっぱりだした。やはり鍵がかかっていた。
「鍵がかかっている。」
ヘッケラーは言った。
「鍵は?」
ファーが囁いた。
「鍵はここにある。」
ヘッケラーはポケットから鍵を出した。俺はそれを受け取ると、保管ケースを開けた。中には、マジッククリスタルらしいものが入っていた。俺はそれを四つほど取り出して、ふたを閉め鍵をして鍵をヘッケラーに帰した。
さて、どうやって脱出するかである。多分、外には四天王が二人とラミアがいる。こいつらを追い払わなければならない。どうやって追い払うかだが…。まず、俺たちはベッドの下に隠れて、ヘッケラーを部屋の外に行ってもらい、奴らを部屋の中に入れさせて、本当に中に人がいないように見せる。その後、少ししたら、俺たちはここを出て走り去る。旨く行くかどうかわからないが、やってみよう!
「ヘッケラーに、一旦、部屋の外に出て、その後、俺たちのことを忘れるように言って。」
ファーはヘッケラーにそう囁いた。そして、俺たちはベッドの下に隠れた。暫くすると四天王二人とラミアが部屋に入ってきた。
「うーん、おかしいな…。」
化け物は言った。
「怪しいと睨んだんだが…。」
そう言って、奴らは出て行った。そして、俺たちはベッドの下から出て、部屋を出た。しかし、そこにはあの化け物がいた。
俺とアルはなんとか奴の攻撃をかわした。ファーは凍結呪文を唱え始めた。ファーにも奴の攻撃の手は伸びた。俺は短剣でファーへの攻撃を弾いた。ファーが唱え終わると、奴は凍り付いた。俺たちは逃げ出した。
背後で火炎呪文を唱える声がした。不味い、追ってくる。俺たちは急いだ。しかし、七階へ上がる階段の前で追いつかれた。化け物の二本の腕が伸びて攻撃が来た。俺とアルはそれを武具で弾いた。ファーは凍結魔法を唱え始める。奴の身体から更に触手が出て攻撃してきた。まずい、ファーが!俺は、ファーの前に立った。俺の身体に奴の触手が刺さった。
「うっ!」
「アイギ!」
奴の身体が凍り付いた。俺はやつの触手を引き抜いた。
”大地に住まう聖なる神よ。その優しさをもって傷を癒し給え”「ディボ!」
アルの回復呪文。俺は一命をとりとめた。
俺たちは七階に上がった。そして、チャーマースクールに帰って、休んだ。
翌日、俺たちはダンジョンを出て、町の製鉄所に向かった。
「キムと申します。魔亜鉛板を受け取りに来ました。」
「はい。これが魔亜鉛板二枚です。」
「ありがとうございます。後、魔銅板二枚と魔銅線二メートル、欲しいんですけど。魔銅鉱はここにあります。」
「魔銅板はどのくらいの大きさでしょう。」
「魔亜鉛板と同じ大きさでお願いします。」
「わかりました。七十五ドル頂きます。」
「何時できますか?」
「今日の午後にはできます。」
「では、今日の午後、伺います。」
俺たちは町で少し時間を過ごして、また、製鉄所に向かい、魔銅板と魔銅線を受け取った。そして、チャーマースクールに戻った。
「校長、部品を作るのに、百二十五ドルかかったんですけど。」
「わかったわ。」
校長はお金をくれた。アルはマジックブレーカーの製作に取り掛かった。俺はそれを手伝った。そんな二人をファーは見守っていた。
設計図には部品の配置、配線が書いてあった。配置は、高純度の聖水を入れた直径四センチ長さ八センチほどの円筒形の容器を中心に置き、そこに魔銅板、魔亜鉛板を平行に挿入、容器の周りに抗魔の杖を何本かに切ったものを配置して固定、また、マジッククリスタルを容器の外側、底に固定すると言った感じになっている。配線はマジッククリスタルから、魔銅板、魔亜鉛板、各抗魔の杖を繋ぎ、抗魔の杖の結線が多少複雑になっている。
まず、魔銅板と魔亜鉛板を容器に固定するところから始めた。次に、魔銅線を切り、魔銅板に着ける。そして、魔亜鉛板にも魔銅線を切ってつける。接続するときにアルは接着呪文を唱えた。次に、容器に高純度の聖水を入れる。ただ、聖水らしいものは五種類あるので、一種類づつ試さねばならない。蓋を着脱式のまま、試せるように作らなければ。次に、容器の蓋をし、容器にマジッククリスタルを固定する。そして、魔銅板と魔亜鉛板に接続した魔銅線をマジッククリスタルに接続する。次に、抗魔の杖を長さ八センチ、六本程に切断し、容器の周囲に固定する。そして、各抗魔の杖を魔銅線でマジッククリスタルに設計図通りに接続する。これで聖水が正しければ、上手くいくはず。
そこで完成したマジックブレーカーと試してみる残りの聖水四種類を持って、アルと二人でゴーストジェネレーターの所に行った。
行ってみて少し時間が経ったが、ゴーストは出現した。どうも、この水ではないようだ。俺たちは水を入れ替えた。すると今度は、四階のフロア中がゴーストで溢れてしまった。アルは急いで、チャーマースクール内のゴーストを駆除した。俺は気絶したチャーマー達を起こして回った。俺たちは水を入れ替えた。今度も何も起きず、ゴーストは発生した。そのゴーストを駆除し、もう一度、水を入れ替えた。やっと、ブーンと言う音がして、ゴーストが出なくなった。俺たちはほっとした。




