『孤独な防衛線、バグの思考回路』
「……俺に、どうしろってんだよ」放課後の図書室。一番端の席で、俺は動かない右腕を睨みつけていた。白雪――あの魔法少女は、クラスメイトたちに囲まれ、偽りの歓迎を受けている。だが、彼女の頭上で明滅する『廃棄処理待機中』の文字は、刻一刻と赤さを増していた。設計者は、彼女を「壊れた部品」として捨てようとしている。そしてそれを俺に見せつけ、助けようと飛び出した瞬間に、まとめて消去するつもりだ。リッパーとの相打ちで、俺の『核』は出力が落ちている。今の俺に、あの白銀の死神を退ける力はない。(一人で、どうにかしなきゃならない)白雪に協力を頼むわけにはいかない。彼女をこれ以上、システムの深淵に近づけたくなかった。俺は図書室のPCを開き、昨夜灰になったはずのスマートフォンのログを、記憶を頼りにノートに書き出していく。設計図、効率、座標、デリート、上書き。奴らが使う言葉の中に、必ず「穴」があるはずだ。「……待てよ。リッパーは言った。『この座標の通信という概念を消去する』と」あいつらは世界そのものを書き換えるが、それは「座標(場所)」を指定した命令に過ぎない。だとしたら、白雪という個体を「廃棄対象の座標」から外してしまえばどうなる?物理的に逃げるんじゃない。設計者の視界から、彼女の存在を「透明化」させる。俺は自分の右腕に触れた。リッパーと相打ちになった際、俺の毒はあいつのシステムを汚染した。その汚染データを、今度は白雪に薄く被せるんだ。「……俺の『バグ』で、彼女をコーティングする」成功すれば、設計者の目には、白雪が「既に消去済みのゴミ」として映るはずだ。だが、それは俺の命を分け与えることと同義だ。右腕の灰色の痣が、さらに肘のあたりまで這い上がってくる。「……効率は最悪だな。でも、お前らの計算通りには動いてやらない」俺は立ち上がり、白雪のいる教室へと向かった。窓の外では、血のような夕焼けが街を飲み込もうとしている。今夜、この学校は設計者の『修正』という名の戦場に変わる。




