『連鎖するノイズ、予定外の犠牲者』
「よし、これで……」放課後の人気のない理科室で、湊は白雪の肩に右腕をかざした。黒いノイズが薄い膜のように彼女を包み込み、視覚化された『廃棄処理待機中』の文字が砂嵐のように乱れて消える。「……湊さん、これって」「黙ってろ。これで奴らの目からは、お前は消えたはずだ」作戦は成功した。はずだった。「――おーい、湊! まだ残ってたのか?」突然、扉が開いた。入ってきたのは親友の健太だった。いつも通り、部活帰りの能天気な笑顔。だがその瞬間、湊の視界にある『設計図』が狂ったように警告を発した。【致命的なエラー:未認証個体による座標への干渉を検知】【修正プログラムを実行:対象個体『健太』を消去プロセスに追加】「なっ……!? 違う、そいつは関係ない!」湊の叫びも虚しく、健太の足元の床が、まるで黒いインクを零したように消失した。「え? あ、おい、なんだこれ、足が――」健太の体が、膝下からサラサラとした粒子になって崩れ始める。設計者は、白雪を見失った計算の「ズレ」を埋めるために、その場にいた健太を「身代わりの資源」として再利用し始めたのだ。「やめろッ! 健太から離れろッ!!」湊は健太に飛びつこうとしたが、リッパーの声が耳元で冷たく響いた。『非効率だね。一人を隠せば、代わりの穴が必要になる。それが世界の帳尻というものだよ』姿は見えない。だが、学校中の空間そのものがリッパーの嘲笑に満ちていた。「湊さん、私のせいで……!」白雪が泣き叫び、健太を助けようとノイズの外へ出ようとする。「動くな! お前が出たら全部無駄になるッ!」健太の体は、既に腰のあたりまで透けていた。親友の絶望に染まった目が湊を捉える。「助けてくれ……」という声にすらならない唇の動き。守ろうとした指先から、また一つ、大切なものが零れ落ちようとしていた。湊の右腕の痣が、激しい怒りに呼応して脈打ち、黒い血が皮膚を突き破って溢れ出す。「効率……帳尻……。そんなクソみたいな理由で、こいつまで消すのかよッ!!」湊は健太を飲み込もうとする「虚無」の中に、自らの右腕を深く突っ込んだ。設計者が描いた「帳尻」という名のシナリオを、自らの命を燃料にして、物理的に引き千切るために。




