『友の残響、消えない欠損』
「湊……助け……」健太の最期の言葉は、ノイズに掻き消された。俺が虚無の中に突っ込んだ右腕は、健太の温もりを掴むことはできなかった。代わりに掴んだのは、健太だったモノが崩壊してデータの塵へと変わる、無機質で冷たい感触だけだった。「……健、太……?」目の前で、親友が完全に消えた。服の一切れも、思い出のキーホルダーも残っていない。ただ、理科室の床に、最初から彼など存在しなかったかのような「空白」が広がっているだけだ。視界の端で、無情なシステムログが流れる。【対象個体『健太』の消去完了。リソースの回収に成功しました】「……ああああああああああああああああッ!!!」俺の絶叫が、静まり返った校舎に響き渡った。巴先輩に続いて、健太まで。俺が守ろうとしたから、俺が余計な足掻きをしたから、あいつは「身代わり」として設計者に喰われた。『実に効率的だ。君の絶望は、最高のスパイスになるよ』背後で、リッパーが満足げに細い目を細めていた。あいつの足元には、健太が消えたことで「帳尻」が合い、実体を取り戻した白雪が座り込んでいる。「……湊さん、ごめんなさい、私が、私が……」白雪の謝罪が、今の俺には酷く遠く、そして鋭いナイフのように突き刺さる。俺は立ち上がった。右腕の痣は、今や肩を越え、喉元まで侵食していた。皮膚が裂け、黒いノイズが炎のように立ち上る。「……リッパー。お前、今『最高』って言ったか」声が、自分のものではないように低く響く。「健太の命を食って、そんなに気分がいいか……ッ!!」俺は白雪を突き飛ばし、リッパーに向かって地を蹴った。もはや知略も、駆け引きも、ハッタリもない。親友を殺された怒り。その一点だけを燃料にして、俺は自分の魂を、黒い「毒」へと変換する。「お前らが求める『最高のエピソード』……今から俺が、血みどろのバッドエンドに書き換えてやる」俺の右腕が、健太の絶望をも飲み込んで、巨大な漆黒の鎌へと変貌した。それは設計者を殺すためだけの、あまりに非効率で、あまりに不吉な「バグの極致」だった。




