『神々の雑談、切り捨てられた安寧』
地下の配管ダクトを這い、湊は心臓部の「排熱孔」のすぐ真上まで辿り着いた。そこから漏れ聞こえてきたのは、血が逆流するほど無機質で、軽薄な声だった。「――しかし、巴の個体は実に見事な『成果』だったね」声の主は、リッパー。それも、湊が刻んだはずの個体よりも遥かに重厚な音を奏でる、別のバックアップたちだ。湊は息を殺し、異形の右腕を床に押し当ててノイズを殺す。「ああ。彼女を組織から抹消し、絶望を抽出するプロセスに回したのは大正解だったよ。あの時、下手に『魔法少女』として延命させるより、目の前で砕いて見せた方が、周囲の観測個体……特に佐藤湊への干渉効率が跳ね上がった」「全くだ。一人の女の死で、これほど質の高い『復讐のエネルギー』が手に入るとは。設計図を書いた者も、さぞ満足しているだろう」リッパーたちは、まるで昨夜の晩飯のメニューを褒めるような気安さで、巴先輩を「ゴミ箱に捨てて正解だった」と笑い合っていた。湊の脳裏に、あの日、公園で喰われた彼女の悲鳴が、骨の軋む音が、鮮明にリフレインする。あいつらにとって、巴先輩の死は不幸ですらなく、ただの「成功した実験」に過ぎなかったのだ。「……殺す」湊の唇から、言葉にならない呪詛が漏れる。抹消して正解だった? 効率が上がった?俺たちが流した血も、彼女が奪われた未来も、全部お前らの「手柄」だというのか。「抹消して……正解だった、だと……?」湊の右腕の黒い痣が、どろりと溶け出し、配管を腐食させ始めた。情報の収集はもう十分だ。設計者の理屈、リッパーの思惑、世界の構造。そんなものはもう、どうでもいい。「お前らが正解だって言うなら……俺が、その答えを地獄の業火で書き換えてやる」湊は、足元の鉄板を力任せに引き千切った。光の射し込む議事堂のような空間へ、復讐という名の『毒』が、真っ逆さまに突き落ちていく。




