『裏切りの女神、墜ちた偶像』
「……正解、だった? 抹消して、正解だっただと?」湊の声が、冷徹な議事堂に響き渡る。飛び降りた湊の前に立ちはだかっていたのは、三体のリッパー。だが、彼らは湊の殺気に怯えるどころか、憐れむような赤い目を細めて笑った。「ああ、聞こえていたかい? なら訂正しよう。巴を『抹消』したんじゃない。彼女を『昇進』させたんだよ。佐藤湊」「……何、を……?」リッパーの一体が、背後の巨大なモニターを指し示した。そこに映し出されたのは、設計者の中枢ログ。巴先輩の個体データには、湊が見たこともない階級章――『最高設計補佐』の文字が刻まれていた。「彼女はね、最初から僕たちの仲間だったんだよ。魔法少女の絶望をより美味しく収穫するために、君という『最高のサンプル』を育てるための……いわば、専属の調教師だ」湊の思考が真っ白に染まる。優しかった笑顔。塾の帰りに一緒に食べたアイスの味。あの夜、公園で異形に喰われたはずの、あの凄惨な最期。「あの日、君の前で彼女を喰ったのは、ただの演出さ。彼女自身の提案でね。死を偽装し、君の心に消えない憎悪を植え付ける。……ほら、現に君は期待以上のバグに育った。彼女の『教育』は大成功というわけだ」「嘘だ……嘘だッ!! 先輩が……巴先輩が、あんな奴らと……!!」湊は叫び、リッパーに掴みかかろうとした。だが、その時。議事堂の奥、最も高い玉座に、一人の女性が姿を現した。純白のドレスに身を包み、手には設計者の権能を象徴する錫杖。その顔は、紛れもなく――湊が死ぬほど愛し、復讐の原動力にしてきた、巴先輩だった。「お久しぶり、湊くん。……私のために、ここまで『毒』を溜め込んでくれてありがとう」彼女の瞳に、かつての慈しみはない。あるのは、丹精込めて育てた家畜の成長を喜ぶような、冷徹な満足感だけだった。巴先輩は、設計者を地獄に叩き落とすための仲間などではなかった。彼女こそが、湊を地獄へ誘い、この残酷なシステムを回していた「設計者」そのものだったのだ。湊の右腕の黒いノイズが、悲鳴を上げるように霧散していく。復讐の根底が、足元から音を立てて崩れ落ちた。




