『潜伏の泥濘、ノイズの街』
理科室の決戦から一週間。佐藤湊は、街の片隅にある廃工場に身を潜めていた。右腕の侵食はついに首元まで達し、呼吸をするたびに肺が焦げるような熱を帯びる。「……ハ、ッ……カハッ……」血の混じった痰を吐き捨て、湊は手元のノートを睨みつける。そこには、あの日以来、視界にノイズとして混じり始めた「設計者の座標コード」が書き殴られていた。巴先輩、健太、そして白雪。失った者たちが「リソース」としてどこへ送られたのか。その流れを追うことだけが、今の湊を生かしている。街の風景は、一見すると何も変わっていない。だが、湊の目には見える。信号待ちの列、笑い合う学生、行き交う車――そのすべてに、薄っぺらな『テクスチャ』が貼り付けられていることを。設計者がリッパーや001を使って守ろうとした「効率的な世界」は、ただの精巧な張りぼてだった。(001の言った通りだ。ここは、巨大な家畜小屋に過ぎない……)湊は、白雪の形見である「光の剣の欠片」を右腕のノイズに食わせた。キィィィィィン、という耳障りな音が響き、灰色の痣がドクドクと脈打つ。形見を「燃料」にしなければ、自分の存在さえ維持できない。その事実に吐き気がするが、湊は迷わず自分の『核』を汚染させていった。「……見つけた」ノートの数値を繋ぎ合わせた先、座標の歪みが一点に集中している場所。そこは、街の象徴であるテレビ塔の地下。設計者がこの街を統治し、人々の絶望を効率よく「集荷」するための心臓部。「待ってろ……設計者。お前が積み上げた、その綺麗な数字を……全部、地獄の業火で焼き払ってやる」湊は、ボロボロになったフードを深く被り、闇に紛れて立ち上がった。もはや、湊の顔の半分には、人間らしい表情は残っていない。ただ、復讐という名の「毒」だけを詰め込んだ、設計図にない怪物が、静かに牙を剥き始めた。




