『断絶の証明、あるいはバグの矜持』
「……だったら、お前は一生そうやってろ」湊の低く、冷え切った声が理科室の空気を凍らせた。001の激情を真っ向から受け止め、それを無造作に突き放す。「数千回の絶望? 世界の維持? 知らねえよ、そんなデカい話。俺にとっては、巴先輩が、健太が、白雪が……こいつらだけが、俺の生きてる理由の全部だったんだ」湊は異形の右腕をだらりと下げ、001の瞳を真っ直ぐに射抜いた。そこにはもう、先ほどまでの激昂はない。あるのは、救いようのない絶望を抱えたまま、それでも一人で歩き続けると決めた男の、孤独な覚悟だけだった。「お前は賢いよ。数字を見て、効率を考えて、正しく心を殺して……。でもな、俺はそんな『賢い部品』になるために、あいつらを見送ったんじゃねえ」湊は、自らの『核』が激しく削れる音を聞いた。右腕の黒い痣が、ついに心臓の鼓動と完全に同期を始める。「お前が何千ページ絶望を積み上げようが、俺は俺の目の前の一ページを破り捨てる。設計者が書いた予定通りの結末を、ただ泥臭くバグらせ続けるだけだ」湊は踵を返し、001に背を向けた。最大の隙。だが、今の湊からは、001のナイフさえも届かないような、圧倒的な「断絶」の気配が漂っていた。「……湊、あんた……」「次、俺の前に立ったら……お前も、その効率的な設計図と一緒に刻んでやる。……あばよ、設計者の『最高傑作』さん」湊は、血溜まりの中に残された白雪の欠片――砕けた光の剣の破片を一つだけ拾い上げると、足を引きずりながら、崩壊した理科室を後にした。背後で001が何かを叫ぼうとして、声を詰まらせる。彼女の「正論」は、湊という「バグ」にはもう一滴も響かなかった。夜の校舎に、湊の重い足音だけが響く。一人、また一人。守りたかった者たちが消えた世界で、佐藤湊は、ただ設計者を地獄へ叩き落とすためだけの「怪物」として、真夜中の街へと消えていった。




