『曝け出される絶望、鏡合わせの叫び』
「――じゃあ、お前は今まで何を見てきたんだよッ!!」001の叫びが、理科室の壁を震わせた。冷静さを装っていた彼女の仮面が、ついに剥がれ落ちる。その瞳には、湊の怒りさえも飲み込むような、底なしの昏い情念が渦巻いていた。「綺麗事だけで済む世界じゃないことくらい、お前だって身に染みて分かってるはずだ! 目の前で誰かが消えるたびに、一いち感情を動かして、復讐だなんだと叫んで……それで何が変わった!? 結局、お前の周りには死体しか残っていないじゃないか!」湊は言葉を失い、喉を詰まらせた。001の言葉は、鋭い刃となって湊の「空洞」を突き刺す。「私は見てきたんだよ! 救おうとした手が届かず、守りたかった笑顔が肉塊に変わる瞬間を……何百回も、何千回もだッ! いちいち心を痛めていたら、明日には自分が消える。だから私は『部品』になった! あいつらの命を数字に置き換えて、感情を殺して、そうやって生き延びて、この腐った世界をどうにか維持してきたんだよ!」彼女の持つナイフが、湊の喉元で小刻みに震えている。それは恐怖ではなく、押し殺してきた慟哭の震えだった。「お前みたいな『新入り』が、私の何を知っているっていうんだ! お前が見てきた絶望なんて、この地獄のほんの一ページに過ぎないんだよ! そんな浅い怒りで、私の、私たちの『割り切り』を否定するなッ!!」001の目から、一筋の涙が零れ落ちる。彼女もまた、かつては誰かを救いたいと願う、湊と同じ「バグ」だったのだ。設計者に屈したのではない。あまりにも多くの死を見すぎて、心を殺す以外に自分を保つ方法がなかった。湊は、自分を殺そうとしているこの少女が、自分自身の「成れの果て」かもしれないと気づき、戦慄する。設計者の真の悪意は、リッパーのような化け物ではなく、こうして善意を挫き、心を摩耗させて、かつての英雄を「無慈悲な執行人」へ変えてしまうことにある。「……何を見てきた、か」湊は、血に濡れた右腕をゆっくりと見つめた。巴先輩の咀嚼音、健太の消失、白雪の涙。それらは確かに「一ページ」かもしれない。だが、湊にとっては、それが世界の全てだった。「……お前の言う通り、俺の見てきたものは狭い。でもな、001。……その一ページに書かれた名前すら守れないで、何が世界の維持だ、何が効率だ」湊の右腕の黒い炎が、静かに、だがより深く燃え上がる。二人の魔法少女が、互いの「地獄」を突きつけ合い、最後の瞬間に向けて深く息を吸い込んだ。




