『復讐の代償、あるいは黒い空虚』
「……効率だの救いだの、お前が語るな」湊の右腕が、黒い雷火を撒き散らしながら膨れ上がった。視界の端で、瓦礫に呑まれかける白雪が手を伸ばしている。だが、湊の瞳に宿ったのは、彼女を救うための光ではなく、目の前の化け物を焼き尽くすための純粋な殺意だった。「お前を殺す。……それ以外に、俺の答えはない」湊は白雪から背を向けた。一瞬、彼女の悲しげな瞳が脳裏をよぎったが、それをどす黒い憎悪で塗り潰す。白雪を助けても、設計者がいる限り絶望は繰り返される。なら、今ここで、この元凶を確実に絶読する。それが、湊が辿り着いた「狂気の論理」だった。「あははッ! そうだ、それでこそ僕が選んだバグだ!!」リッパーが歓喜に叫ぶ。湊は漆黒の鎌を振り上げ、リッパーの喉元にある修復不能な亀裂へと叩き込んだ。「死ねッ!! 死ね死ね死ね死ね死ねえええッ!!!」黒いノイズが炸裂し、上位個体のリッパーが絶叫と共に、今度こそ細胞の一つひとつまで分解されていく。バックアップさえも追いつかない、概念そのものを削り取る一撃。白銀の死神は、最後に醜いノイズを撒き散らし、湊の呪詛と共に消失した。直後、背後で重苦しい音が響いた。「…………ぁ」崩落した天井が、白雪のいた場所を完全に押し潰していた。光の粒子が瓦礫の隙間から溢れ出し、夜の闇へと溶けて消えていく。彼女が最期に何を言おうとしたのか、それを知る術はもうない。湊の右腕から力が抜け、鎌が床に落ちる。仇を討った。設計者の上位個体を、この手で解体した。なのに、胸の空洞は広がるばかりだった。静まり返った理科室。血の匂いと、埃の匂い。湊は一人、血塗られた右腕を見つめながら、暗闇の中で立ち尽くしていた。「……終わったぞ、健太。巴先輩……」独りごちは、虚空に消えた。復讐という唯一の目的を果たした男の背中に、冷たい月明かりだけが降り注いでいた。




