『白銀の殉教、欠陥品の独白』
「……ごめんなさい、湊さん」暗い廊下に消えていく湊の背中に、白雪の呟きは届かなかった。突き飛ばされた手のひらが、冷たい床の感触を覚えている。湊が自分を拒絶したのは、憎んでいるからではない。これ以上、誰も失いたくないという、悲鳴のような優しさだと分かっていた。(でも、お兄さんにこれ以上、人殺しの顔をさせたくない)白雪は立ち上がり、ボロボロになった制服のスカートを払った。彼女の頭上には、依然として赤く点滅する【廃棄処理待機中】の文字。設計者のルールによれば、彼女はもう、存在を許されないゴミだ。だとしたら、ゴミにしかできない戦い方がある。「システム……。聞こえているんでしょ。私の『核』が欲しいなら、取りに来なさい」白雪が空に向かって叫んだ瞬間、理科室の空間が鏡のように割れた。現れたのは、先ほど湊を蹂躙した、あの『上位個体』のリッパーだ。「ほう。バグに見捨てられた端材が、自ら消去を望むかい? 実に効率的で助かるよ」「……消されるのは、私じゃないわ」白雪の胸の奥で、閉じ込めていた光が膨れ上がる。それは設計者に与えられた力ではない。湊の黒いノイズによって変質し、システムが制御不能になった『未知の熱量』。彼女は自分の心臓――魔法少女の核を、自らの手で握り潰すように力を込めた。「湊さんが教えてくれたの。……計算できない『ノイズ』が、あなたたちを地獄に落とすって!」白雪の全身から、眩い白銀の光と、湊から分け与えられた黒い雷火が混ざり合って溢れ出す。「なっ……!? 自爆だと? 莫大なエネルギーの無駄遣いだ、やめたまえッ!!」リッパーが初めて、余裕のない声を上げた。白雪は笑っていた。湊を救うために。湊の代わりに、あいつの予備ごと、この座標を道連れに消滅するために。「さよなら、湊さん。……私のことは、デリート(忘れて)していいから」白雪が光の球体と化し、リッパーに飛びかかる。深夜の校舎を、設計者の想定を遥かに超えた「バグの閃光」が真っ白に塗り潰した。




