『拒絶の慟哭、凍てつく優しさ』
「……嘘だろ」湊の口から、血の混じった掠れた声が漏れた。自分の怒りも、健太の死も、すべてが設計者の「学習データ」に過ぎなかった。地獄に落とすどころか、自分は敵の庭で躍らされるピエロでしかなかったのだ。右腕の黒い異形が、まるで自分を嘲笑う不快な瘤のように感じられた。「あ、はは……。全部、無駄だったんだ……」湊の目から光が消え、漆黒の絶望が瞳を塗り潰す。リッパーは興味を失ったように、無造作に湊を床へ放り捨てた。「エネルギーの抽出には、少し熟成が必要だね。その絶望を、じっくりと味わうといい」白銀の死神がノイズと共に消え、後に残されたのは、血と硝煙が漂う静まり返った理科室だけだった。「……湊さん」震える声と共に、温かな感触が湊の肩に触れた。白雪だった。彼女は自身の傷も顧みず、床に這いつくばる湊に這い寄り、そのボロボロになった体を抱きしめようとした。「湊さん、大丈夫です、まだ……まだ生きてます。私、一緒に……」「――触るな」低く、氷のような声が湊から漏れた。「え……?」「触るなと言ってるんだッ!!」湊は残された力を振り絞り、白雪の手を激しく振り払った。突き飛ばされた白雪が床に手をつき、悲しげに目を見開く。「お前のせいで……お前がいたから、健太は消えたんだ。お前を助けようとしたから、俺はこんな……!」湊は自分の右腕を掴み、狂ったように笑った。「こいつをコーティングなんてしなきゃ、あいつは死ななかった。全部無駄だったんだよ。お前を救ったことも、この腕も……全部、ゴミだ!!」「そんなこと、言わないでください……!」白雪が涙を流しながら再び手を伸ばそうとするが、湊はその目を真っ向から睨みつけた。そこには、かつての巴先輩に向けたような慈しみは欠片もなかった。「消えろ。俺の視界に入るな」湊はふらつきながら立ち上がり、白雪を置き去りにして、闇の深い廊下へと歩き出した。独り、絶望の泥濘の中で。誰の助けも拒絶し、佐藤湊という「バグ」は、自分自身の憎悪だけで世界を焼き尽くすための怪物へと、完全に堕ちていった。




