10 ウイルフリードの真実
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ローズマリーが倒れる半刻前、ウイルフリードの執務室に来客があった。
大姪マーガレット第二王女だ。
名目上は祝いだったが、面倒なくらい絡んでくるこの少女が昔から苦手だった。だが相手は腐っても王女だ。無下にするわけにもいかずやり過ごそうとした。
陛下の娘がマーガレット第二王女で先王の弟の息子がウイルフリードだ。
大叔父に当たるのに年が近いせいかウイルフリードと勝手に呼ぶ。
母親同士が仲が良いので幼い頃はよく王宮に連れて行かれたものだ。
昔から話が合わなかったのに、何故か絡んでくるのがマーガレット第二王女だった。ちなみにシルビアには絡まない。
そんなこともあり王宮から足が遠のいていたが、向こうが成人すると社交場でまた絡んでくるようになった。
シルビアに愚痴ると「拗らせているのね。フィアンセは隣国の女たらしの王子殿下と決まっているのだから三年程の辛抱よ。兄様頑張って」と慰めにもならない言葉を言われるだけだった。
女性が苦手になったのはマーガレット第二王女のせいも多いにあると思っている。
あの日王女は
「ウイルフリードは可哀想な女の子が好きだったのね。庇護欲を掻き立てられたの?虐待された令嬢が貴公子に見初められるって恋愛小説によくあるパターンだものね」と煽ってきた。
「彼女を侮辱するのはやめろ」
「私がきっと幸せにするよとか言ったのでしょう。ベタなセリフねえ。跪いて申し込んだの?」
「勝手に話を作るな」
「私と結婚してくださいと言って薔薇の花束でも渡して手の甲にキスをしたの?」
「それ以上言うと容赦しない。帰ってくれ」
「あら、それは貴族男性として当たり前じゃなくて。駄目よきちんとやらないと。こう言う風にね」
そう言うとマーガレット王女はウイルフリードの手の甲にキスした。
「何をする、やめろ!」
思わず突き飛ばしそうになったが理性で我慢をした。
「ウイルフリードって案外純情だったのね。いやあね、これくらいで赤くなるなんて。おふざけなんだから怒るほうが可笑しいわ。それとも意識したのかしら」
「やめろ、気持ちの悪いことを言うな。愛しているのは婚約者だけだ。私の中では彼女だけが特別だ。彼女以外は誰でも同じだ。これ以上怒らせると私にも考えがある」
「相変わらず素直じゃないのね。今日は帰るわ。じゃあまたねウイルフリード」
「全く話が通じないな。またはない。二度と来るな」
ひどく疲れた。全く気持ちの悪い女だ。手袋越しの手が汚れた気がした。油断も隙もない。ゾッとする。二度と近づくものか。
その時何やら廊下が騒がしいことに気がついた。
ローズマリーが走り去って行ったと聞いたのは付けていた護衛からの報告だった。
護衛によると執務室の前に着いた途端様子が変だったので急いで後を追ったが誰の言葉も届いていなかった様子だったという。
馬車に乗った途端耳を塞ぐ仕草をして普段のローズマリーとは思えなかったそうだ。その後直ぐに意識を無くしたと聞いた。
侍従に話を聞くとローズマリー様があっという間に走り去って行ったのを多勢の
使用人達が見たと報告があった。
私は離宮の使用人に急いで箝口令を出した。
きっとあの女との会話の一部分を聞いたに違いない。我慢の限界だ。
忌々しい疫病神としか思えない。
この際だ。私達に邪な考えを持つ者の出入り禁止の防御魔法を私と離宮全体に張ろう。父上と陛下にもお伝えしよう。もううんざりだと。
その前に伯爵家に行って可愛い婚約者の顔を見て来なければ。
真っ白な顔で眠っているローズマリーは出会ったあの日を思い出させた。
傷が癒えかけていたのに自分が元凶になってしまったウイルフリードは持てる限りの力で婚約者を守ろうと拳を握りしめた。
「おやすみ、ローズマリー」
魘されていた顔が緩んだ。君を守るためならどんな手も使おう。
可愛い、愛しい、守りたい。庇護欲とあの女が言ったが満更外れではなかった。
狂おしいまでのこの感情を人は恋と呼ぶのだろうか。
手に入れたと思った人は余りにも簡単に壊されかけた。
全力で守らなければならない。
私だけのものだと知らしめるにはどうすればいいのだろう。
あの女を二度と目に触れない場所に追いやろう。
二人を引き裂こう等と思わないように。
黒い感情が渦を巻いていた。
そのためには隣国と急いで取引をしなくてはならない。
我が国で流行りかけている疫病の特効薬を隣国は開発していた。
隣国は疫病で多くの民を失い作物が育てられなくなっていた。
薬の見返りが食糧支援だ。
あの女の婚礼を急がせるとしよう。
陛下に進言しなくては。そのまま嫁げば良し。騒ぐのなら考えがある。
ウイルフリードは口の端を上げた。
読んでいただきありがとうございます。楽しんでいただけると嬉しいです。
話が通じない痛い女がマーガレット第二王女です。




