眩しすぎて
朝の陽川駅は高校時代に使っていたよりも賑わいを減らしていた。隼人は柱にもたれかかり、コンビニで買ったおにぎりを頬張る。すると、携帯が鳴り、隼人はすぐにそれに応答した。
「あ、もしもし?」
「あ、喜一? どうした?」
相変わらず喜一ははつらつな様子で、それが電話越しにも伝わってきた。
「そっちは順調?」
「うん。昴も協力してくれて、今から学校と打ち合わせ。あ、このあと昴とも合流するよ」
「そうなんだ! 俺たちもこの後作戦会議ー」
「あ、ちょうど昴来たわ。それじゃあ」
「うん、またね!」
電話を切るとほぼ同時に、昴が手を振って歩いてきた。
「おーう、今日は学校と打ち合わせだっけ?」
「そうそう。剣道部の今川センセーがまだいるらしくて、海渡が繋いでくれたからさ」
「うわ、海渡ナイスじゃん」
隼人は昴と十年前に戻ったように、同じ学校までの道を歩いた。
「茜さーん、入口に知り合い来てますよー」
「知り合い?」
チームメイトに呼ばれ、茜は入口へと向かうと、恵那と澪が待っていた。
「ごめん、急に。練習中だったよね?」
「あー、今は自主練だから大丈夫だよ。どうした?」
茜はタオルで汗を拭いながら、恵那の差し出した連絡先のリストを眺めた。
「あとこの三人だけどさ、なかなか目途が立たなくて」
「あー、この三人って何部だっけ。風花はかるた部だよね」
「そうそう。確か楓と莉子は茶道部とかじゃなかったっけ」
「茶道部か―、咲とか美聡の知り合いに茶道部の人いないか聞いてみる」
「ありがとー! ってかこの後作戦会議しない? 一回整理したいし」
「お、いいよ? あと二時間くらいで練習終わるから、さきにファミレスとか行ってて!」
「おっけー!」
茜は恵那と澪の背に光のようなものを見た。あの夜、丘で約束を延長させてから、皆その背に宿している。茜はその光を見送って練習に戻った。
喜一と悠斗が駅前のファミレスに入ると、奥の広いテーブルの方で零士が手を振っていた。人数の割に広いテーブルをとったなと悠斗が思っていると、予定になかった面々も同じテーブルに座っていた。
「あれ、隼人と昴も? それに篠原さんと高瀬さんも!」
「おー、神田と沢村じゃん」
「なんかみんなここで作戦会議だったらしくて、偶然、全員集合しちゃった」
零士がそう言うと、喜一はこの展開にワクワクして、その感情が顔をから滲み出ていた。その時、入口の扉が鳴り、もう一人背の高い女性が入ってきた。
「ごめーん、遅れたー! ってあれ? みんないんじゃん」
喜一と同じリアクションをした茜に皆、腹を抱えて笑った。それからラストオーダーの時間まで、進捗と、今後の動向について整理したり、考えたりした。それはまるで文化祭のような、皆、あの頃の教室に戻った気になった。何かを目標にして、一致団結する姿は、まるで高校の時に戻ったみたいだ。隼人の言葉を借りれば、陽川高校らしさが出ているというか。夜が更けていくように、彼ら、彼女らの時間もあっという間に溶けていった。
樹里は鈴木の必死で誠実な眼を見て、その本気さを手に取った。その瞳の奥で、あの子たちが精一杯に動き回っている様子が見えるようだ。
「私は、今日これを伝えにここに来た......」
ふわりと湯気が立ち上り、樹里と鈴木の目が合う。
「もう一度、あの場所に戻ろう」
鈴木から真っ直ぐに投げかけられた言葉が、樹里の頭を揺らがせる。私が夢を見て、そして闇に堕ちた場所。そこから必死に安寧だけを作った。せっかく作った波風立たない生活を、もう一度あの場所に戻ることで、自ら壊してしまうのではないか。
「でも......」
樹里はつい、否定する言葉を口に出してしまった。私には、あんなにも眩しい場所にいるべき人間ではない。
「私には、眩しすぎるんです」
しばらく思い出さなかった過去が、頭から溢れ、樹里は思いの丈を述べた。




