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星になれるか

 今日も放課後の体育館には聞き慣れたシューズとボールの音がする。そこに私の声が響くと、続いて部員たちの声も響いた。その声の中には、夏の頃には聞こえなかった声もあった。


 私の視界には、ボールを追いかけ足を動かす部員たちがいた。あの日、先輩から言葉をもらって、今度は逃げずに向き合おうと心に誓った。そして、茉莉たちに話した。そして、茉莉たちは心強いほどに仲間になってくれた。その時感じたのは、この同期に出会えた幸せと、奇跡だった。


「先輩、今日自主練付き合ってもらってもいいですか?」


「うん、いいよ」


 もちろん、後輩たちに自分の声を届けるのはそう簡単にはいかなかった。私の思いを等身大にぶつけて、それで気持ちが変わるほど単純な話ではない。なぜ、後輩たちは本気になれないのか。根本的な問題を探ろうと、何度も伝え、言葉を投げかけた。そして、ある日、私たちは一つの答えにたどり着いた。


「わかった。きっとあの子たちを導くような、強い星がいないんだ。このチームに」


「......道標が見えないってこと?」


「うん。だからきっと、どこに向かって走っていけばいいのか分からないんだよ」


「やっぱり、頷かせるには、言葉だけじゃなくて、行動で見せていかないとってわけね」


 それから私たちは、いつも以上に精を出した。その背中を誰に見せても恥じないように。五人で、後輩たちの星になれるように。そうしているうちに、気づけば後輩たちは声を出すようになった。インターハイという言葉にも笑わなくなった。どういった心境の変化か、詳しいことは聞いていない。それでも明らかに行動が、そして空気が変わった。平和を求めて見て見ぬふりをするのは優しさではなく、本当の優しさには愛が宿る。それは、きっと等身大にぶつかった時に、生まれるものである。






「先輩、お疲れ様でした」


 自主練を終えて、後輩たちと別れ、私は茉莉と帰路に着いた。


「そういえば樹里は、推薦の話どうするの?」


 私は茉莉に言われて、そろそろ高校二年生も終盤であることに気づいた。この時期は人生の岐路。受験をするのか、推薦を受けるのか、それとも別の道に行くのか。私たちが次の道を選ぶ時はもうそこまでやって来ていた。


「うーん、まだ決めてないかな」


 先日の大学主催の大会でベスト4に入ったこともあり、私には推薦の話が来ていた。自分の強みであるバスケットボールを活かした進路選択、決して悪い話ではなったし、確実に大学へ進学できる道ではあった。しかし実のところ、私の中でしっくりは来ていなかった。


「でもさ、急に自分の未来をあと数ヶ月で決めろって言われたってって感じだよね。私も何がしたいんだろうなぁ」


 茉莉が言うことは最もだった。刻一刻と近づくその時までに、何かしらの決断をしなければいけない。それもかなり大きな。その決断によっては、未来が決まってくる。今までは何となく決められたレールに乗って、高校までやって来た。そして唐突に突きつけられる、自分が何をしたいのかという曖昧で重要な問い。その答えは誰も教えてくれなくて自分で探すしかないのが、そしてそれを正解にするのも自分であることが何よりも怖かった。


 私と茉莉はぼんやりと空なんかを見上げてみたりした。特に何かが見えるわけでもない。冬が近づき、空気が澄んでいたのか少しばかり星が綺麗に見えた。







 家に帰ると、いつも通り夕食が置いてあったのでそれを食べ、風呂も済ませた。準備を終え、自室へ戻ろうとすると、ふと兄の部屋から何かが聞こえてきた。


「お兄ちゃん?」


 私は兄の部屋の扉が完全に閉まっていなかったので、その隙間からそっと中の様子を見てみた。部屋の電気はついていない。視線をずらすと、兄の姿が見えた。兄は机に突っ伏しているようだ。そして暗闇の中でノートパソコンの明かりが青く光っている。


 私は居眠りでもしているのかと思ってそっと部屋を後にしようとした。その時、先ほど聞こえた音の正体が分かった。兄は泣いていた。


 私はどうするべきかも分からず、ただ今は触れない方が良い気がして、静かに自室へと戻った。兄の泣いている姿は初めて見た。いつも先を歩いて、自分のやりたいような人生を全うしていると思っていた兄が、あんなに弱った姿をするなんて、私はそれだけで胸が痛んだ。


 何があったのだろうか。私の中でひとつ心当たりがあるとすれば......最近の兄の姿を思い返すと、一つの仮説が浮かんできた。生活習慣が乱れるほどに疲労していた原因は、大学の学生団体。きっと、そこで何かがあったのかもしれない。ベッドに横たわったはいいものの、結局兄のことを考えてしまって眠ることができなかった。そしてとうとう、私は決心して兄の部屋の扉をノックした。右手には温かいスープを持って。

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