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わたしを探して

 私たちの間での最近の流行は、なんといってもSNSから生まれる。その中でも恋愛リアリティショーの切り抜き動画は、よく回ってきて、話題になることもしばしばあった。


「ねえ、今週の見た? もうあれはりゅうととひなこで確定だよね」


「えー、うちはりゅうとじゃなくてひびきって線も睨んでる」


「ひびき? うわ、確かに。ってかひびきって京成高校らしいじゃん」


「え、マジか。そんな身近だったんだ」


 今日も女バスの話題はこれで持ち切り。しかし、実のところ私は、少しも見ていなかった。もちろん、そんなことは悟られるわけにはいかないと、話には乗る。でも情報源はその切り抜き動画くらいだった。


「お、来た来た。んじゃまた、朝練で!」


「うん、じゃあね」


 今日も四人を見送って、我に返る。私はイヤホンをして、スマホで動画配信のサブスクリプションのアプリを開いた。そして、視聴中リストの中から、とある海外のドラマを選んだ。ここから家の最寄りまで十五分。朝見ていた続きを再生する。画面の中で主人公たちが自分とは何かを模索する群像劇が織りなされている。偶然これを見つけてから、私はすっかり見入ってしまった。しかしそれは、エンタメを見た時のワクワクした魅力ではなく、どちらかと言うと、見てはいけないものを見たくなるような、そんな妙な感覚だった。


 今見ているエピソードは、主人公の友達が自分のセクシュアリティを探している回。バイセクシャルだと気づいた主人公を見て、恋愛が分からない自分も、もしかしたらと考え始めたところ。その時、彼は一人の男とキスをする。その瞬間、彼は悟った表情をした。私はその表情を見て、なぜか自分の胸がぐっと押されるような感じがした。きっと彼は......。


――私と、同じだ。


 ちょうど間もなく最寄りに着くアナウンスが鳴り、現実に戻される。私も薄々気づいていた。その時が訪れないこと。その原因は、時間ではない。私だ。私には、欠けているものがあった。今まで何となく靄をかけながら、触れないようにしていた答えに触れてしまった。そして次に私の心に落ちてきた感情は、寂しさだった。







 眠い眼をこすりながら、私は重い体育館の戸を開ける。先に到着していたのは、芽衣と彩葉だった。それから私とほとんど同着で茉莉と弓月もやって来た。


「おっはよー」


「おはよー、あれ、一年生は?」


「今日はまだ誰も来てない感じだね......休みかなー?」


 朝練は、体育館の使用が女子バスケ部に割り振られているだけなので、自主練のようなもの。来るも来ないも、個人の自由ではあった。しかし、他の体育館部活と放課後の体育館を分け合って使っているので、朝とはいえ、体育館が使える時間は貴重だった。今までなら基本、朝練は言わずもがな全員出席だった。しかしそれも今年から変わっていった。


「完全になめられてるよね、私たち」


「まあまあ。あの子たちいないと試合できないし。敵に回すのは避けたいからね」


「私も、部長なのに。空気締められてなくてごめん......」


 私はこの後輩問題に、大きく責任を感じていた。この異変が顕著になったのは、代替わりしてから。私がチームの舵を握るようになってから、朝練の欠席や、練習中の態度は悪化した。人として、そしてプレイヤーとして、大したことないと思われているのかもしれない。上下関係は厳しくあるべきとは思っていないが、今思えば、優しくしすぎたのかもしれない。とはいえ、私も上手く後輩たちと向き合えていないのも確かだった。優しいというよりかは、逃げている。嫌われないように、失わないように、当たり障りない言葉と、一般的なキャプテンらしい言葉を並べて接していた。


 結局、この日の朝練には、とうとう一人も顔を出すことはなかった。


 その日の放課後練習。朝練のこともあってか、少しばかりぎこちない空気感だった。


「そしたら、十分給水で、次は1on1で」


「はーい」


 今の返事も、ほとんど茉莉や芽衣たち。一年生はバリバリタイプの子がいないからだと今までは流していたが、きちんと向き合おうと思えば、正すべきところだった。


「ねえ、ちょっと一年生。集まってくれる?」


 今の言葉は衝動的。いつもとは違う雰囲気に、茉莉たちも視線を向けてきた。私も一度出たら引き下がれない。ぞろぞろと集まった一年生たちを前に、私は震える手を隠して口を開いた。


「えーっと......その」


 その時、ふと後輩たちの目を見てしまった。その目は、あの時と同じ。睨むというより、蔑む。目の奥には冷えた笑いが見えた。きっと、この子たちに私は勝てない。


「声、出していこう......」


「......はーい」


 生半可な返事か帰ってきて、一年生たちは散っていった。その後ろ姿を見て、私は震えた手の中に、敗北感を握った。それは、ただの負けじゃない。人として、キャプテンとしての、大きな敗北だった。

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