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キャラクター

 あっという間に夏がやって来た。熱気で煮える体育館の中、先輩たちの最後の戦いがオレンジ色の光のもとで繰り広げられている。


「茉莉! パス!」


 残り時間は少ない。勝てば最高成績のベスト4。しかし、その望みはわずかであった。走って、走って、手を伸ばして。大好きな、尊敬する先輩たちとの時間に少しでも息を続かせるように、必死になった。私だけじゃない。茉莉も、芽衣も、彩葉も、弓月も。コートにいるかいないかに関わらず、同じユニフォームを着ている者として、一丸となって最後までボールを追いかけた。


「先輩!」


 私のパスは先輩に渡る。先輩はワンバウンドさせ、一歩後ろに下がる。残り時間からしてラストプレー。点差は二点。勝つにはスリーポイントが必須。先輩は最後の希望を乗せて、その手から球を放った。その球は弧を描いて、ゴールへ吸い込まれていく。その刹那がスローモーションのように皆の目に焼き付く。そして、その球は、わずか数センチ手前で落ち、リングに当たってネットを通ることはなかった。


 泣いた。これほど泣いたのはいつぶりだろうか。先輩も、同期も、私も。結果的にはベスト8でインターハイには遠く及ばない。それでも、最後まで諦めなかったこと、そしてやはり、悔しかったことに、皆で涙した。


「あとちょっとだったね......インターハイ」


「悔しいです......」


 ふと、私は涙でおぼれた目を後輩に向ける。その時、私は自分の目を疑った。後輩たちの目には涙どころか、少しの感情も動いていない。それどころか、彼女たちは笑っていた。皆、感情の整理で忙しく、彼女らの素振りに気づいていない。しかし、この綻びが、今後チームにとってどんな影響を及ぼしていくのか、私には危機感しか感じられなかった。






 先輩が引退して、私たちの代になった。キャプテンに選ばれたのは私。そしてチームの目標は今度こそ、インターハイの六文字を定めた。


「先輩、次の試合からは私たちも出れるんですよね?」


「うん。これからは学年関係なく使っていくって、監督が言ってたよ」


 一年生は奇妙なアイコンタクトをとった。やはり、私の感じる違和感は拭えない。


「それにしても、一年生たち。本当にうまいよね」


 茉莉は素直な性格なので、何かに包むことなく自分の思ったことを口にする。だからこそ汚れていなかった彼女の目には、私が感じていた違和感が映っていなかった。


「でも、ちょーっと気持ちが緩いよね。休むことも多いし」


 一方の彩葉や弓月はしっかり者なので、一年生たちの素行に少なからず思うところもあるようだった。


「まあまあ、時代の差ってやつかね。って言っても一年しか変わらないんだけどね」


 芽衣は空気をまとめるのが上手い。三者三様いる個性のひしめくチームスポーツの中で、芽衣のような存在は重要な存在だった。


「まあ、なんかあったら私が言うし。目標は変えるつもりないから! 今年こそ、狙っていくよ」


「樹里が言うと引き締まるよね。さすがキャプテン」


 選抜経験という実力もあるが、私はこんな逸材の中でキャプテンに選ばれた。私にできることは、正義感、責任感、皆の声を芯にするべく強くあること。きっとそれが私のキャラクターだから。






 家に帰ると、私の分の晩御飯がラップにかかってテーブルに置いてあった。また明日も母親はシフトが早番のようで、先に寝たのだろう。今日はそれに合わせて寝たのか、弟の無邪気な声も聞こえてこなかった。


 電子レンジで料理を温め、誰もいないので、いつもは食事に使わないローテーブルでテレビを見ながらご飯を食べようと皿を運んだ時、ソファの陰に隠れていた兄を発見した。


「え、お兄ちゃんいたの」


「ん……あぁ、まぁな。もう11時か、俺も寝るわ」


 ふらふらと立ち上がった兄はそのまま自室へと去っていった。兄は大学の学生団体に入っていて、今年はその執行代らしく、わかりやすく忙しそうにしている。しかし、それは自分のやりたいことだし、朝の怠け具合を見ると、兄が少し羨ましくもあった。


 私はラップをとって立ち上る湯気を見ながら、数秒ぼーっとしてしまった。私は、なるようになる人生を歩んでいる気がする。生まれた時から明るい子で、陽気な性格。スポーツは得意で、勉強も頑張ればできないことはない。確かに自分でも陰気なものよりは陽気な場所が好きだし、性格も得手不得手も違和感はない。ただ一つ、そこから派生したキャラクターだけは、どうも化けの皮をかぶっているような気がして、スイッチが必要だった。いつもは元気に振舞う私も、こうして一人の時間には思いを巡らせるし、本音と建て前は使い分けるし、秘密もあるし、人間観察もする。私は人が思うより、面倒な人間だ。


 私は母親の得意料理であるラザニアを一口頬張り、今はその至福に酔うことにした。

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